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第二章 目論む者達
第二十九話 恋(アルム視点)
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シェイラを部屋に送って、しばらくは事件の事後処理に追われていたのだが、翌日になってもシェイラが目覚めないと聞き、ボクは急いで竜珠殿へと戻る。
「シェイラはっ」
「い、医者の話では、魔力の使い過ぎだと」
「っ」
シェイラ付きの侍女へ問いただせば、緊張した面持ちでそう答える。
一番に思ったのは、『見誤った』ということだった。
普通、魔力が枯渇すれば、誰もがその場に倒れて意識を失うものだ。しかし、稀にではあるが、魔力が枯渇しても少しの間は動ける体質の者が居る。そして、そんな者は、一度眠ったら、魔力が回復するまで目覚めることがない。下手をすれば、そのまま亡くなることだってある。
(ボクがあの時、反対しなければっ)
シェイラが作戦に参加すると言い出した時、否定するのではなく、受け入れて、ボクが監視をしていれば、きっと、シェイラは魔力が枯渇するほどの無茶をすることはなかったはずだ。
「命の心配はないとのことですが、目覚めるのがいつになるかは不明とのことです」
ガチガチに固まったまま、何とかそんな報告をしてくれたベラ。その言葉に、ボクは、深く、深く、安堵する。
「そう、か」
(良かった……)
生命の危機がないと分かるだけで、ボクは心から安心する。しかし、そうなってくると、少しでも長く、シェイラの側に居たい欲求が湧いてくる。
「……執務が終わり次第、また、ここに来る」
シェイラが行ったことは、大きな功績だ。だから、竜王としてのボクは、シェイラを褒めるべきでもあるのだが、その前に、説教をしたい気持ちが強い。無事を確かめたい気持ちが強い。
ベラが頭を下げる姿を完全に見ることなく、身を翻したボクは、すぐにでもシェイラの元に行きたい気持ちを抑えて、早足で歩く。
(ボクは、何を……)
シェイラは、子供ではない。立派な、成人の女性だ。しかも、あの『絶対者』の妹だ。
(シェイラは、ボクの同志で……だから、心配、なのか?)
そう考えると、納得できるような、できないような、不思議な感覚に陥る。
(シェイラ……)
頭に浮かぶのは、シェイラの不敵な笑顔。微笑んだり、目をキラキラさせたり、はしゃいだりする姿。
(……これではまるで、ボクがシェイラに恋をしているみた……い?)
執務室の扉の前に来て、ノブに手を伸ばしたボクは、その状態で固まる。
(………………恋?)
次の瞬間には、その言葉に応えるようにして、心臓がドクリと音を立てる。次第に、顔に熱が集まり、心臓がバクバクと、ごまかしようのないほどに鳴り響き……ボクは、両手で顔を抑えて、しゃがみこむのだった。
「シェイラはっ」
「い、医者の話では、魔力の使い過ぎだと」
「っ」
シェイラ付きの侍女へ問いただせば、緊張した面持ちでそう答える。
一番に思ったのは、『見誤った』ということだった。
普通、魔力が枯渇すれば、誰もがその場に倒れて意識を失うものだ。しかし、稀にではあるが、魔力が枯渇しても少しの間は動ける体質の者が居る。そして、そんな者は、一度眠ったら、魔力が回復するまで目覚めることがない。下手をすれば、そのまま亡くなることだってある。
(ボクがあの時、反対しなければっ)
シェイラが作戦に参加すると言い出した時、否定するのではなく、受け入れて、ボクが監視をしていれば、きっと、シェイラは魔力が枯渇するほどの無茶をすることはなかったはずだ。
「命の心配はないとのことですが、目覚めるのがいつになるかは不明とのことです」
ガチガチに固まったまま、何とかそんな報告をしてくれたベラ。その言葉に、ボクは、深く、深く、安堵する。
「そう、か」
(良かった……)
生命の危機がないと分かるだけで、ボクは心から安心する。しかし、そうなってくると、少しでも長く、シェイラの側に居たい欲求が湧いてくる。
「……執務が終わり次第、また、ここに来る」
シェイラが行ったことは、大きな功績だ。だから、竜王としてのボクは、シェイラを褒めるべきでもあるのだが、その前に、説教をしたい気持ちが強い。無事を確かめたい気持ちが強い。
ベラが頭を下げる姿を完全に見ることなく、身を翻したボクは、すぐにでもシェイラの元に行きたい気持ちを抑えて、早足で歩く。
(ボクは、何を……)
シェイラは、子供ではない。立派な、成人の女性だ。しかも、あの『絶対者』の妹だ。
(シェイラは、ボクの同志で……だから、心配、なのか?)
そう考えると、納得できるような、できないような、不思議な感覚に陥る。
(シェイラ……)
頭に浮かぶのは、シェイラの不敵な笑顔。微笑んだり、目をキラキラさせたり、はしゃいだりする姿。
(……これではまるで、ボクがシェイラに恋をしているみた……い?)
執務室の扉の前に来て、ノブに手を伸ばしたボクは、その状態で固まる。
(………………恋?)
次の瞬間には、その言葉に応えるようにして、心臓がドクリと音を立てる。次第に、顔に熱が集まり、心臓がバクバクと、ごまかしようのないほどに鳴り響き……ボクは、両手で顔を抑えて、しゃがみこむのだった。
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