125 / 173
第七章 舞踏会
第百二十一話 女の子の時間
しおりを挟む
「それでっ、ユーカはお兄様達のこと、どう思ってるんですのっ?」
最初のジャブは、的確にクリーンヒットした。
紅茶とマカロンタワーが用意されたテラスで、アマーリエさんは身を乗り出さんばかりの勢いでキラキラとした瞳を向けてくる。
「あ、あぅぅ」
どう思っているかなんて、ようやく自覚したばかりなのだ。人に話すなんてことを想定していなかった私は、一気に真っ赤に染まって、言葉に詰まる。もはや、それだけの反応で答えになっているなどということは、今の私には考えられなかった。
微笑ましいという視線をアマーリエさんだけでなく、メアリー達からも送られているということにも気づけず、私は続く問いかけに表情を固まらせる。
「では、ユーカ。どこまでいきましたの?」
「ド、ドコマデ?」
「具体的には、手を繋ぐことから始まり、甘いキス、そして、夜のあれこれですわっ」
(『夜のあれこれ』!?)
「アマーリエ様。残念ながら、詳しく確認をしたところ、最後まではいってないものと思われます」
(ちょっと待って、ララっ。『確認』って何!?)
「まぁっ、そうなんですの? でも、その一歩手前までということはあり得なくはないのでしょう?」
(あり得ないっ、あり得ませんからぁっ!)
「そうですよねっ! ユーカお嬢様、私もどこまでなのか聞きたいですっ」
(味方が居ないっ!? いや、でも、まだメアリーが……)
チラリとメアリーに視線を移せば、そんな私に気づいたメアリーはにっこりと笑う。そして……。
「ユーカお嬢様。お答えにならなくとも、わたくしはあんなことやこんなことがあったのではないか、という推測だけで満足できますよ」
(それが一番危なくない!?)
ポッと頬を染めて悶えるメアリーに、私は心の中で絶叫する。メアリーの想像の中で、私とジークさん達との関係がどうなっているのか、考えるだけでも恐ろしかった。
「さぁっ、白状なさいっ。ユーカ!」
全員に興味津々な瞳で見つめられ、味方が一人も居ないと判明したこの状況。私にできるのは、どうにか、素直に話すことだけだった。
「えっと………………………………ハミルさんとは、手は、繋ぎました」
思い返す限り、多分、そのくらいしかない、はずだ。
「……それ以外は?」
ただ、アマーリエさんはそうは思っていないらしく、真剣な表情で私に質問する。
「えっ? えっと……?」
「はいっ、後は、ユーカお嬢様とご主人様達とで行われるお茶会で、『あーん』をしあっていますっ」
あぁ、そういえば、それもイチャイチャのうちに入るのかと思って、その時の心情を思い出して赤くなる。
「なら、私からも。ユーカお嬢様は、毎晩、ご主人様かハミルトン様に添い寝をしてもらっています」
「まぁっ」
(ちょっと待って、ララ! それ、猫姿のジークさん達だからっ! アマーリエさんに誤解されるからっ!)
