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第三章 悪魔

第四十五話 暗い竜珠殿(ベラ視点)

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 ここ最近、竜珠殿は暗く落ち込んでいる。それというのも、竜珠殿の主たるアルム竜王陛下と、その寵妃であるシェイラ様が憂鬱な面持ちであるためだ。


「デートは失敗、かぁ……」


 私、ベラは、せっかくのシェイラ様の外出の機会が、どうにも失敗に終わってしまったということに、大きくため息を吐く。
 何があったのかは知らないが、陛下もいきなりシェイラ様のお見合いの場を整えようとしだすし、シェイラ様はずっと上の空で食事もままならないし、正直、これ以上どうすれば良いのか分からない。


(陛下も、ビシッとシェイラ様に気持ちをお伝えになれば良いのにっ)


 シェイラ様を振った不届き者に関しては、現在調査中で何も分かっていない。しかし、失恋に一番効くのは新しい恋なのだ。陛下がシェイラ様に求愛すれば、シェイラ様の心も晴れるかもしれなかった。


(でも、一介の侍女が進言するわけにはいかないしなぁ……)


 シェイラ様の外出に関しては、必死だったから進言できたものの、改めてこんな恋愛模様に首を突っ込む形の進言となると、不可能だ。


(とりあえず、シェイラ様には甘いお菓子でも持っていこうっ。確か、チョコケーキを用意してくれるって料理長が言ってたしっ)


 シェイラ様は、この竜珠殿の使用人達からはとても人気が高い。最初は、人間でも貴族だという情報に、また鼻持ちならない女性ではないかと危惧していたものの、実際のシェイラ様はとても優しく、一人一人の使用人を気にかけてくれる方だった。


(私、この職場から離れたくないな)


 平民の私の言葉遣いにも怒ることなく、笑顔を浮かべて気安く話してくれる主なんて、きっとそう簡単には見つからない。そもそも、貴族の竜人の女性というのは気位が高い者が多く、シェイラ様のような性格の方は稀だ。


(チョコケーキっ、チョコケーキっ)


 早くシェイラ様には元気になってもらいたい。そう思って厨房に向かっていると……途中で、何やら使用人用の入り口が騒がしいことに気づく。


「ですから、シェイラ様に会わせることはできませんっ」

「そこをどうか、お願いしますっ」


 チラリとそちらへ視線を向ければ、スラリとした体つきの人間の男が、必死に頭を下げていた。


「何事です?」


 と、そんな騒動を眺めていると、侍女長がやってきて、男をキッと睨むする。


「私は、レイリン王国にて、シェイラ様にお仕えしていた者でございます。この場所にお嬢様がいらっしゃると聞き、一目、お会いしたいと訪ねて参りました」


 そんな言葉を聞き、私は男の名前と特徴を頭に叩き込むと、侍女長に断りを入れて、シェイラ様の元へ急ぐのだった。
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