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第八章 再びリアン魔国へ

第百四十八話 予期せぬ出会い

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 魔力を探知した結果、王の間には魔力の偏りがあることが確認できた。そして、その偏りが何となく見覚えのあるもののような気がして、その輪郭を掴んでいくと、先程のメッセージが書かれていたというわけだ。


「『邪王、双子のこの場にて眠る』、か……」

「十中八九、マリノア城の王の間、だろうね」


 どうやってメッセージを炙り出したのかを説明した後、ジークさんとハミルさんの二人は真剣な面持ちで考え込む。


「でも、『宝鍵ほうけん』はなかったですね」


 ただ、今回探しているのは『宝鍵』だ。もちろん、最初にこのメッセージを見つけられたのは幸先が良いといえば良いのだけれど、『宝鍵』の手がかりは一切なかった。


「まぁ、まだ探索を始めたばかりだしね。これからきっと見つかるよ」

「はい」


 ハミルさんに励まされながら、私達はしばらく王の間で他に手がかりがないか探した後、別の場所に向かうことにした。


「次は、宝物庫に行こうか」


 ただ、何となくその場所は入りづらい気がしたけれど……。

 また両手をジークさんとハミルさんに取られながら、廊下をテクテクと歩いていると、前方から紺色の長髪を持つ美しい男性が歩いているくるのが見えた。


「これはこれは、魔王陛下とヴァイラン魔王陛下」


 私達の姿に気づいた瞬間、その人は深く頭を下げてくる。


「……ベイラン・レイシーか」

「はっ」

(レイシー?)


 どこかで聞いた覚えのある名前に、私は少しだけ考えて、前に私を襲撃した者達の黒幕と目されていた家の名前だと気づく。すぐに、警戒のために辺りに探知魔法を張り巡らせて、じっと事の次第を見守る。


「当主自ら来るなんて、珍しいこともあったものだね?」

(っ、この人が、レイシー公爵家当主!?)


 嫌みなハミルさんの物言いに、ベイランさんは動じることなく、頭を下げたまま淡々と応える。


「この度は、それが役目ですので」

「役目?」

「はっ。伝承を伝える時が来ましたので」


 怪訝そうなハミルさんの様子を見る限り、どうやら伝承が何か、ハミルさん自身も知らないらしい。


「面を上げろ」

「はっ」


 ようやく、ベイランさんに顔を上げる許可を出したハミルさん。けれど、そのベイランさんの灰色の瞳は、鋭く私を貫く。


「っ」


 思わず、握っている手に力を込めると、ジークさんもハミルさんも握り返してくれる。だから、私は取り乱すことなく、ベイランさんを見つめ返すことができた。


「ユーカに何か?」


 殺気をみなぎらせながら問いかけるハミルさんに、ベイランさんは表情の読めない様子でじっと私を見つめ続けた後、懐に手を入れ、ゆっくりと何かの紙束を取り出す。


「ユーカ様とおっしゃったか。あなたならば、この伝承の意味も分かるのではないか?」


 そうして目の前に広げられた紙を見て、私は大きく目を見開く。


『青の輝石は双子石。

輝石を持つ者もまた双子。

緑と黒に挟まれて、青と赤は行き交う。

高く奥深き間にて鎮座する。

鍵はゆうか、ただ一人』


 意味までは分からない。分からないけれど、そこに書かれているのは、紛れもなく日本語だった。


「ユーカ?」

「ユーカ、この言葉はこの前の……?」


 ジークさんもハミルさんも、文字は読めないながらも、これが日本語らしいということには気づいたらしく、気遣わしげに私の様子を見守ってくる。


「これは、我が家に代々伝えられている伝承とともに存在する文章です。伝承は、『黒目黒髪の両翼が来る時、邪王の復活が近い。輝石は宝の鍵となり、討ち破る剣となる』とのことです。では、確かに伝えましたゆえ、私はこれで失礼します」


 呆然とベイランさんの言葉を聞いていると、ベイランさんは紙をハミルさんに手渡し、その身を翻してさっさと立ち去って行こうとする。


「っ、待ってくださいっ! 他にっ、何か伝えられていることはありませんかっ?」

「「ユーカ!?」」


 突然声を上げた私に、ジークさんもハミルさんも驚いた様子ではあったけれど、危険はないと判断しているのか、止めることはない。


「……『鍵はゆうか、ただ一人』とだけ」


 それは、先程の紙にも書いてあることだった。そして、本当にそれ以上は何もなかったのだろう。ベイランさんはもう、立ち止まることなく、歩き去ってしまうのだった。
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