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第六章 建国祭

第百十二話 刺客達

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 それは、ふとした思いつきだった。ヘルジオン魔国で、伝音魔法を使用していたことを思い出した私は、建国祭三日目の、ハミルさんとのお出かけの際に、探知魔法を使いながらの伝音魔法の使用を行った。ハミルさんからは、探知魔法を使う必要はないようなことは言われたけれど、どうしても気になる私は、それを使うことにしたのだ。


(レイシー公爵家が怪しいかな、と思ってたからでもあるんだけれど、ね)


 アマーリエさんに教えてもらったハミルさんの昔話の中に、レイシー公爵家は度々登場した。何でも、パミーユ様の母親が、レイシー公爵家出身の魔族で、パミーユ様の家であるラグナー侯爵家はその庇護を受けていたらしい。
 ただ、私が注目したことは、他にもある。その、レイシー公爵家現当主の娘というのが、ハミルさんの婚約者候補になっているというのだ。そして、その彼女は、婚約者候補筆頭ではないものの、それなりに上位の地位にあり、ハミルさんの婚約者になるべく努力しているという。


(魔国と呼ばれる国は、大体血統主義らしいのに、公爵家の娘が、身分として劣る侯爵家の娘に筆頭の座を掠め取られてる状況が、どうにも怪しいんだよね)


 アマーリエさんに聞いても、レイシー公爵家の娘に筆頭の座につけないほどの欠点はないとのことで、ますます怪しかった。話に聞く限り、レイシー公爵家は野心家の家で、嬉々として婚約者候補筆頭の座につこうとするはずなのに、それをしない。それは、目立たない位置について、何らかの機会を伺っているようで、不気味にすら思える。


(恐らく、レイシー公爵家には、クリント侯爵家を追い落とすための秘策がある。そして、そのためには、私という存在はとっても都合が良いはず)


 レイシー公爵家にとっても、クリント侯爵家にとっても、ハミルさんの片翼である私の存在は邪魔者だ。もしも、レイシー公爵家がクリント侯爵家をそそのかして、刺客を送り込みでもすれば、そして、私がその刺客に殺されるようなことがあれば、レイシー公爵家にとっては私を消すだけではなく、クリント侯爵家を陥れることもできて、一石二鳥だ。
 ついでに、パミーユ様の家でも婚約者候補を出しているようだから、使ってくるかもしれない。

 そんなことを考えながら、けれど、目の前の雑貨にはしっかりと集中して、私は辺りを探る。


(まぁ、私の推理は間違ってる可能性もあるから、何もない方が良いんだけれど、ね)


 所詮は、ちょっと情報を集めた程度の私に、正確な推理ができるはずもない。特に怪しい様子も見られなかったため、安心してウインドウショッピング……のつもりが、なぜかハミルさんに『買いたいものは遠慮なく言ってよ』と期待した目で見られたため、買い物をすませて、外に出る。と、次の瞬間、何やら不快な魔力が辺りに漂っていることに気付き、すぐに探知魔法と伝音魔法でその正体を探る。
 ハミルさんもハミルさんで立ち止まり、誰か知らない魔族の男性と話し始めてしまう。ただし、私を庇うようにハミルさんが前に出て対応していた。
 ふいに、『デート中』なんて言葉を聞いた時は思わず赤面してしまったけれど、その直後、私は不穏な気配の正体を見つけ、伝音魔法でそこの会話をこっそりと聞いてみる。


『穢れた王に人間の娘とは、お似合いじゃないか』

『しかも、人間は黒目黒髪ときたもんだ』

『まぁ、人間の方は今から死んでもらうがな。王の絶望した姿が楽しみだ』


 聞き取れたのは、そんな会話のみ。けれど、それだけで、私は十分だった。十分に、怒る理由足り得た。


(ハミルさんを傷つけるなんて、許さないっ)


 会話のあった場所から魔法が来るのが分かっていた私は、すぐに結界を張って、自分の身を守る。そして、直後、叔父だと言っていた魔族が短剣を取り出すのが見えた私は、ハミルさんにも結界を張る。……最初の私の結界は、ハミルさんの結界のおかげで作動することもなかったし、ハミルさんへの結界も、ハミルさんなら十分に自分を守るための対処をできたのだろうけれど、私の結界のままにしてくれた。そんな、ちょっと情けない状態ではあったけれど、とりあえず、魔法が飛んできたことによって、一気にパニックに陥った街から脱出しなければならなさそうだ。


(もちろん、刺客は捕まえるけど)

「大丈夫ですか? ハミルさん」

「う、うん。ありがとう、ユーカ」


 どこかたじたじの様子のハミルさんを不思議に思いながらも、私は叔父だという人をハミルさんに任せることにして、逃げ始めた刺客達を探知魔法でしっかり追跡する。もちろん、護衛に来ていた人達も刺客の三人を追っているものの、街の混乱のせいで上手く追跡できている様子はない。


「……うん、釣り上げよう」


 イメージするのは、巨大な釣竿。しかも、自動追尾式で、一度巻き付いたら絶対に離れないような、しかく達にとっては悪夢以外の何物でもない釣竿。

 ハミルさんが叔父さんと話している間に、魔力を一気に練り上げる。何やら、後ろから『姉上を狂わせた忌み子』だの、『お前など生まれてこなければ良かったのだ』だのと聞こえて、そちらにもかなりの怒りを覚えたものの、ハミルさんは自分で対処するつもりのようだったから、どうにか自分をなだめて任せることにする。
 そして、可視化できるほどに濃密な魔力を込めた釣竿を完成させた私は、先端が遥か天空にあるそれを小さくしならせると、三人の刺客に向かって放つ。釣竿の糸の部分は、風魔法で作り上げた縄となっているため、きっと上手く刺客達を釣り上げてくれるはずだ。
 数秒後、確かな手応えを感じた私は、両手を広げてもまだ足りないくらいに太い、天空に向けてそびえ立つ釣竿に魔力を送り、一気にリールを引き上げる。


「「「ぎゃあぁぁぁあっ!!!」」」


 直後、三つの悲鳴が響き渡り、とんでもない勢いで三人の刺客達は釣り上げられ……天空に三つの点として存在する頃になると、抵抗の感覚もなくなり、街には静けさが戻るのだった。
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