33 / 97
第二章 目論む者達
第三十三話 異変(前半シェイラ、後半アルム視点)
しおりを挟む
気を引き締めて、彼女から情報を引き出してやろうと、私は口を開きかけて、異変に気づく。
(……え?)
声が、出ない。いや、それだけではない。何だか頭がぼんやりとしてきて、視線が定まらない。
「効いてきたようですね」
目の前で、竜人の使用人が何か言っているが、それが何を意味するのかすら、フワフワとした思考の中ではまとまってくれない。ただ、一つだけ分かるのは……。
(助け、て……アルム……)
集中ができなければ、魔法を扱うことはできない。転移も、アルムへの連絡も、実質不可能な状況だ。
私が最後に見たのは、ニンマリと弧を描く、使用人の口元だった。
「シェイラ?」
シェイラの魔力が揺らいだ気がして、ボクは書類から顔を上げる。
(気のせい、か?)
シェイラが転移で逃げ出せることを知ってから、ボクは時々、シェイラの魔力を感知するようにしていた。これを毎回しておけば、どんなに離れていても、相手の居場所が何となく分かるようになると言われている。真実は、無意識に相手の魔力を辿れるようになっているというだけのことだが、これは、もしもシェイラが転移した場合、すぐに魔力を辿れなくなり、転移したという事実に気づける利点もある。
(この場所で、シェイラに何か起こるとは思えないが……)
それでも、何となく胸騒ぎがする。今の異変を見過ごしてはいけないと、第六感とでも言うべきものが訴えかけてくる。
「……」
ボクは、無言で立ち上がると、扉に手をかけて廊下に出る。その際、近衛騎士達もついてくるが、特に気にすることなく進む。
(シェイラは、こっちだな)
意識的に魔力探知を行えば、シェイラの居場所はより具体的に分かるようになる。
(……? あちらは、使用人しか使わない場所のはずだが……)
どうにも急いだ様子のシェイラは、なぜか、使用人しか使用しない場所へと足を踏み入れようとしている。
「……ヨーク、すぐに、宮殿の封鎖を行え。ネズミ一匹逃すな」
「はっ」
今日は、近衛騎士団長のヨークが側についていたため、そのヨークに、竜珠殿の封鎖を命じる。そして、その間に、ボクは国王がやることではないと理解しながらも……全力で走り出す。
「っ、陛下!?」
背後で近衛騎士達の叫び声が聞こえるものの、今は構っている暇などない。
(すぐに助ける。シェイラ)
恐らくは、シェイラは何者かに拐われようとしている。もちろん、この予測が間違いであるならば嬉しいのだが、今のシェイラの移動速度は、彼女ではあり得ないほどの速さだ。
(間に合えっ)
すれ違った使用人が転倒するのを内心で詫びながら、ボクは懸命に走るのだった。
(……え?)
声が、出ない。いや、それだけではない。何だか頭がぼんやりとしてきて、視線が定まらない。
「効いてきたようですね」
目の前で、竜人の使用人が何か言っているが、それが何を意味するのかすら、フワフワとした思考の中ではまとまってくれない。ただ、一つだけ分かるのは……。
(助け、て……アルム……)
集中ができなければ、魔法を扱うことはできない。転移も、アルムへの連絡も、実質不可能な状況だ。
私が最後に見たのは、ニンマリと弧を描く、使用人の口元だった。
「シェイラ?」
シェイラの魔力が揺らいだ気がして、ボクは書類から顔を上げる。
(気のせい、か?)
シェイラが転移で逃げ出せることを知ってから、ボクは時々、シェイラの魔力を感知するようにしていた。これを毎回しておけば、どんなに離れていても、相手の居場所が何となく分かるようになると言われている。真実は、無意識に相手の魔力を辿れるようになっているというだけのことだが、これは、もしもシェイラが転移した場合、すぐに魔力を辿れなくなり、転移したという事実に気づける利点もある。
(この場所で、シェイラに何か起こるとは思えないが……)
それでも、何となく胸騒ぎがする。今の異変を見過ごしてはいけないと、第六感とでも言うべきものが訴えかけてくる。
「……」
ボクは、無言で立ち上がると、扉に手をかけて廊下に出る。その際、近衛騎士達もついてくるが、特に気にすることなく進む。
(シェイラは、こっちだな)
意識的に魔力探知を行えば、シェイラの居場所はより具体的に分かるようになる。
(……? あちらは、使用人しか使わない場所のはずだが……)
どうにも急いだ様子のシェイラは、なぜか、使用人しか使用しない場所へと足を踏み入れようとしている。
「……ヨーク、すぐに、宮殿の封鎖を行え。ネズミ一匹逃すな」
「はっ」
今日は、近衛騎士団長のヨークが側についていたため、そのヨークに、竜珠殿の封鎖を命じる。そして、その間に、ボクは国王がやることではないと理解しながらも……全力で走り出す。
「っ、陛下!?」
背後で近衛騎士達の叫び声が聞こえるものの、今は構っている暇などない。
(すぐに助ける。シェイラ)
恐らくは、シェイラは何者かに拐われようとしている。もちろん、この予測が間違いであるならば嬉しいのだが、今のシェイラの移動速度は、彼女ではあり得ないほどの速さだ。
(間に合えっ)
すれ違った使用人が転倒するのを内心で詫びながら、ボクは懸命に走るのだった。
1
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
【本編完結】貴方のそばにずっと、いられたらのならばいいのに…。
皇ひびき
恋愛
私は異世界に転生したらしい。
血がつながっているはずなのに、勘違いしてしまいそうなほど、私を家族として愛してくれる兄がいる。
けれど、違う記憶を手にした私には兄妹として、貴方を見ることがうまくできなかった。家族の情ではなく、男性として愛してしまった。
許される恋じゃないのに。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる