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第七章 舞踏会

第百二十二話 それぞれの思惑(???視点)

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 とある華やかな部屋にて。

 ジークフリート様は、ヴァイラン魔国一の美丈夫。求婚者は後を絶たず、国内どころか国外から求める声もある。ただ、それだけ求められていながら、かの魔王は一人の女性とも関係を持つことはなかった。
 『片翼の宿命』に悩まされているという噂は聞いたことはあるものの、その片翼は人間とされていて、しかも、噂自体が何百年も前に駆け巡った噂だったため、すでに片翼はこの世に居ないだろう。つまりは、婚約者候補筆頭である私が、ジークフリート様のお子を産むことになる。
 そう考えてから、三百余年。未だに、ジークフリート様からお声がかかることはない。しかも……。


「なんですって! それは本当なのっ!」

「はいっ、招待状には、そのように記述されております」

「っ、何てこと!」


 社交界シーズンの最初に行われるマリノア城での舞踏会。その招待状には、ジークフリート様が己の片翼を紹介するとあった。ビクビクする侍女に怒鳴り付けた私は、そのまましばし、放心する。
 ずっと、ずっと、待ち続けていた。自分の片翼が見つからない苦しみの中、それでもジークフリート様の婚約者候補筆頭という立場で虚勢を張ってきた。それが、その今までの努力が、片翼の存在によって狂ってしまったのだ。


「許せない……そんなの、許しませんわ」


 ジークフリート様の隣に居るのは、私一人だ。それ以外は、認めない。認められない。


「何としてでも、ジークフリート様に振り向いてもらうわっ。アネリ、分かってるわね?」

「っ、はいっ!」


 暗い、狂気を宿した瞳で侍女のアネリへ問いかければ、彼女は震えながら返事をする。


「ふふっ、九日後の舞踏会が楽しみですこと」


 そうして、私は動き出した。その招待状に続きがあることに気づかず。ジークフリート様のお心を得るために。










 とあるファンクラブにて。

 わたくし達は、とある方達を見守る会です。いつもいつも、遠目から見守り、尊いその笑顔で癒されていた者達です。そんなわたくし達に、その日、激震が走りました。


「どういうことですっ!」

「で、ですから、ヴァイラン魔国魔王様と、リアン魔国魔王様に愛される両翼が出現したと」

「あああああっ、何てことなのっ! あのお二方が愛し合うのではなく、その間に両翼が……でっ? その両翼は男? それとも、男? さぁっ、答えなさいっ!」

「ふ、不明でありますっ!」

「ですが、女性であってもあの方々が幸せなら……」

「何を言ってますの! そんなの当たり前ではありませんかっ! ですが、男であるならもっと良いに決まっていますでしょうっ!」

「でもでもっ、女性だったらわたくし達の仲間に引き込めるかもしれないですよね?」

「「「それだっ!」」」


 暗がりの中、一人の会員の提案に一斉に全員が叫ぶ。


「きっと、当日まで性別は分からないでしょうから、今からどちらの場合であっても対応できるようにしますよ!」

「「「承知致しましたっ!」」」


 そうして、わたくし達は活動を開始する。まさか、当日お目にかかるのが、あんなに愛らしい存在だなんて知るわけもなく。ただひたすらに、より美味しくなるか、仲間に引きずり込むかしか考えていなかった。


「ふっ、九日後が楽しみですわっ」


 その活動は、それぞれ夜を徹して行われることとなった。









 とある議会にて。

 その日、魔王陛下からの通達に、ワシは耳を疑って、疑って、疑い尽くして、報告を持ってきた執事に十回ほど聞き返してしもうた。おかげで、ワシは難聴なのではないかとあらぬ疑いをかけられたものの、まだ、そんな歳では…………ありそうだが、まだ違うわいっ。

 議会は、一時騒然としたものの、ようやく陛下が片翼を得られたという事実に喜びをあらわにする者と、苦虫を噛み潰したような顔をする者との二通りに分かれた。

 ワシ? もちろん、大喜びだ。

 陛下が『片翼の宿命』に悩まされていたことは、この議会では公然の秘密となっていた。だから、どんな方法だったかは分からないものの、どうにか片翼を得られたという事実に、まるで陛下の親になったような気分で、それを喜んだ。


「何でも、あのリアン魔国魔王陛下との間の両翼なのだそうだ」

「何と! では、今後、リアン魔国とはさらに良い関係が築けるのではないか?」

「うむ、それはすでに様々な方面で陛下が検討しておられるらしい」

「あぁ、片翼が得られたということは、婚約者候補ももう必要ないであろうな」


 とりあえず、陛下の慶事を喜ぶ者が多かったため、この場ではそんな希望に満ち溢れた言葉が行き交う。


「し、しかし、また何が起こるか分からぬではないか」

「そうじゃっ、せめて、婚約者候補はそのままにしておくべきじゃろうっ。そもそも、相手が子を成せるのかすら分からぬのじゃからのっ」

「ううむ、それは、確かに」

「百年くらい期限を設けて、その間にお子が産まれなければ、また婚約者候補を募る形にすれば良いではないか」

「種族的に、子が成せないのであれば、その時は婚約者候補をそのままにしておくことも考えられるがの」


 そんなことを話し合っているうちに、次第に辺りは暗くなる。久々に舞い込んできた魔王陛下の喜ばしい出来事に、ワシらも舞い上がった自覚はある。そんなこんなで、ワシらは思うのだった。


(九日後の舞踏会が楽しみだわい)
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