上 下
104 / 173
第六章 建国祭

第百話 ハミルトンの両親

しおりを挟む
「まぁあっ、こちらがハミルトン様の片翼ちゃんです?」

「おぉ、これはまた随分と可愛らしいお嬢さんじゃあないか」


 現在、私はエーテ城のやたらと豪華な部屋で、二人の美男美女にとっても構われている。美男の方は、ハミルさんがもう少し年を取ったような姿で、瞳の色だけが淡い緑という人物。対して、美女の方は、ふんわりと長い金髪に赤い瞳を持つ女性で、顔立ちはアマーリエさんに似ているけれど、アマーリエさんとは違っておっとりしているように見える。そう、彼らは、ハミルさんとアマーリエさんの両親だった。


「父上、義母上、ユーカが困ってるから」

「むっ? そうか?」

「あらあら、ハミルトン様、あまり嫉妬をしていては嫌われますよ?」


 なぜか頭を撫でてきていた二人は、ハミルさんの言葉に、一応手を引いてはくれる。けれど、その様子を見ても、ハミルさんは険しい表情のままだ。


「義母上。ユーカは僕の大切な人なんだ。嫉妬くらいするよ」

「余裕がないのな。お前」

「父上にだけは言われたくないね」

「えっと……ハミルさん、時間は大丈夫ですか?」


 今日は、建国祭初日。確か、これからハミルさんは挨拶をしなければならなかったはずだ。私の言葉に唸っているところを見る限り、そんなに時間はないのだろう。


「ハミル。ユーカさんは私達で見ておくから、お前は式典に出てきなさい」

「ユーカちゃん。わたくし達と一緒にハミルトン様を待ちましょうねっ」

「お兄様。ユーカはわたくしがお守りいたしますわ。ですので、早く式典を終わらせて帰ってきてくださいまし」

「……分かったよ。でも、ユーカに変なことを吹き込んだら、ただじゃおかないから」


 どうにか納得した様子のハミルさんは、最後に牽制だけして私を名残惜しそうに見つめた後、退出していく。そうして私とともに残されたのは、ハミルさんの両親とアマーリエさん達という状態になった。
 正直、初めて出会ったハミルさんの両親を前に、私はどうして良いのか全く分からない。ジークさんはハミルさんと一緒に式典に出席するための準備に忙しいらしく、ここに来ることもないため、今、私が頼れるのはアマーリエさんだけだった。


「お父様、お母様。まずは自己紹介をなさいませんと、ユーカも困っていますわ」

「おぉっ、そうであったな。私は、リアン魔国の先代魔王。デルトラ・リアンだ」

「わたくしは、デルトラ様の片翼であり、ハミルトン様の義母、アマーリエの母になります、リュナ・リアンです」

「義母?」

「はい、デルトラ様は、わたくしと出会う以前にパミーユ様とご結婚なさっておいででしたので、パミーユ様のお子がハミルトン様なのですよ」


 つまりは、ハミルさんとアマーリエさんは、腹違いの兄妹ということなのだろう。何だか複雑そうな家庭環境に、私は突っ込んで聞くのをためらう。先程のやり取りを見る限り、家族間での確執は感じられなかったものの、世の中、何がどうなっているのかなんて分からない。


「ささっ、ユーカちゃん。ハミルトン様が帰って来るまではお茶をしてましょう」

「は、はいっ」


 豪華な部屋の中には、入室した時からテーブルのセッティングがなされているのは確認していた。席に誘導された私は、落ち着かないながらもとりあえず座って、オロオロする。そして、リュナ様がアマーリエさんに目配せすると、アマーリエさんは扉の外に控えていた侍女達に声をかけ、たちまちポットやお菓子類が運ばれてきた。


「お菓子はヴァイラン魔国には劣るが、それなりのものを用意してある。さぁ、遠慮なくお食べなさい」

「えっと、それじゃあ、お言葉に甘えていただきます」


 ハミルさんそっくりのデルトラ様にそう言われると、何だかハミルさんに言われているみたいで、少しだけ力を抜くことができた。そうして始まったお茶会。話題はもちろん、ハミルさんのことだった。……最初は。


