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第三章 悪魔

第四十七話 整えられた場

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「それでは、失礼します」


 今日は、小さな夜会の真っ最中。レンドルク家の夜会だ。ベラが部屋から出ていき、私は、ドライム・レンドルクという男性とほぼ二人きりの状態になる。もちろん、扉は開けてあるし、近くには護衛も居るが、それでも、小声で話をすれば誰にも聞かれることはないという状態だった。


「あ、あの、寵妃様」

「私のことは、シェイラとお呼びください」

「シェ、シェイラ様」

「はい」


 緊張した面持ちのドライムに、私は笑顔を浮かべてみせる。
 今は、アルムに頼んで企画してもらったお見合いの真っ最中。ドライム本人にも、その事実は伝えられている。そのため、ドライムは困惑しながらも、息を呑む。


「そ、その、まずは互いのことを話しませんか? まだ、何も知らない者同士なわけですし」

「そうですね。では、問答形式で、お互いに質問しあって答えていきませんか?」

「はい。では、まず私から申し上げても?」

「えぇ、どうぞ」


 そうして、私達は当たり障りのない内容をゆっくりと互いに質問していく。どんな花が好きなのか、趣味は何か、日々の過ごし方は何か、などなど、特に何の問題もない質問が続く。


(……アルム)


 ただ、目の前にドライムが居るというのに、ふとした拍子に考えるのは、全てアルムのことだった。私もアルムもリトルナイトという花が好きだったなとか、乗馬は、アルムの場合は馬に怯えられるから無理だと言っていたなとか、ドライムよりも、アルムの方が執務で忙しいのだな、とか……。


「シェイラ様? やはり、私とでは退屈ではありませんか?」

「っ、いいえ、そんなことはありませんっ」

「さようですか……そうだ、今の時期、リトルナイトは見られませんが、薔薇は多く咲き誇っています。ここの庭園にも見事な薔薇園がありますので、ぜひ、一緒に見ませんか?」

「はい」


 そんな申し出に、私はゆっくりとうなずき、ドライムのエスコートに身を任せる。


(大丈夫、私は、これから新しい恋を始めるのだから)


 今はまだぎこちない関係でも、きっと、仲良くなれる。そして、アルムのことを忘れられる。そう、思っているのに……ここに来る前、唯一私の想いを知るセルグに言われたことが脳裏を過る。


『よろしいですか? シェイラお嬢様。シェイラお嬢様は、竜王陛下の恩人、リリスお嬢様の妹です。多少の我が儘は許されるはずです。いえ、そもそも、このドラグニル竜国の王妃は、特に力を持っている必要などないのです。王の存在こそが絶対。そして、シェイラ様のことを妬む存在が居たとしても、シェイラ様なら切り抜ける力をお持ちでしょう?』


 想いを伝えてみても良いのかもしれないと思わせるセルグの言葉に、それでも私は首を横に振った。好きだからこそ、迷惑はかけたくないのだ。


「……ラ様、シェイラ様っ」

「っ、はい」

「……シェイラ様、やはり、お加減がよろしくないのでは?」

「い、いいえ、ただ、その……少し考え事をしていただけです。我が家にも、薔薇園があったな、と」


 咄嗟に嘘を吐いた私は、直後、その言葉を後悔する。


「薔薇園……シェイラ様は、どこか、他の国の貴族でいらっしゃるのですか?」


 その言葉に、私は思わず息を詰めるのだった。
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