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第九章 邪王討伐

第百五十九話 再び不思議な世界

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「ユーカ、よくもやってくれたね?」


 ハミルさんを裸にしてしまうというハプニングを経験した後、悶えに悶え、五時間経ってようやく、まだハミルさんを解放していなかったことに気づいた私は、慌ててハミルさんを解放して……現在、自室にて、とってもピンチである。


「ハミル、さん……?」


 どこかギラギラとした視線で私を見てくるハミルさんに、私は後退ろうとして……すぐに、背中に壁が当たってしまう。


「ユーカ、おかげで僕は、五時間、服も着れずに放置されたわけだけど、何か言い訳はあるかな?」


 目が笑っていない状態で笑みを浮かべてみせるハミルさんに、私は知らず知らずのうちに冷や汗を流す。これは、どう考えても私が悪い。


「ご、ごめんなさいっ!」


 謝るしかない私は、とにかく頭を下げる。けれど、ハミルさんはどうやら許してくれないらしい。


「んー、ユーカ。謝るだけなら、誰でもできるんだよ? ここは、誠意を見せてくれなきゃね?」


 そう言って、ハミルさんは私の耳元で、その誠意の見せ方を教えてくれる。


「なっ!」

「ほら、ユーカ。僕は逃げないから、早くしてね?」


 そう言うハミルさんは、もう怒ってはいないのか、何だかニヤニヤとしていて腹立たしい。ただ、私が悪いという事実がある以上、誠意を見せないというわけにもいかない。女は度胸だ。


「っ……ハミルさん、ごめんな、さいっ」


 そう言いながら、涙目で、少しだけ背伸びをして、私はハミルさんの頬にチュッと口づけを落とす。


「っ…………破壊力がっ……」


 しばらく固まったかと思えば、両手で顔を押さえてうずくまるハミルさん。


(……ミッションコンプリート?)


 ハミルさんに言われたのは、『反省してるなら、ユーカから口づけして』だ。だから、間違ったことはしていない。……ものすごく恥ずかしかったけれど……。


「ハミル……」


 どうにか謝罪できたと安堵していると、やたらと低い声で、いつの間にかそこに居たジークさんが声をかける。


「っ、ジークだって、僕が居ない間、ユーカとイチャイチャしてたんでしょ? なら、このくらいは良いはずだよ」

「……今回だけだ」


 悔しそうな表情のジークさんは、今気づいたけれど、本を数冊抱えている。もしかしたら、私と一緒に本探しを手伝うつもりで来たのかもしれない。


「ユーカ、俺も本探しを手伝う」

「あ、ありがとうございます」


 やはり、手伝いに来たらしいジークさんを、私は歓迎する。もうしばらくしたらお茶の時間になるから、そんなに長く手伝ってくれるわけではないだろうけれど、数多の候補を見ていくのはとっても疲れる。ジークさんも手伝ってくれるのは嬉しかった。


「僕も手伝うよっ」


 スッと立ち上がったハミルさんは、私が何か言う前にさっさと机に置かれた本を確認していってくれる。正直、まだハミルさんが近くに居ると心臓が煩いので、そこはありがたかった。


(私も、頑張らなきゃっ)


 そうして、私は机に積み上げられた本を手に取る。『秋元凪の生涯』と書かれた本は、こんな時でなければじっくりと読みたいものだ。
 しかし……パラリと一ページ目を捲った瞬間だった。世界が変わったのは。


「えっ?」

「っ、何だ?」

「転移、じゃなさそうだね……」


 少し拓けた岩場。そこに、ぼろ布を纏った十人以上の男達が、一人の少女を取り囲んでいた。


『やめろっ! シズクを返せっ!』

『ぎゃはははっ、見ろよっ、これが天下の騎士様だっ』

『シズクっ!』


 ぼろ布を纏った男達とは別に、二人の騎士らしき男が離れた場所に居て、必死で叫んでいる。


「これは……ヴァイラン魔国の騎士ではないな」

「うーん、リアン魔国でもないよ」


 白い騎士服を身に纏った二人の男を見て、ジークさんとハミルさんがこっそり会話を交わす。


「……多分、大昔の出来事なんじゃないですかね?」


 普通の声で私が応えると、ジークさんとハミルさんはギョッとしたような視線を送ってくる。けれど、視界の先に存在するぼろ布を纏った男達も、騎士の男達も気づいた様子はない。


「多分、これ、『建国神話』なんだと思います」

「……そうか」


 そのまま目の前の光景を眺めていると、言い争いの末、捕らわれていた少女が殺されてしまう。


『あぁぁぁぁぁあっ!!』

『いやだぁぁぁぁぁあっ!!』


 二人の男の絶叫の直後、ぼろ布を纏った男達は、その二人に蹂躙されることとなる。悪鬼と化した二人の男を前に、数で勝っていたはずの男達は次々に命を散らす。ぼろ布を纏った男達は、ほどなくして全員が息絶えた。


「っ!」

「これ、は……」


 次の瞬間、場面が変わる。場面の変化に慣れていた私と違って、ジークさんとハミルさんは動揺する。けれど……今回ばかりは、私も動揺が強かった。

 あの騎士の男達が、村を襲っていたのだ。虚ろな瞳で、『シズク、シズク』と呟きながら、生きとし生けるものを全て、惨殺していく。


「両翼を失った魔族……か?」

「そう、だろうね……」


 悲しい慟哭が上がる頃、そこには、血の海だけが広がっていた。


(また、場面が……)


 次の場面は、黒目黒髪の少女が、私が持っているのと同じ宝鍵を使うところだった。何の変哲もない部屋で鍵を回した少女は、その中にあった剣を片手に、どこか、ジークさんに似た、一人の緑の髪の男の元へと向かってそれを差し出す。


『万が一、封印ができなければ、これを使ってください』

『これ、は?』

『聖剣らしいです』


 そして、また場面は変わる。今度は、あの二人の騎士が封印されるシーンだった。


『おのれっ、おのれぇっ!』

『シズクを、返せぇっ! 返せ返せ返せ返せ返せぇっ!』


 憎しみに包まれた表情の彼らは、ただただ広いその空間に飲み込まれるような形で消えて行く。


『……終わった……?』

『あぁ、終わった』

『でも、封印はいずれは解けます』

『あぁ、そのために、聖剣も、宝鍵も隠しておくことにしよう。あぁ、この場所と、宝鍵が使える場所は、重要な場所としておかないとな』

『なら、あの部屋を併合して、城でも作りますか?』

『それも良いかもな』


 そこからは、早送りのように城が完成していき、最後には見慣れたマリノア城へと変貌する。


『私の後に来る異世界人は大変ね……手紙を書いておきましょうか』


 そう言って、彼女はペンを片手に少しずつ書き出す。


『異世界から来たあなたへ』


 そんなタイトルを見て、私は、あの予言の手紙だと確信し、それと同時に、彼女こそが秋元凪さんなのだと知る。と、その直後、私達は元の場所へと戻っていたのだった。
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