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第六章 建国祭

第百十一話 叔父(ハミルトン視点)

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 魔法照明の薄明かりが照らす、大小様々な雑貨。お祭り価格で値段がいつもよりいくらか下がったものが展示してあるここは、特に女性向けの可愛らしい雑貨が置いてあることで有名な店であり、レイシー公爵家が経営する店でもある。


(母上の家、ラグナー侯爵家は、レイシー公爵家の分家の一つ……もしかしたら、今回、ユーカを狙っている黒幕になるかもしれないんだよなぁ)


 キョロキョロと辺りを見渡して、可愛い雑貨を興味深そうに眺めるユーカを見ながら、僕は辺りを警戒する。


(さすがに、ここで事件を起こすほど、レイシー公爵家はバカじゃないはずだから、何もないとは思うけど……敵地である可能性がある以上、警戒するに越したことはないしね)


 もしかしたら、黒幕はもっと別の家かもしれない。しかし、黒幕である可能性がある家の傘下にある店というのは、居心地が悪いものだ。


「ハミルさん? やっぱり、あまりこういうお店に居るのは嫌ですか?」


 ただ、そんな様子を、僕はユーカに誤解させてしまったらしい。いつの間にか振り向いていたユーカに問われて、僕は慌てて取り繕う。


「ううん、そんなことないよ。ユーカにどんなものが似合うか考えるだけで楽しいよ」

「そ、そうですか?」


 実際、有名店なだけあって、品揃えも品質もとても良いものばかりだ。もちろん、その分値も張るが、ユーカのためならこのくらい、安いものだ。


「これなんか、どうかな? ユーカはあまりアクセサリーをつけてくれないけど、これは普段使いにもできそうだよ」


 ユーカに、黒猫つきのクローバーのネックレスを差し出すと、ユーカは小さく『可愛い』と呟く。


(うん、これは買いだね)


 ユーカは、見るだけ見て元に戻してしまったが、僕は近くに居た護衛に連絡を取り、後で買って届けるように伝えておく。本当は、従者にそういったことを頼むものだが、今日は連れてきて居ないため、仕方ない。

 一通り見て回って、ユーカは一つだけ、猫柄の小物入れをねだってくれたため、快く支払いを済ませる。……けっして、ユーカに何かねだってほしいと強要したわけでは、ない、と思う。

 無事に買い物を終えて、襲撃がなかったことに安心して街へと再び出ると、視界の端に、誰か見覚えのある顔があったような気がして魔力を探る。


(っ、叔父上っ?)


 そこに居たのは、パミーユの弟にして、自分の叔父に当たる人物。レイ・ラグナーだった。


(こっちに来るっ)


 自分に気づいた様子で、こちらに向かってくるレイに、僕はどうにか回避できないかと頭を回転させるものの、ここで逃げるわけにもいかない。そうして、レイは目の前まで来てしまった。


「これはこれは、あなた様ともあろうものが、このようなところに居るなど……パミーユに泣かれてしまいますぞ?」

「お久しぶりですね。レイ叔父上。しかし、今は僕、デート中なので、遠慮してもらえませんかね?」


 ユーカの手をしっかりと握り、警戒を最大にする僕の様子に、ユーカは違和感を覚えたようではあったが、どうやら、ユーカは『デート』の一言に赤面しているようだった。


(うん、可愛い……じゃなかった)

「デート? そこの人間と、ですか? 失礼だが、どこの家の者なのですかな? これでも、私は人間の国の貴族くらいは知っているのでね」

「ユーカは貴族じゃないよ」

(いや、もしかしたら、貴族かもしれないけど)

「ほうっ、それはそれは……我が甥は良い趣味をしているらしい」


 いちいち嫌みったらしいレイの言葉に、僕はさっさと振り切ってユーカに癒されたい気分に襲われるものの、ユーカを貶されたまま引くつもりはない。


「叔父上は、叔母上と上手くいっていないと聞きましたが、やはり、政略だけの婚姻を繰り返す家は違いますね。僕は、魔族らしく愛に生きていますので、人間であるユーカ以外なんて考えられません」


 直訳すれば、『上手くいっていないお前のところと一緒にするな。片翼こそが至上である魔族の生き方に反する者に、片翼であるユーカを罵倒する資格なんてない』といったところだろうか?
 そんな言葉に、レイは顔を歪め、しかし、次の瞬間、満面の笑みを浮かべる。その様子に、ゾワリと嫌な予感がした直後だった。ユーカが結界を自分の周りに張り巡らし、そこに、強力な闇魔法が背後から襲いかかったのは。


「ユーカっ!」


 咄嗟に僕も結界を張って、ユーカを守る。その様子に、小さな舌打ちが聞こえ、直後、僕の周りにもユーカの結界が及び、何かを弾いたような音が聞こえる。見れば、レイが僕に向かって短剣を突き出し、弾かれたところだった。


「大丈夫ですか? ハミルさん」

「う、うん。ありがとう、ユーカ」


 ただ……なぜだろう、今、目の前に居るユーカは、何やらとんでもなく怒っているように見えた。
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