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第三章 悪魔

第四十四話 間違えた場所(アルム視点)

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(ボクは、どこで間違った……?)


 今日は、ようやく日程を調整し終えて、シェイラと出掛けられる日だった。それがデートと呼ばれるものだと気づいた瞬間、ボクはしばらく悶絶することになったのだが、仕事の合間、とにかく入念にシェイラが気に入りそうな店を調べ上げてみせた。そうして、ようやく叶ったデート……それなのに……。


「お見合い……」


 シェイラは、たまたま街で出会った見合い候補者を気に入ってしまったらしい。そんなことにならないように、シェイラを紹介することもしなかったというのに、それは関係なかったようだ。


「……か………陛下っ」

「っ、何だ?」

「シェイラ様に、本当にお見合いをさせるおつもりですか?」


 執務室に帰ってきて、ぼんやりとしていたボクに声をかけてきたのは、ギースだった。ギースは、フードで顔を隠したままではあるものの、珍しく心配そうな声音だ。


「そう、するしかないだろう。レンドルク公爵家には問題はないし、ドライム本人も……ボクが何となく顔が気に入らなかったこと以外、特に問題はない」


 前に、見合い相手の情報が書かれた釣書を選別する際、唯一いちゃもんに近い感情ではね除けたのが、ドライムだった。勤勉実直で、女性や子供には優しい。家族仲も良好。問題を抱える家族も存在しない。そんな優良物件と見合いをしたいと望まれて、退けることなどできなかった。


「しかし……」

「……ボクじゃ、ダメだ。ボクは、竜王で、正妃となる人には相応の責任がかかる。後ろ楯もないシェイラを正妃に望んだところで、待っているのはシェイラに向けられる悪意の視線だ」


 きっと、シェイラを寵妃のままにすることはできない。寵妃は仮の立場でしかないし、『絶対者』とシェイラを幸せにすることを約束している。どうあっても日陰者の立場となってしまう寵妃では、その約束を果たしたことにはならない。かといって、シェイラを正妃にすることは、それはそれで問題なのだ。


「……」


 ギースは何か言いたげにするものの、それ以上、声を上げることはなかった。


「これで、良い。これで……」


 大丈夫。シェイラの幸せのためならば、身を引くくらいなんともない。そう言い聞かせでもしないと、ボクは、自分が何をしでかすか分からなかった。


(シェイラの幸せは、ボクの隣には、ない。それ、でも……)

「つらい、な」


 立て続けの失恋。しかも、今回は『絶対者』に対する想いよりも、さらに深い想いだったらしく、もう、頭の中がグチャグチャだった。


「すまないが、悪魔の件と同時並行で、ドライム・レンドルクの調査も頼む。問題がなければ、シェイラとの見合いの席を設けることとする」

「……はっ」


 最近の情報を仕入れて、問題がなければシェイラを送り出せる。それは、喜ばしいことのはずなのに、シェイラに対する強い想いが、それを否定する。


「あとは……しばらく、一人にさせてくれ」


 そう命じれば、控えていた影達がそっと部屋から出ていく。
 そうしてボクは、しばらく放心するのだった。
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