「ユーカさん。ハミルは何か無理を言ったりしていないだろうか?」

「まぁっ、知りませんの? お父様。お兄様は、ユーカを監禁していた過去があるんですのよっ」

「何と!? それは、本当に申し訳ない。ハミルにはきつく言っておこう」

「あらあら、デルトラ様も昔、わたくしを監禁しておりましたし、親子はやはり似るのですねぇ」

「リュ、リュナ!? それは内緒だとあれほどっ」

「お父様が、お母様を監禁……?」

「ち、違うんだっ、アマーリエ! 私は、ただリュナのことが好きで――――」

「婚約者にフラれて傷心中だったわたくしを、デルトラ様は一目見た瞬間に連れ去ったのですよ」

「……お父様……」

「ち、違うっ! 違うんだぁっ!」


 途中から、デルトラ様とリュナ様の出会いの話になって、何やら怪しい方向に話が展開していく。デルトラ様は、必死にその話題から逃れようとするものの、リュナ様はおっとりとしながら的確にデルトラ様を追い詰めていく。


「アマーリエさん、リュナ様は、デルトラ様に何か怒ってたりするんですか?」


 あまりにも哀れな暴露話が続く様子に、思わずこっそり尋ねれば、アマーリエさんは首をかしげる。


「今朝は何ともなかったと思いますが……確かにあれは、何かに怒ってますわね」


 アマーリエさんも何も知らないのでは対処のしようがない。結局、デルトラ様が『私が何をしたというのだ!』と嘆き出して、ようやく、『ハミルトン様の片翼がいらっしゃることを一時間前に知ったばかりのわたくしの気持ちになってください』との言葉で謎が解けた。どうやら、リュナ様は私に会いたかったのに、その知らせを一向に持ってこなかったデルトラ様に腹を立てていたらしい。


「あ、あの、デルトラ様のお話より、私とお話しませんか?」


 そして、私のその言葉によって、リュナ様はようやくデルトラ様いじめを止めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

0(ゼロ)同士の恋愛  ほんとは愛されたい。【完結】

mamaマリナ
BL
 必要とされない俺は、ただ生きるために体を売り、日々の生活のお金を稼いでいた。  知らない奴に刺され、やっと死ねると思ったのに。神様に願ったのに。なんで、こんなことになったんだ。異世界転生なら良かったのに。なんで転移なんだ。  必要とされたい、愛されたいと思いながら、怖がり逃げようとする、ちょっと口は悪いが根は真面目な青年と怖がられ避けられる恋愛経験0の男の恋愛話。 童貞×経験豊富な美人 タイトルに※はR18です

雪国の姫君(男)、大国の皇帝に見初められたので嫁ぎます。

ႽͶǾԜ
BL
 世界一の軍事大国アーサー皇帝へと嫁ぐこととなった雪国の姫君(男)のお話。 世界一の軍事大国皇帝×雪国の美人姫 ♡画像は著作権フリーの画像(商品利用無料、帰属表示の必要がない)を使用させていただいております。 ※本作品はBL作品です。苦手な方はここでUターンを。 ※第2章よりR18になります。(*つけます) ※男性妊娠表現があります。 ※完全な自己満です。 ※これまでの他作品とは、また別世界のお話です。

全寮制の男子校に転入して恋をした俺が、本物のセックスを思い知らされるまで

tomoe97
BL
非王道学園物を目指していたら、大分それました。少しの要素しかありません。 脇役主人公もの? 主人公がやや総受けです。(固定カプ) 主人公は王道転入生とその取り巻きに巻き込まれた生徒会副会長の弟。 身体を壊した兄の為に転入することを決意したが、実際の思惑はただただ男子校で恋人を作ったりセックスをしたいだけであった。 すぐセフレとシたり、快楽に弱かったり近親相姦があったりと主人公の貞操観念がゆるゆる。 好きな人と結ばれて念願の本当に気持ちいいセックスをすることはできるのか…。 アホアホエロです。 (中身はあまりありません) メインカプは風紀委員長×生徒会庶務 脇カプで生徒会副会長×生徒会長です 主人公以外の視点もあり。 長編連載。完結済。 (番外編は唐突に更新します)

処理中です...