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第五章 戻った日常?
第九十四話 我慢と和解(ジークフリート視点)
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レティシア嬢が話した作戦は、なぜかルーシャに謝罪をさせることから始まっていた。それを『危険だ』と、『認めない』と反論すると、『では、ユーカちゃんから嫌われても良いのですね』と返されて、黙り込むしかなかった。そして、どんなにその作戦になった理由を聞いても、『それを話せば、わたくしもジークフリートさんも盛大に嫌われてしまいますので、無理です』と言われ続け、結局、作戦の内容は知っていても、なぜそれが効果があるとされるのか分からないままに実行となったのだった。
「なぁ、リド。お前は何か知ってるか?」
「いいえ。残念ながら、今回の件は全く知らないわ」
ルーシャを送り出した後、まだ執務室に残っているように告げられた俺は、近くに居たリドルを捕まえてコソコソと話す。恐らく、専属侍女達とレティシア嬢は何かを知っている。しかし、それが分からない俺達は、ただひたすら言われた通りに動くしかない。
「ご主人様っ、そろそろ移動しましょうっ」
ルーシャを送り出してしばらくして、リリからの声に、俺は勢い良く立ち上がり、ユーカの元へと急ぐ。
まさか、ヘルジオンの新たな魔王がユーカに手を出すとは思いたくないが、かの国には前科がある。警戒するに越したことはない。
「ユーカっ」
ノックするのも忘れて、扉を開け放つと、そこにはベッドの端に腰かけたユーカがきょとんとした表情でこちらを見上げていた。そして、その顔に悲しみの色がなくなっていることに、俺はひとまずホッとする。
「ヴァイラン魔王陛下!?」
床に座っていたルーシャが飛び上がらんばかりに驚いている様子を横目に、俺はすぐさまユーカの目の前まで移動し、目線を合わせるためにしゃがみこむ。
「ユーカ。もう、悲しくはないか? つらくはないか?」
「えっ? ……えっと、ジークさんは、どこまで知ってるんですか?」
なぜか、青くなるユーカに、恐らく、レティシア嬢達が知っていて、俺が知らないことについて尋ねているのだと直感する。
「何も。レティシア嬢達には、ユーカのためには言えないというようなことを言われた」
「そう、ですか……」
俺の解答に、どこかホッとしたような……それでいて、残念そうな表情を浮かべたユーカは、直後、真剣な表情になる。
「ジークさん。一つ質問しても良いですか?」
「もちろんだとも。一つと言わず、いくらでも質問してくれて構わない」
「では……」
一呼吸置いたユーカに、俺は真剣に答えてみせようと構える。
「ジークさんは……その、幼い子供は好き、なんですか?」
(そ、れは、どういう意味だっ? ユーカとの子供という意味を期待して良いのかっ?)
ほんのりと顔を赤らめているように見えるユーカの姿に、俺の理性は崩壊寸前にまで追いやられていた。煩悩軍の駆逐が間に合わない。このままでは、押し切られそうだ。
「その……ユーカとの子供なら、大歓迎だ」
つい、このままユーカを押し倒したい衝動に駆られるものの、そんなことをして嫌われたくない俺は、理性を総動員して煩悩軍を塞き止める。ただ……ユーカの両手を包み込むようにして握ってしまったのは、見逃してほしい。
「私との……子供……っ!?」
呆然と呟き、少し遅れてポンッと顔を赤くするユーカに、俺は残念ながら、そういう意味ではなかったらしいと気づく。
「ユーカ。俺は、この先、ユーカしか愛せないだろう。だから、いずれは、俺のものになってほしい」
しかし、勘違いでも構わない。とにかくユーカに想いを伝えたい俺は、極上の笑みでユーカへ迫る。
「へっ? あっ、えっと……そう、じゃなくて……その……」
「うん?」
途端にしどろもどろになったユーカの頬に手を添えると、ユーカは声も出せずにパクパクと口を開閉する。
(くっ、ユーカが可愛過ぎるっ。早まるなっ、まだ、ユーカには受け入れられていないんだっ!)
無限発生し出した煩悩軍を必死に追いやっていると、ユーカはようやく覚悟を決めた様子で告げる。
「そのっ、ルーシャさんとか、可愛いと思うんですかっ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は何のことか良く分からなかった。ただ、数秒で高速に回転した頭が弾き出した答えは、何とも俺に都合の良い答えで、あり得ないと思いながらも冗談半分に尋ねてみることにする。
「何だ? 嫉妬してくれたのか?」
「っ!!?!?」
(…………えっ?)
