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第七章 舞踏会

第百三十三話 議員と危険な予感

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 会場から少し離れた庭でのんびりしていると、一人の男性がこちらへと近づいてくる。


「初めまして、サクラ様。私は、アロイス・ディードと申します。このヴァイラン魔国にて、議員として働いております」

「初めまして。夕夏・桜です。……議員、ですか?」

「さよう。我々は主に、それぞれに領土を持つ貴族達から様々な資料を集め、分析し、貴族達への指針を示す役割を担っております。また、魔王陛下の伴侶探しのための手伝いなどもさせていただいております」


 『議員』という、この世界では初めて聞く役職に疑問を持てば、すぐに詳しい説明が返ってくる。それは、私が漠然と考えていた議員とは異なったけれど、一つだけ、聞き逃すことのできない言葉が引っ掛かる。


「『伴侶探しの手伝い』……」


 つまりは、この人は婚約者候補の選定なんかを行う人だったのだろう。当然、その決定をひっくり返してしまった私には、何らかの思いがあるはずだ。

 何を言われるのだろうかと警戒していると、アロイス様は困ったように微笑む。


「えぇ、本当に参りましたよ。魔王陛下は、どの婚約者候補にも手をつけてくださらず、ただただ仕事に邁進するのみ。お体をいつ壊されてもおかしくないのに、見つかる片翼は常に魔王陛下を否定している様子。正直、魔王陛下はそろそろ狂ってしまわれるのではないかと危惧していたところでしてな」


 そんなジークさんの過去に関する説明に、まさかそこまでとは思っていなかった私は絶句する。


「ですので、今日、サクラ様がお披露目されたことは、本当に意味のあることなのです。どうか、我らの魔王陛下をよろしくお願いします」


 言い終えると、アロイス様は深々と頭を下げる。


「えっ? あ、あのっ、頭を上げてくださいっ」

「いいえ、どうぞ、よろしくお願いします」

「い、いえ、ですから――――」


 しばらく、頭を上げてほしいという私と、ジークさんを頼むと言い続けるアロイス様との攻防が繰り広げられ……ようやく、うなずけば良いだけだったのだと気づいた私は、すでに周りの目が集中してどうしようもない中、叫ぶように宣言する。


「分かりましたっ。ちゃんと、私はジークさんの側に居ますのでっ。だから、顔を上げてくださいっ」

「おぉぉっ、それは、本当ですなっ! ありがとうございますっ。ありがとうございます」


 一回は頭を上げてくれたものの、またしてもペコペコと頭を下げるアロイス様に、私はとにかく慌てる。けれど、それはすぐに治まって、アロイス様の鋭い緑の瞳に真剣な光が宿る。


「我々議員は、大半の者がサクラ様を歓迎しております。しかし、中には己の娘や孫を魔王陛下の妃としたかった者もおります。両翼ということで、諦めた者がほとんどではありますが、両翼の伝説を信じぬ愚か者もおります」


 そこで言葉を切ったアロイス様は、その鋭い目に力を入れて、静かに告げる。


「魔王陛下方が守ってくださるとはいえ、どうぞ、お気をつけください」

「はい。お気遣い、ありがとうございます」


 アロイス様の言う通り、私に何かあろうものなら、真っ先にジークさんとハミルさんが行動に移すだろう。けれど、本当は何もない方が良い。

 そこまでの話を終えると、アロイス様は満足げに私の前から立ち去る。そして、私はというと……先ほどから、周りの視線がうるさいため、少し場所を移動することにする。騎士は居るけれど、静かな場所へと。薔薇園の奥深くへと、向かう。


 ……ん? これ、誰だろう?


 途中、休憩のために設けられたテーブルと椅子があったため、そこに座って文字通り休憩する。
 騎士達は、一応目の届く範囲には居るし、なぜかルティアスさんもついてきていたため安心していたけれど、そんな中、私の探知魔法は不審な人影を捉える。


 ……厄介事になりそうな予感?


 どうにも、その人影達は、私を囲もうとしているような気がしてならない。自意識過剰と言われればそれまでだけれど、ここに重要人物たりえそうな者は私くらいしかいない。ライナードさんが近くに居れば、もしかしたらジークさんの従兄弟という立場の彼を狙っているのかもしれないと思えたけれど、そんな人物は、一応近くには見受けられない。


 うーん、でも、まだ襲ってくる様子はない?


 気配を完全に消している何者か。人数としては、六人。恐らく、私みたいに常に探知魔法をかけていても、その精度が高くなければ気づくことすらないだろう。


 ここは、この場を離れるべき? それとも、襲ってくるのを待って、撃退すべき?


 選択肢の中に、ジークさんやハミルさんを頼るというものが出てこなかったのは、もしかしたら自信があったからかもしれない。ある程度の攻撃は、自分で防げてしまうし、反撃もできると。

 周りを観察して、騎士達が仕事をしてくれそうだということも確認した私は、とりあえず、そのまま待ってみることにした。
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