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第六章 建国祭
第百七話 捕縛(ハミルトン視点)
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「それで? さすがにもう吐かせることには成功してるよね?」
ユーカを急いで連れて帰った後、僕は拷問官の男の元へ赴き、にっこりと笑って催促する。今回、刺客達は明らかにユーカを狙っていた。恐らくは、昨日の刺客達もそうだったのだろう。
「は、はいっ! 刺客達の主は、クリント侯爵だと判明いたしましたっ!」
ガタガタと震えて報告する拷問官に、僕は威圧が過ぎたことを自覚して、それでも抑える気にならないまま、問いかける。
「ふぅん? 手引きした者の情報は?」
「すすすす、すでにっ、警備隊に捕縛に向かわせましたっ。アルド・ヒューズが裏切り者だと断定しておりますっ!」
「そう」
アルド・ヒューズは、確か平民出の騎士だったはずだ。それがどうして、ユーカを狙う者達の仲間入りをしたのかは知らないが、許せることではない。
二度も楽しいデートを邪魔された僕は、端的に言って、とても苛立っていた。
「クリント侯爵……そういえば、昨日ユーカに暴言を吐いていたのは、クリント侯爵夫人だったね……一族郎党処刑が妥当かな?」
ユーカを害するような貴族など、この国には必要ない。すぐに執務室へと戻り、処刑のために捕縛の手配を進める。処刑は、ユーカがこの国に居ない間にしておこうとは思うものの、このままのさばらせておくつもりなどない。今日中に、ユーカを害した者達は捕らえるつもりだ。
「クリント侯爵家の捕縛、完了いたしました」
手配して一時間もしないうちに、執務室でロウからその報告を受けた僕は何事もなく捕縛が終わった事実に少しだけ力を抜く。これで、ユーカに刺客を送る者が居なくなったはずだ。そう、そのはず……。
スミス子爵家とフーシェ子爵家にもそれぞれ騎士達を送り込み、夫人達を捕縛したとの報告を受ける。これで、ユーカを傷つけた者はすべて捕らえたこととなる。
ただ、全てが片付いたはずだと思いつつも、どうにも腑に落ちない。ユーカが僕の片翼であるなどという情報は、たかだか侯爵家ごときが簡単に入手できるような情報ではなかったはずなのだ。いかに裏切り者がいたのだとしても、それは平民上がりの一般騎士。そんな存在が、ユーカのことを知るはずがなかったのだ。
「黒幕を捕らえるまでは、安心できそうにないな」
せっかく、ユーカと二人で過ごせる機会なのに、ことごとく刺客によって潰されるつもりはない。建国祭の間に全てを終わらせることはできるかどうか不明だが、それでもやるしかない。
「お兄様、少しよろしいですか?」
そうして、黒幕の正体を探るべく、新たな指示を出している最中、アマーリエが部屋を訪ねてくる。
「うん、何かな? アマーリエ」
アマーリエは、ユーカの護衛についていたはずだが、こうやってここに来れたということは、休憩時間か何かなのだろう。もしかしたら、今日の刺客についての情報でも持ってきたのかもしれない。
「お兄様。落ち着いて聞いてください。ユーカが、また刺客に襲われました」
「何だって!? ユーカはっ、ユーカは無事なんだよねっ!」
あまりにも間隔を置かずに現れた刺客。僕はとにかくユーカのことで頭がいっぱいになって、気づけばアマーリエの胸ぐらを掴み上げそうな勢いで迫っていた。
「大丈夫ですわっ。怪我一つしていませんっ」
「そ、そう。良かった……本当に、良かった……」
叫ぶようにして答えたアマーリエに、僕は情けない声でその心情を表す。
「お兄様。刺客は、このエーテ城に侵入してきました。戦った感覚としては、それなりの手練れではありますが、エーテ城の防衛を突破できるようには思えませんでした」
「……つまり、城の内部に内通者が居ると?」
「はい、それも、かなりの権力を有した者だと思われます」
アマーリエの言葉は、嫌な予感だけを抱かせた。黒幕は恐らく、同じ王族か、公爵家の者、といったところだろう。現在、公爵家は五つあり、その中の一つが黒い噂のある家だ。もしかしたら、そこがユーカに刺客を送ってきているのかもしれない。
「ユーカは、今回の刺客には気づいていません。そして、刺客はわたくし達に敵わないと判断して、自害してしまいました。生け捕りにできず、申し訳ありません」
アマーリエは謝罪してくるものの、僕はそれを責めるつもりはなかった。確かに、手がかりが一つ消えたのは痛いが、ユーカの安全が優先だ。
「話は分かった。とりあえず、僕はあの公爵家をあたってみることにするよ」
「レイシー公爵家、ですか?」
「うん、ちらほらと黒い噂があるところだからね。一応、疑いの目は向けておこうと思う」
「そうですわね。ですが、その……レイシー公爵家の手口としては、少し荒いような気もします。他もあたった方がよろしいかと」
「うん、そうするつもりだよ」
「差し出がましい口をきき、申し訳ありません」
その程度のことで怒るわけがないのに、アマーリエは律儀に謝罪する。
「構わないよ。さて、明日までに、できるだけ絞っておこう。そうして、明日こそは、ユーカとのんびりデートしたい」
「ふふっ、そうですわね。わたくしも、未来の義姉様のために協力は惜しみませんわ」