嫉妬という言葉を出した瞬間、ユーカはプイッと俺から全力で顔を逸らす。それはまるで……とても都合の良い解釈の裏付けであるかのようで、そうではないだろうと思っていても、ジワリ、ジワリと嬉しさが込み上げてくる。
「ユーカ?」
「……ジークさんの、バカっ」
小声で聞こえないように呟いたつもりだったであろうユーカ。しかし、魔族は人間の倍の聴力を持つため、その声まで拾ってしまう。
「あぁっ、ユーカ。俺は、ユーカ一筋だ。他なんて、見る気もないくらいに、ユーカしか見えてない。俺には、ユーカだけなんだ」
どういうわけかは分からないが、何かを不安に思っているのは確かなのだろう。だから、ここはしっかりと、不安なんて感じられないくらいに愛を囁く必要があった。
「ユーカを拐った国の新たな王など、正直どうでも良い。俺は、とにかくユーカと一緒に居られれば良いのだからな」
「そ、そう、ですか?」
「他に、何か聞きたいことはあるか? 今日は仕事ももう片付いている。いくらでも時間はあるぞ」
「え、えぇっ!? でも、えっと、その……」
俺の発言に戸惑った様子のユーカだったが、結局は俺のことを色々と尋ねてきた。好きな食べ物や、好きな場所、好きなことなどなど。
俺を知ろうとしてくれるユーカがいとおし過ぎて、途中、押し倒したくなる衝動に何度も襲われながら、それを我慢し、ゆっくりと答えていくのだった。
「なぁ、リド。お前は何か知ってるか?」
「いいえ。残念ながら、今回の件は全く知らないわ」
ルーシャを送り出した後、まだ執務室に残っているように告げられた俺は、近くに居たリドルを捕まえてコソコソと話す。恐らく、専属侍女達とレティシア嬢は何かを知っている。しかし、それが分からない俺達は、ただひたすら言われた通りに動くしかない。
「ご主人様っ、そろそろ移動しましょうっ」
ルーシャを送り出してしばらくして、リリからの声に、俺は勢い良く立ち上がり、ユーカの元へと急ぐ。
まさか、ヘルジオンの新たな魔王がユーカに手を出すとは思いたくないが、かの国には前科がある。警戒するに越したことはない。
「ユーカっ」
ノックするのも忘れて、扉を開け放つと、そこにはベッドの端に腰かけたユーカがきょとんとした表情でこちらを見上げていた。そして、その顔に悲しみの色がなくなっていることに、俺はひとまずホッとする。
「ヴァイラン魔王陛下!?」
床に座っていたルーシャが飛び上がらんばかりに驚いている様子を横目に、俺はすぐさまユーカの目の前まで移動し、目線を合わせるためにしゃがみこむ。
「ユーカ。もう、悲しくはないか? つらくはないか?」
「えっ? ……えっと、ジークさんは、どこまで知ってるんですか?」
なぜか、青くなるユーカに、恐らく、レティシア嬢達が知っていて、俺が知らないことについて尋ねているのだと直感する。
「何も。レティシア嬢達には、ユーカのためには言えないというようなことを言われた」
「そう、ですか……」
俺の解答に、どこかホッとしたような……それでいて、残念そうな表情を浮かべたユーカは、直後、真剣な表情になる。
「ジークさん。一つ質問しても良いですか?」
「もちろんだとも。一つと言わず、いくらでも質問してくれて構わない」
「では……」
一呼吸置いたユーカに、俺は真剣に答えてみせようと構える。
「ジークさんは……その、幼い子供は好き、なんですか?」
(そ、れは、どういう意味だっ? ユーカとの子供という意味を期待して良いのかっ?)
ほんのりと顔を赤らめているように見えるユーカの姿に、俺の理性は崩壊寸前にまで追いやられていた。煩悩軍の駆逐が間に合わない。このままでは、押し切られそうだ。
「その……ユーカとの子供なら、大歓迎だ」
つい、このままユーカを押し倒したい衝動に駆られるものの、そんなことをして嫌われたくない俺は、理性を総動員して煩悩軍を塞き止める。ただ……ユーカの両手を包み込むようにして握ってしまったのは、見逃してほしい。
「私との……子供……っ!?」
呆然と呟き、少し遅れてポンッと顔を赤くするユーカに、俺は残念ながら、そういう意味ではなかったらしいと気づく。
「ユーカ。俺は、この先、ユーカしか愛せないだろう。だから、いずれは、俺のものになってほしい」
しかし、勘違いでも構わない。とにかくユーカに想いを伝えたい俺は、極上の笑みでユーカへ迫る。
「へっ? あっ、えっと……そう、じゃなくて……その……」
「うん?」
途端にしどろもどろになったユーカの頬に手を添えると、ユーカは声も出せずにパクパクと口を開閉する。
(くっ、ユーカが可愛過ぎるっ。早まるなっ、まだ、ユーカには受け入れられていないんだっ!)
無限発生し出した煩悩軍を必死に追いやっていると、ユーカはようやく覚悟を決めた様子で告げる。
「そのっ、ルーシャさんとか、可愛いと思うんですかっ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は何のことか良く分からなかった。ただ、数秒で高速に回転した頭が弾き出した答えは、何とも俺に都合の良い答えで、あり得ないと思いながらも冗談半分に尋ねてみることにする。
「何だ? 嫉妬してくれたのか?」
「っ!!?!?」
(…………えっ?)
嫉妬という言葉を出した瞬間、ユーカはプイッと俺から全力で顔を逸らす。それはまるで……とても都合の良い解釈の裏付けであるかのようで、そうではないだろうと思っていても、ジワリ、ジワリと嬉しさが込み上げてくる。
「ユーカ?」
「……ジークさんの、バカっ」
小声で聞こえないように呟いたつもりだったであろうユーカ。しかし、魔族は人間の倍の聴力を持つため、その声まで拾ってしまう。
「あぁっ、ユーカ。俺は、ユーカ一筋だ。他なんて、見る気もないくらいに、ユーカしか見えてない。俺には、ユーカだけなんだ」
どういうわけかは分からないが、何かを不安に思っているのは確かなのだろう。だから、ここはしっかりと、不安なんて感じられないくらいに愛を囁く必要があった。
「ユーカを拐った国の新たな王など、正直どうでも良い。俺は、とにかくユーカと一緒に居られれば良いのだからな」
「そ、そう、ですか?」
「他に、何か聞きたいことはあるか? 今日は仕事ももう片付いている。いくらでも時間はあるぞ」
「え、えぇっ!? でも、えっと、その……」
俺の発言に戸惑った様子のユーカだったが、結局は俺のことを色々と尋ねてきた。好きな食べ物や、好きな場所、好きなことなどなど。
俺を知ろうとしてくれるユーカがいとおし過ぎて、途中、押し倒したくなる衝動に何度も襲われながら、それを我慢し、ゆっくりと答えていくのだった。
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