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第九章 邪王討伐

第百六十話 聖剣

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 元の世界に戻ってきた私達は、しばらく放心した後、先程の光景を思い返して議論を始める。


「とりあえず分かってるのは、邪王が封印された空間があること。そして、恐らくその場所はマリノア城の王の間であること。後は、マリノア城に聖剣を取り出せる空間があるということ、くらいかな?」

「聖剣を取り出したあの部屋が、どこだったのかまでは分からなかったな」

「でも、多分重要な場所として受け継いでいそうですよね?」


 ハミルさんがそっと私の手から本を抜き取り、遠ざけるのを横目に、自分の考えを告げてみる。


「大切な場所、かぁ……王の間以外なら、宝物庫、聖者の間、竜の骨壺、星見の塔辺りが妥当だとは思うけど……あっ、そうだ、ユーカ、これは返しておくねっ」


 ハミルさんから、宝鍵を返されて、私はつい先程の光景にも出てきた宝鍵を感慨深く眺める。


「危険な魔法はなかったのか?」

「うーん、一応、ね。ただ、危険はなさそうだけど、どんな魔法がかけられているのかは不明だって」

「そうか……」


 そんな状態で私に宝鍵を渡すのは不満のようだったけれど、私が宝鍵をギュッと握り締めてジークさんから遠ざければ、ジークさんは諦めたように嘆息する。


「では、まずは宝物庫に向かうとしよう。ユーカ、その鍵は「私が持ちます」……分かった」


 ジークさんが宝鍵を取り上げようとする気配を察知した私は、先にジークさんへ主張する。こればかりは、譲るつもりはない。
 そうして、まずは宝物庫に向かった私は、キラキラと光る宝の山に戦々恐々としながら、交互に色々な場所で宝鍵を回してみる。けれど、手応えは全くない。


「ここは違うか。なら、聖者の間へ向かおう」


 無駄に精神力を削った宝物庫の次は、どことなく神聖な空気を醸し出す教会のような部屋だった。そこでも、色々な場所で宝鍵を回すものの、やはり変化はない。


「うーん、そろそろ夕食で呼ばれる時間だよね……もう、探索は明日に回そうか」


 頑張ってはみたものの、もう、今日は活動できる時間ではなくなってきた。そして、先程からハミルさんはソワソワしているので、もしかしたら仕事が残っているのかもしれないと思い、一時解散ということにした。ハミルさんは、夕食後にまた戻ってきてくれるらしい。


「それじゃあ、また後でね、ユーカ」


 そう言い残して、ハミルさんはさっさと転移でエーテ城へと戻ってしまった。


(……うん、色々あったから、ハミルさんが側に居ないのは助かるけれど……多分、夜は一緒に眠るんだよね……)


 今の段階から、夜の心配をしながら、ジークさんと一緒の夕食を済ませ、部屋へと戻る。部屋では、メアリーが寝間着の準備のため、少しだけ席を外していた。


「後は、竜の骨壺と星見の塔、かぁ……」


 正直、竜の骨壺という場所は非常に気になる。どんな場所か想像できないだけに、興味津々だ。


「早く見つかると良いなぁ……」


 そう言いながら、私は何気なく、宝鍵を回してみる。

 ガチャリ。


「……えっ?」


 明らかに、何かを開いた感触があり、次の瞬間、目の前にあの『建国神話』らしきものの中で見たのと同じ、空間の亀裂が出来上がる。


「嘘……」


 重要でも何でもない、ただの部屋で宝鍵を使用できたことに、私は動揺し……。


「きゃっ」


 その空間の亀裂から、何かが飛び出してきて、思わず悲鳴を上げる。


「ユーカお嬢様!?」


 戻ってきたメアリーが、私の悲鳴に気づいて扉を開け放ち、駆け足で入ってくる。


「ユーカお嬢様、ご無事ですかっ? ……その剣は……?」


 メアリーに言われて、そっと目を開けてみると、そこには一つの剣が自立していた。そう、自立・・だ。


「えっ? ……これって、まさか……」

『初めまして、わたくし、聖剣と申します!』


 そして、剣から何やら言葉が発せられ、どういう仕組みなのか、グニャリとお辞儀をしてくる剣。いや、聖剣。


「聖、剣……? はっ、ユーカお嬢様っ! とりあえずこちらへっ」


 警戒するメアリーと、いつの間にか側に居たライナードさんの元へ向かうと、再び、その声が響く。


『本日は、邪王討伐日和ですね。さぁ、異世界からの贈り人よ。ともに戦いましょう!』

(やっぱり、これが聖剣?)


 言われてみれば、あの光景で見たのと同じ剣だ。けれど、あの光景の中で、聖剣がしゃべっているのは見たことがない。

 ジリジリと後退る私達を前に、聖剣は続ける。


『さぁ、私を手に取ってください。あっ、他の方が手に取るのはお勧めしませんよ?』


 ピョンピョンと跳ねながら近づいてくる聖剣を前に、とうとう、ライナードさんが剣を抜き放つのだった。
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