案の定、アマーリエさんは顔をほんのり赤く染めて、私に暖かい視線を送ってくる。
「え、えっと、アマーリエさ「素晴らしいですわっ!」」
とにかく言い訳をさせてもらおうと思っていると、それを遮るようにしてアマーリエさんが声を上げる。
「きっと、毎晩毎晩、ユーカは甘く啼かされているのですねっ!」
「へっ? いや、その」
「お兄様はヘタレだと分かったばかりでしたが、そうでもないのだと分かって安心しましたわっ」
「ア、アマーリエさん? だから、あの」
「それでっ、ユーカ! 実際どこまでなのか、事細かく教えてくださるんでしょうねっ? わたくしの心の安寧のために、お兄様のことだけでも教えてくださいましっ」
誤解を解く余裕もないまま、そのタイミングを失った私は、混乱しながらもアマーリエさんの言葉にただただ圧倒される。
「キスはしましたの?」
「し、してませんっ」
「なら、愛撫は?」
「む、無理っ」
「あぁ、なるほど、さりげなく触っているのですねっ」
「さりげなく……」
そういえば、さりげなく触られることはあるけれど……それは、絶対に『愛撫』ではないはずだ。
「では、契りの儀式まであと一歩といったところですのねっ」
「『契りの儀式』……?」
なぜ、このタイミングでその言葉が出てくるのだろうかと、ヒシヒシと感じる嫌な予感の元、オウム返しに繰り返す。すると、アマーリエさんの瞳が、信じられないとばかりに大きく見開かれる。
「まさか、お兄様もジークフリート様も説明してらっしゃらないの?」
「ユーカお嬢様のために、際どい恋愛小説を上に上げてしまったご主人様ですから、可能性はあるかと」
「何てこと! それじゃあ、お兄様は進むに進めない悶々とした時間を送っているということになってしまいますわっ」
「ご主人様の気遣いが完全に裏目に出てるのかもしれませんねっ」
「わたくしが、ご主人様に進言しておきましょう」
「よろしくお願いします。メアリー」
何が何だか分からないけれど、『契りの儀式』とやらは際どい恋愛小説に描かれるようなものらしい。
(そういえば、私が読んでる恋愛小説に、官能的な場面はなかったような……? ということは、『契りの儀式』って、まさか……)
「ちなみにユーカ。契りの儀式は、魔族が片翼を抱いて、魔力循環をさせることで成り立ちますわ。あぁ、抱くというのは、もちろんセックスのことです」
そんな言葉に、私はピキーンと固まり、そのまま容量オーバーをした頭は、シャットダウン、つまりは、意識を手離すという選択をするのだった。
最初のジャブは、的確にクリーンヒットした。
紅茶とマカロンタワーが用意されたテラスで、アマーリエさんは身を乗り出さんばかりの勢いでキラキラとした瞳を向けてくる。
「あ、あぅぅ」
どう思っているかなんて、ようやく自覚したばかりなのだ。人に話すなんてことを想定していなかった私は、一気に真っ赤に染まって、言葉に詰まる。もはや、それだけの反応で答えになっているなどということは、今の私には考えられなかった。
微笑ましいという視線をアマーリエさんだけでなく、メアリー達からも送られているということにも気づけず、私は続く問いかけに表情を固まらせる。
「では、ユーカ。どこまでいきましたの?」
「ド、ドコマデ?」
「具体的には、手を繋ぐことから始まり、甘いキス、そして、夜のあれこれですわっ」
(『夜のあれこれ』!?)
「アマーリエ様。残念ながら、詳しく確認をしたところ、最後まではいってないものと思われます」
(ちょっと待って、ララっ。『確認』って何!?)
「まぁっ、そうなんですの? でも、その一歩手前までということはあり得なくはないのでしょう?」
(あり得ないっ、あり得ませんからぁっ!)
「そうですよねっ! ユーカお嬢様、私もどこまでなのか聞きたいですっ」
(味方が居ないっ!? いや、でも、まだメアリーが……)
チラリとメアリーに視線を移せば、そんな私に気づいたメアリーはにっこりと笑う。そして……。
「ユーカお嬢様。お答えにならなくとも、わたくしはあんなことやこんなことがあったのではないか、という推測だけで満足できますよ」
(それが一番危なくない!?)
ポッと頬を染めて悶えるメアリーに、私は心の中で絶叫する。メアリーの想像の中で、私とジークさん達との関係がどうなっているのか、考えるだけでも恐ろしかった。
「さぁっ、白状なさいっ。ユーカ!」
全員に興味津々な瞳で見つめられ、味方が一人も居ないと判明したこの状況。私にできるのは、どうにか、素直に話すことだけだった。
「えっと………………………………ハミルさんとは、手は、繋ぎました」
思い返す限り、多分、そのくらいしかない、はずだ。
「……それ以外は?」
ただ、アマーリエさんはそうは思っていないらしく、真剣な表情で私に質問する。
「えっ? えっと……?」
「はいっ、後は、ユーカお嬢様とご主人様達とで行われるお茶会で、『あーん』をしあっていますっ」
あぁ、そういえば、それもイチャイチャのうちに入るのかと思って、その時の心情を思い出して赤くなる。
「なら、私からも。ユーカお嬢様は、毎晩、ご主人様かハミルトン様に添い寝をしてもらっています」
「まぁっ」
(ちょっと待って、ララ! それ、猫姿のジークさん達だからっ! アマーリエさんに誤解されるからっ!)