ユーカが魔力過多症のため、寝る間も惜しむ、ということはできなかったものの、それでもできうる限りの情報を集めた僕達は、明日こそは尻尾を掴んでみせると意気込むのだった。
ユーカを急いで連れて帰った後、僕は拷問官の男の元へ赴き、にっこりと笑って催促する。今回、刺客達は明らかにユーカを狙っていた。恐らくは、昨日の刺客達もそうだったのだろう。
「は、はいっ! 刺客達の主は、クリント侯爵だと判明いたしましたっ!」
ガタガタと震えて報告する拷問官に、僕は威圧が過ぎたことを自覚して、それでも抑える気にならないまま、問いかける。
「ふぅん? 手引きした者の情報は?」
「すすすす、すでにっ、警備隊に捕縛に向かわせましたっ。アルド・ヒューズが裏切り者だと断定しておりますっ!」
「そう」
アルド・ヒューズは、確か平民出の騎士だったはずだ。それがどうして、ユーカを狙う者達の仲間入りをしたのかは知らないが、許せることではない。
二度も楽しいデートを邪魔された僕は、端的に言って、とても苛立っていた。
「クリント侯爵……そういえば、昨日ユーカに暴言を吐いていたのは、クリント侯爵夫人だったね……一族郎党処刑が妥当かな?」
ユーカを害するような貴族など、この国には必要ない。すぐに執務室へと戻り、処刑のために捕縛の手配を進める。処刑は、ユーカがこの国に居ない間にしておこうとは思うものの、このままのさばらせておくつもりなどない。今日中に、ユーカを害した者達は捕らえるつもりだ。
「クリント侯爵家の捕縛、完了いたしました」
手配して一時間もしないうちに、執務室でロウからその報告を受けた僕は何事もなく捕縛が終わった事実に少しだけ力を抜く。これで、ユーカに刺客を送る者が居なくなったはずだ。そう、そのはず……。
スミス子爵家とフーシェ子爵家にもそれぞれ騎士達を送り込み、夫人達を捕縛したとの報告を受ける。これで、ユーカを傷つけた者はすべて捕らえたこととなる。
ただ、全てが片付いたはずだと思いつつも、どうにも腑に落ちない。ユーカが僕の片翼であるなどという情報は、たかだか侯爵家ごときが簡単に入手できるような情報ではなかったはずなのだ。いかに裏切り者がいたのだとしても、それは平民上がりの一般騎士。そんな存在が、ユーカのことを知るはずがなかったのだ。
「黒幕を捕らえるまでは、安心できそうにないな」
せっかく、ユーカと二人で過ごせる機会なのに、ことごとく刺客によって潰されるつもりはない。建国祭の間に全てを終わらせることはできるかどうか不明だが、それでもやるしかない。
「お兄様、少しよろしいですか?」
そうして、黒幕の正体を探るべく、新たな指示を出している最中、アマーリエが部屋を訪ねてくる。
「うん、何かな? アマーリエ」
アマーリエは、ユーカの護衛についていたはずだが、こうやってここに来れたということは、休憩時間か何かなのだろう。もしかしたら、今日の刺客についての情報でも持ってきたのかもしれない。
「お兄様。落ち着いて聞いてください。ユーカが、また刺客に襲われました」
「何だって!? ユーカはっ、ユーカは無事なんだよねっ!」
あまりにも間隔を置かずに現れた刺客。僕はとにかくユーカのことで頭がいっぱいになって、気づけばアマーリエの胸ぐらを掴み上げそうな勢いで迫っていた。
「大丈夫ですわっ。怪我一つしていませんっ」
「そ、そう。良かった……本当に、良かった……」
叫ぶようにして答えたアマーリエに、僕は情けない声でその心情を表す。
「お兄様。刺客は、このエーテ城に侵入してきました。戦った感覚としては、それなりの手練れではありますが、エーテ城の防衛を突破できるようには思えませんでした」
「……つまり、城の内部に内通者が居ると?」
「はい、それも、かなりの権力を有した者だと思われます」
アマーリエの言葉は、嫌な予感だけを抱かせた。黒幕は恐らく、同じ王族か、公爵家の者、といったところだろう。現在、公爵家は五つあり、その中の一つが黒い噂のある家だ。もしかしたら、そこがユーカに刺客を送ってきているのかもしれない。
「ユーカは、今回の刺客には気づいていません。そして、刺客はわたくし達に敵わないと判断して、自害してしまいました。生け捕りにできず、申し訳ありません」
アマーリエは謝罪してくるものの、僕はそれを責めるつもりはなかった。確かに、手がかりが一つ消えたのは痛いが、ユーカの安全が優先だ。
「話は分かった。とりあえず、僕はあの公爵家をあたってみることにするよ」
「レイシー公爵家、ですか?」
「うん、ちらほらと黒い噂があるところだからね。一応、疑いの目は向けておこうと思う」
「そうですわね。ですが、その……レイシー公爵家の手口としては、少し荒いような気もします。他もあたった方がよろしいかと」
「うん、そうするつもりだよ」
「差し出がましい口をきき、申し訳ありません」
その程度のことで怒るわけがないのに、アマーリエは律儀に謝罪する。
「構わないよ。さて、明日までに、できるだけ絞っておこう。そうして、明日こそは、ユーカとのんびりデートしたい」
「ふふっ、そうですわね。わたくしも、未来の義姉様のために協力は惜しみませんわ」
ユーカが魔力過多症のため、寝る間も惜しむ、ということはできなかったものの、それでもできうる限りの情報を集めた僕達は、明日こそは尻尾を掴んでみせると意気込むのだった。
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