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第二章 目論む者達

第三十三話 異変(前半シェイラ、後半アルム視点)

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 気を引き締めて、彼女から情報を引き出してやろうと、私は口を開きかけて、異変に気づく。


(……え?)


 声が、出ない。いや、それだけではない。何だか頭がぼんやりとしてきて、視線が定まらない。


「効いてきたようですね」


 目の前で、竜人の使用人が何か言っているが、それが何を意味するのかすら、フワフワとした思考の中ではまとまってくれない。ただ、一つだけ分かるのは……。


(助け、て……アルム……)


 集中ができなければ、魔法を扱うことはできない。転移も、アルムへの連絡も、実質不可能な状況だ。
 私が最後に見たのは、ニンマリと弧を描く、使用人の口元だった。









「シェイラ?」


 シェイラの魔力が揺らいだ気がして、ボクは書類から顔を上げる。


(気のせい、か?)


 シェイラが転移で逃げ出せることを知ってから、ボクは時々、シェイラの魔力を感知するようにしていた。これを毎回しておけば、どんなに離れていても、相手の居場所が何となく分かるようになると言われている。真実は、無意識に相手の魔力を辿れるようになっているというだけのことだが、これは、もしもシェイラが転移した場合、すぐに魔力を辿れなくなり、転移したという事実に気づける利点もある。


(この場所で、シェイラに何か起こるとは思えないが……)


 それでも、何となく胸騒ぎがする。今の異変を見過ごしてはいけないと、第六感とでも言うべきものが訴えかけてくる。


「……」


 ボクは、無言で立ち上がると、扉に手をかけて廊下に出る。その際、近衛騎士達もついてくるが、特に気にすることなく進む。


(シェイラは、こっちだな)


 意識的に魔力探知を行えば、シェイラの居場所はより具体的に分かるようになる。


(……? あちらは、使用人しか使わない場所のはずだが……)


 どうにも急いだ様子のシェイラは、なぜか、使用人しか使用しない場所へと足を踏み入れようとしている。


「……ヨーク、すぐに、宮殿の封鎖を行え。ネズミ一匹逃すな」

「はっ」


 今日は、近衛騎士団長のヨークが側についていたため、そのヨークに、竜珠殿の封鎖を命じる。そして、その間に、ボクは国王がやることではないと理解しながらも……全力で走り出す。


「っ、陛下!?」


 背後で近衛騎士達の叫び声が聞こえるものの、今は構っている暇などない。


(すぐに助ける。シェイラ)


 恐らくは、シェイラは何者かに拐われようとしている。もちろん、この予測が間違いであるならば嬉しいのだが、今のシェイラの移動速度は、彼女ではあり得ないほどの速さだ。


(間に合えっ)


 すれ違った使用人が転倒するのを内心で詫びながら、ボクは懸命に走るのだった。
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