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第七章 舞踏会

第百二十八話 舞踏会当日準備

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 なぜか、ジークさんとハミルさんのスキンシップが過剰なものに変わってから数日。ようやく、舞踏会当日となって、私は朝からマナーの確認や挨拶の確認、お風呂に入れられたり、香油を塗られたり、ドレスの着付けや髪のセット、化粧を施されたりと大忙しだった。舞踏会自体は午後からだというのに、この世界では朝から忙しくなるのが当たり前らしい。


「つ、疲れた……」


 昼食が終わって、少しだけ時間が空いた私は、だらしなくならない程度に、いつもの部屋で、深く椅子に腰掛けてため息を吐く。
 今の私は、マリンブルーのふんわりとしたドレスに、トパーズのネックレスやダイヤのイヤリングをつけている。何だか、あまりにも高級過ぎるそれらの品に、どこかに落としてしまわないかとっても心配だ。


「お疲れ、ユーカ。とても似合ってるよ」


 そんな私を側で見ていたハミルさんは、あの建国祭の時と似たような軍服っぽい姿で、今回も黒と金を基調とした服になっていてとっても格好良い。どうやら黒と金はリアン魔国の色らしく、正式な場においては型を変えることは許されても、その色以外を纏うことはできないらしい。
 声をかけられたことで、ハミルさんのその姿にぼんやりと見惚れていると、ハミルさんは自然な流れで私の手を取り、チュッと一つ口づけを落としてくる。


「ハ、ハミルさんっ!?」

「ふふっ、赤くなって、可愛い。ねぇ、抱き締めても良い?」

「ダ、ダメですっ!」

「そっか、残念」


 そう言いながら一応は引いてくれたハミルさんだったけれど、側から離れるつもりはないらしい。


「ユーカ、僕達は一応、できるだけユーカの側に居るつもりだけど、多分、色々な挨拶でユーカのところから離れなきゃならないことも出てくると思う。その時は、ちゃんと護衛が見える位置で待機しておくんだよ?」

「はい」


 真顔になったハミルさんに注意を受けて、この注意は何度目だっただろうかと思いつつも、素直にうなずく。どうやら、二人にとって舞踏会という場はあまり好ましい場所ではないらしく、私に危険がないか心配で仕方ないらしい。


(一応、探知魔法は常に展開しておこう)


 心配が的中するようなことは起こってほしくないけれど、もし起こってしまったら、できる限り迅速に行動できるようにしておきたい。


「そういえば、ジークさんは?」

「ん? ジークならそろそろ来るはずだよ……って、噂をすれば……」


 ノックの音がして、現れたのは、建国祭の時のように、赤と緑を基調とした軍服のような格好をしたジークさんで、やはり、その格好良さにホゥッと息を吐いてしまう。


「ユーカ。とても綺麗だ。今すぐ抱き締めて口づけたい」

「はっ、ダ、ダメですからねっ!?」


 なぜか色気を駄々漏れにさせて、とんでもないことを口にしたジークさんに、私は慌てて反論する。


(本当に、どうして最近はこんなにスキンシップ過多になっちゃったの!?)


 両頬にキスをされた辺りの記憶が完全に抜けてしまっている私は、その後から続く二人の猛攻に、少しばかりタジタジになっていた。


(あんまりグイグイこられると、心臓に悪いよぉっ)

「そうか……確かに、今してしまえば化粧が取れてしまうし、ドレスがシワになってしまうな。……舞踏会の後の楽しみに取っておくことにしよう」

「あっ、それじゃあ、僕も、舞踏会が終わったら、抱き締めてキスして、いっぱい啼かせてあげるね」


 なぜか私を介さずに話が纏まりかけて、とんでもない危機感を抱いた私は、どうにか口を挟む。


「ダ、ダメですっ! ほ、ほらっ、舞踏会が終わっても、二人には仕事があるでしょう?」

「そんなもの、すぐにでも終わらせる」

「大丈夫だよ。僕も、そんなに仕事に時間をかけるつもりはないから」


 二匹の肉食獣に狙われた気分の私は、誰か助けてくれないかと周りを見てみるものの、今、部屋の中にはジークさんとハミルさんしか居ない。ここは、私が自分の力で切り抜けるしかない。


「は、恥ずかしいんですっ」

「では、二人っきりでというのはどうだ?」

「それ、僕もちゃんと時間を取ってもらえるんだよね?」

「むろんだ」

「そういう問題じゃないですっ!」

(どうしようっ、ちょっと前までは、ここまで話が通じないことはなかったのにっ。そ、そりゃあ、ジークさんやハミルさんと一緒に居られるのは嬉しい、けれど……)


「ユーカは、僕達と一緒に居るのは嫌?」


 一生懸命反論していると、ふいに、ハミルさんが不安そうな表情で問いかけてくる。


(っ、そ、その表情は反則っ)

「い、嫌じゃ、ない、です……」

「じゃあ、今日のところは、一緒に添い寝からしてみようか。大丈夫。手出しはしないから」

「仕方ない。俺も、それで妥協しよう」


 そう言われてしまえば、私はそれ以上反論できない。きっと、猫姿での添い寝だと思い込んで、私はそれにうなずいてしまう。


「わ、分かりました」

「あぁ。それじゃあ、そろそろ良い時間にもなったことだし、会場へ向かうとしよう」


 満面の笑みを浮かべて手を差し出してきたジークさんに、私はドキドキしながら緊張で少し震える手を乗せる。
 いよいよ、舞踏会が始まる。
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