案の定、アマーリエさんは顔をほんのり赤く染めて、私に暖かい視線を送ってくる。
「え、えっと、アマーリエさ「素晴らしいですわっ!」」
とにかく言い訳をさせてもらおうと思っていると、それを遮るようにしてアマーリエさんが声を上げる。
「きっと、毎晩毎晩、ユーカは甘く啼かされているのですねっ!」
「へっ? いや、その」
「お兄様はヘタレだと分かったばかりでしたが、そうでもないのだと分かって安心しましたわっ」
「ア、アマーリエさん? だから、あの」
「それでっ、ユーカ! 実際どこまでなのか、事細かく教えてくださるんでしょうねっ? わたくしの心の安寧のために、お兄様のことだけでも教えてくださいましっ」
誤解を解く余裕もないまま、そのタイミングを失った私は、混乱しながらもアマーリエさんの言葉にただただ圧倒される。
「キスはしましたの?」
「し、してませんっ」
「なら、愛撫は?」
「む、無理っ」
「あぁ、なるほど、さりげなく触っているのですねっ」
「さりげなく……」
そういえば、さりげなく触られることはあるけれど……それは、絶対に『愛撫』ではないはずだ。
「では、契りの儀式まであと一歩といったところですのねっ」
「『契りの儀式』……?」
なぜ、このタイミングでその言葉が出てくるのだろうかと、ヒシヒシと感じる嫌な予感の元、オウム返しに繰り返す。すると、アマーリエさんの瞳が、信じられないとばかりに大きく見開かれる。
「まさか、お兄様もジークフリート様も説明してらっしゃらないの?」
「ユーカお嬢様のために、際どい恋愛小説を上に上げてしまったご主人様ですから、可能性はあるかと」
「何てこと! それじゃあ、お兄様は進むに進めない悶々とした時間を送っているということになってしまいますわっ」
「ご主人様の気遣いが完全に裏目に出てるのかもしれませんねっ」
「わたくしが、ご主人様に進言しておきましょう」
「よろしくお願いします。メアリー」
何が何だか分からないけれど、『契りの儀式』とやらは際どい恋愛小説に描かれるようなものらしい。
(そういえば、私が読んでる恋愛小説に、官能的な場面はなかったような……? ということは、『契りの儀式』って、まさか……)
「ちなみにユーカ。契りの儀式は、魔族が片翼を抱いて、魔力循環をさせることで成り立ちますわ。あぁ、抱くというのは、もちろんセックスのことです」
そんな言葉に、私はピキーンと固まり、そのまま容量オーバーをした頭は、シャットダウン、つまりは、意識を手離すという選択をするのだった。
25
お気に入りに追加
8,108
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
幸せなのでお構いなく!
棗
恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。
初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。
※なろうさんにも公開中
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
竜王の加護を持つ公爵令嬢は婚約破棄後、隣国の竜騎士達に溺愛される
海野すじこ
恋愛
この世界で、唯一竜王の加護を持つ公爵令嬢アンジェリーナは、婚約者である王太子から冷遇されていた。
王太子自らアンジェリーナを婚約者にと望んで結ばれた婚約だったはずなのに。
無理矢理王宮に呼び出され、住まわされ、実家に帰ることも許されず...。
冷遇されつつも一人耐えて来たアンジェリーナ。
ある日、宰相に呼び出され婚約破棄が成立した事が告げられる。そして、隣国の竜王国ベルーガへ行く事を命じられ隣国へと旅立つが...。
待っていたのは竜騎士達からの溺愛だった。
竜騎士と竜の加護を持つ公爵令嬢のラブストーリー。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる