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第七章 舞踏会

第百三十一話 純粋な心

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 リノリア様に連れられて訪れた庭は、いつもジークさん達と散歩する区画とは違う場所で、彩り鮮やかな薔薇の花達が咲き誇っていた。


(ふわぁ、ここも素敵……)


 薔薇は、赤や黄色といった単色だけの薔薇ばかりではあったものの、その瑞々しい薔薇達を眺めているだけでうっとりとしてしまう。


「ここの薔薇は、とても素敵ですわよね」


 クスリと笑って声をかけてきたリノリア様に、私ははっと我に返る。


(そうだ。今は、リノリア様とお話しなきゃいけないんだった)

「す、すみません。つい、見とれてしまって……」

「いえ、お気持ちは分かりますわ。ですが、今はこちらへ参りましょう」


 改めて周りを見ながらリノリア様に付き従うと、薔薇園には、騎士達が多く配置してあり、警備は厳重だった。


(だから、ジークさんは私を一人で行かせても大丈夫だって思ったのかな?)


 隣にジークさんもハミルさんも居ないのは少し寂しいと思いつつ、それでも進んでいくと、そこにはお洒落な白いテーブルを囲んで三人の赤、青、黄色の信号色を持った令嬢達が談笑していた。


「皆様、サクラ様をお連れしましたわよ」


 リノリア様のその言葉で、三人の令嬢達は一斉に私の方へと振り向く。無言のまま、彼女達は私をジーっと見つめ続け、私は知らず知らずのうちに冷や汗を流す。


(……えっと……?)


 これはもしかしたら、彼女達は敵なのかもしれない、と思い始めた瞬間だった。


「まあぁっ! 近くで見ると、何てお可愛らしいっ!」

「この方が両翼の君……あぁっ、お会いできて光栄ですわっ」

「こんなに可愛らしいお方が魔王陛下とリアン魔王陛下の両翼だなんて……犯罪です」

「「確かにっ」」

「ふぇっ!?」


 赤、青、黄の順番に発言し、何やら意見が一致したらしい彼女達の言葉にオロオロしていると、すかさず、隣に居たリノリア様からフォローが入る。


「皆様、サクラ様が戸惑っておいでですわよ」

「まぁっ、申し訳ありませんわっ」

「さぁ、こちらにお座りになってっ」

「……お菓子はどれがお好きですか?」


 言われるがままに席に着いて、勧められるがままに美味しそうな焼き菓子を手に取る。甘く、香ばしい匂いに、いつの間にかお腹が空いていたことを自覚した私は、とりあえず手に取ったお菓子を一口齧り……すぐに破顔する。


「「「か、可愛いーっ」」」


 信号色の令嬢達の言葉に、私は一瞬ビクゥッとなるけれど、敵意の欠片もなく、ただただ私を愛でようとしてくる彼女達の様子に力を抜く。


「小動物みたいですわっ」

「あぁぁっ、私、こんな妹が居たら、一日中愛でていられますわっ」

「……サクラ様が齧っているお菓子になりたい」

「「それはダメですわっ」」


 何だか、黄色の髪の人の発言に必ず突っ込まなければならないというルールでもあるのかと思えるほど、黄色の髪の人は何度も突っ込みを受けている。ちなみに、彼女らの角の色は、全て桃色だった。


「あなた達、まずは自己紹介なさいっ」


 と、そんな中、リノリア様が厳しく彼女達に告げる。


「まぁっ、そうでしたわっ! 初めまして、わたくしは、ハンナ・レプリコですわ。どうぞ、お見知りおきを」

「私は、ニーナ・リーシュ。可愛らしいサクラ様とお会いできて、本当に嬉しいですわっ」

「……私は、ミレイ・ノーチェス。サクラ様、撫でても良いですか?」

「「抜け駆けは許しませんわっ!」」


 ワクワクとした様子のミレイ様に、すかさずハンナ様とニーナ様が反論する。
 ……少し、慣れてきたかもしれない。


「申し遅れました。夕夏・桜です。えっと、よろしくお願いします」


 そう言って、笑顔を心がけてみると……。


「「「「はぅっ」」」」


 何やら、隣に座っているリノリア様までもが同じ反応をしているのを見てしまう。


(何か、おかしかったかな?)


 表情筋が仕事をしてくれなかったのだろうかと、ほっぺをムニムニしてみる。


「こ、こほんっ。それでは、一緒に楽しくおしゃべりいたしましょう?」

「あっ、はい」


 何かを耐えるかのようにプルプルとしていたリノリア様にそう言われて、私はほっぺから手を離し、何を話すべきだろうかと思案する。


「サクラ様っ。サクラ様は、魔王陛下とどうやって出会ったのですか?」

「あっ、それ、私も聞きたいですわっ」

「……陛下方が獣になったのかも聞きたい」

「「「自重なさいっ!」」」


 とうとう、リノリア様からも突っ込みを受けるようになったミレイ様。ただ、何がいけないのか分からずに、私は順番に応えていくことにする。


「えっと、ジークさんに出会ったのは森の中で、狼に追われているところを助けていただいたんです」

「まぁっ、何てロマンチックっ」

「魔王陛下は、さぞ格好良かったことでしょうっ」

「それより、獣になったかを……」

「「「お黙りっ」」」


 ハンナ様、ニーナ様、そして、リノリア様に一斉に睨まれるミレイ様。けれど、私はやはり、なぜ止められるのか分からず、正直に答える。


「獣になりましたよ?」

「「「えっ?」」」

「……なるほど」


 信じられないという顔をするリノリア様達と、目をキラキラさせるミレイ様という構図に、何かおかしいと思いながらも続ける。


変化へんげの魔法で、毎日猫さんになってくれるんです。それが、とっても可愛くて……って、どうされましたか?」

「い、いえ、今、ちょっとその純粋さにダメージが」

「「同じく……」」

「……心が、痛い」


 なぜか、プルプルと震え出した彼女達に、私はわけも分からず首をかしげる。しばらくすると、その震えは治まったものの、その後はなぜか、私を守らなければならないという話しになってしまった。


「サクラ様を全勢力をもってお守りすることに致します。異論はありませんわね?」

「「「はいっ」」」


 こんな調子で、リノリア様が仕切ったその場は、謎の盛り上がりをみせるのだった。
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