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第七章 舞踏会

第百二十一話 女の子の時間

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「それでっ、ユーカはお兄様達のこと、どう思ってるんですのっ?」


 最初のジャブは、的確にクリーンヒットした。

 紅茶とマカロンタワーが用意されたテラスで、アマーリエさんは身を乗り出さんばかりの勢いでキラキラとした瞳を向けてくる。


「あ、あぅぅ」


 どう思っているかなんて、ようやく自覚したばかりなのだ。人に話すなんてことを想定していなかった私は、一気に真っ赤に染まって、言葉に詰まる。もはや、それだけの反応で答えになっているなどということは、今の私には考えられなかった。
 微笑ましいという視線をアマーリエさんだけでなく、メアリー達からも送られているということにも気づけず、私は続く問いかけじんもんに表情を固まらせる。


「では、ユーカ。どこまでいきましたの?」

「ド、ドコマデ?」

「具体的には、手を繋ぐことから始まり、甘いキス、そして、夜のあれこれですわっ」

(『夜のあれこれ』!?)

「アマーリエ様。残念ながら、詳しく確認をしたところ、最後まではいってないものと思われます」

(ちょっと待って、ララっ。『確認』って何!?)

「まぁっ、そうなんですの? でも、その一歩手前までということはあり得なくはないのでしょう?」

(あり得ないっ、あり得ませんからぁっ!)

「そうですよねっ! ユーカお嬢様、私もどこまでなのか聞きたいですっ」

(味方が居ないっ!? いや、でも、まだメアリーが……)


 チラリとメアリーに視線を移せば、そんな私に気づいたメアリーはにっこりと笑う。そして……。


「ユーカお嬢様。お答えにならなくとも、わたくしはあんなことやこんなことがあったのではないか、という推測だけで満足できますよ」

(それが一番危なくない!?)


 ポッと頬を染めて悶えるメアリーに、私は心の中で絶叫する。メアリーの想像の中で、私とジークさん達との関係がどうなっているのか、考えるだけでも恐ろしかった。


「さぁっ、白状なさいっ。ユーカ!」


 全員に興味津々な瞳で見つめられ、味方が一人も居ないと判明したこの状況。私にできるのは、どうにか、素直に話すことだけだった。


「えっと………………………………ハミルさんとは、手は、繋ぎました」


 思い返す限り、多分、そのくらいしかない、はずだ。


「……それ以外は?」


 ただ、アマーリエさんはそうは思っていないらしく、真剣な表情で私に質問じんもんする。


「えっ? えっと……?」

「はいっ、後は、ユーカお嬢様とご主人様達とで行われるお茶会で、『あーん』をしあっていますっ」


 あぁ、そういえば、それもイチャイチャのうちに入るのかと思って、その時の心情を思い出して赤くなる。


「なら、私からも。ユーカお嬢様は、毎晩、ご主人様かハミルトン様に添い寝をしてもらっています」

「まぁっ」

(ちょっと待って、ララ! それ、猫姿のジークさん達だからっ! アマーリエさんに誤解されるからっ!)


 案の定、アマーリエさんは顔をほんのり赤く染めて、私に暖かい視線を送ってくる。


「え、えっと、アマーリエさ「素晴らしいですわっ!」」


 とにかく言い訳をさせてもらおうと思っていると、それを遮るようにしてアマーリエさんが声を上げる。


「きっと、毎晩毎晩、ユーカは甘く啼かされているのですねっ!」

「へっ? いや、その」

「お兄様はヘタレだと分かったばかりでしたが、そうでもないのだと分かって安心しましたわっ」

「ア、アマーリエさん? だから、あの」

「それでっ、ユーカ! 実際どこまでなのか、事細かく教えてくださるんでしょうねっ? わたくしの心の安寧のために、お兄様のことだけでも教えてくださいましっ」


 誤解を解く余裕もないまま、そのタイミングを失った私は、混乱しながらもアマーリエさんの言葉にただただ圧倒される。


「キスはしましたの?」

「し、してませんっ」

「なら、愛撫は?」

「む、無理っ」

「あぁ、なるほど、さりげなく触っているのですねっ」

「さりげなく……」


 そういえば、さりげなく触られることはあるけれど……それは、絶対に『愛撫』ではないはずだ。


「では、契りの儀式まであと一歩といったところですのねっ」

「『契りの儀式』……?」


 なぜ、このタイミングでその言葉が出てくるのだろうかと、ヒシヒシと感じる嫌な予感の元、オウム返しに繰り返す。すると、アマーリエさんの瞳が、信じられないとばかりに大きく見開かれる。


「まさか、お兄様もジークフリート様も説明してらっしゃらないの?」

「ユーカお嬢様のために、際どい恋愛小説を上に上げてしまったご主人様ですから、可能性はあるかと」

「何てこと! それじゃあ、お兄様は進むに進めない悶々とした時間を送っているということになってしまいますわっ」

「ご主人様の気遣いが完全に裏目に出てるのかもしれませんねっ」

「わたくしが、ご主人様に進言しておきましょう」

「よろしくお願いします。メアリー」


 何が何だか分からないけれど、『契りの儀式』とやらは際どい恋愛小説に描かれるようなものらしい。


(そういえば、私が読んでる恋愛小説に、官能的な場面はなかったような……? ということは、『契りの儀式』って、まさか……)

「ちなみにユーカ。契りの儀式は、魔族が片翼を抱いて、魔力循環をさせることで成り立ちますわ。あぁ、抱くというのは、もちろんセックスのことです」


 そんな言葉に、私はピキーンと固まり、そのまま容量オーバーをした頭は、シャットダウン、つまりは、意識を手離すという選択をするのだった。
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