上 下
72 / 97
第四章 遠い二人

第七十二話 眷族(リリス視点)

しおりを挟む
(さて、厄介なことになっていますわね)


 現在、わたくしはサクッとロックボーンの頭蓋骨を入手してきた帰りで、屋敷の周りを取り巻く濃厚な魔力に立ち止まっていた。


(悪魔、ですわね。ですが、これは……)


 何にせよ、屋敷に帰らないわけにはいかないと、わたくしは慎重に屋敷へと近づいていく。


(魔力の残滓は濃厚……まだ、悪魔が居る可能性は高いですわ)


 そっと玄関扉を開けて、緊急時だからということで、土足で入らせてもらう。


(屋敷全体に強化魔法をかけていたのが幸いでしたわね。おかげで、どこも壊れていませんわ)


 恐らくは、攻撃魔法を放ったのであろう痕跡もあったが、それで屋敷が壊れているなんてことはなかった。もちろん、集中的に一ヶ所を攻撃され続ければどうなっていたか分からないが、今回は被害も出ていなさそうだった。


「さて、と……あれ、ですわね」


 長い廊下を歩き、いくつもの扉を素通りした後で見つけたのは、黒く盛り上がって蠢くナニカだった。


「悪魔、というよりは、その眷族と考えた方が良いでしょうか?」


 声を上げているというのに、それはわたくしの視線の先で、じっと動かずにボコボコと肉体を波打たせているのみだ。


(恐らくは、シェイラを捕まえることを目的として、命令されているのでしょうね。シェイラを見失ったせいで、動きを止めている、というわけですか)


 命令以上のことができない、意思を持たない人形。しかし、その戦闘能力は、きっと侮れるものではない。


「一気に片をつけましょうか」


 動かないのであれば、こちらから向かうまでだ。わたくしは、自身に身体強化をかけ、異空間から取り出した剣を構える。


「《消滅の光よ》」


 剣に付与するのは、強力な光属性の魔法。悪魔は、総じて光に弱いとされている。それならば、その弱点を突かない手はない。


「《悠久なる光よ》《至高の光よ》」


 その場を光属性に染め上げて、悪魔の周囲に光属性の爆弾をいくつも仕込む。そして……。


「《貫く光よ》」


 光の矢を五十ほど用意し、それを一気に放てば、大きな咆哮が上がる。


「オォォォオォォオォオッ!!」


 ダメージは負ったはずだが、それを感じさせない勢いで、ソイツは飛び出し……爆弾の中に突っ込む形となる。


「ギャオォオッ!!」


 連鎖する爆発に、黒いそれは、肉体の欠片を飛び散らせながら、それでもこちらへと向かってくる。しかし……。


「終わり、ですわ」


 全ての準備が整うまで動かない敵を倒すのは、そう難しいことではない。わたくしは、迫ってきたソイツに、光を纏わせた剣を刺す。


「《終焉の光よ》」


 剣を基点にして放った魔法。光魔法の中でも最上位に位置する広域殲滅魔法。それを、ただこの敵にのみダメージが通るよう集約して発動させれば、ソレは、叫び声を上げることもなく、ボロボロと崩れ去る。


「こんなもの、ですか」


 悪魔の眷族だろうと警戒していたが、案外、楽に倒せた。そう思いながら、わたくしは、シェイラとルティアスが居るであろう自室を目指すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...