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第五章 戻った日常?

第八十一話 大ダメージ

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 護衛さん達を紹介された後は、ジークさんが何やら真剣な顔で彼らに注意をしていた。
 曰く、ユーカと話をする際は、緊急でない限り、必ず本人の許可をもらうこと。曰く、ユーカから話しかけられた場合、即座に応対すること。曰く、緊急時以外の接近距離は直径一メートル内に入ってはいけない、などなど。本当に、真面目な顔で力説していた。しかも、護衛さん達も真面目な顔でうなずいているし、ハミルさんも当然のように聞いている。


(……突っ込みどころが満載な気がするのは、私だけ?)


 あまりにも真剣な空気に、口を出すことも憚られる。


「そういうわけで、ユーカ。彼らがこれらの決まりを破った際は、すぐに俺か専属侍女達に報告してくれるか?」

「えっと……はい」


 もはや、肯定する以外に、私が取れる行動はなかった。そうして、昼食のために一時的に護衛さん達とともに退出した私は、運ばれてきた昼食を堪能し、訓練までの時間をどう潰そうかと考えていた。


「そういえば、私も警戒した方が良いのかな?」


 ふと思い浮かんだのは、探知魔法。広範囲でなければ、ずっとかけ続けられるその魔法を、もしかしたらかけておいた方が良いのかもしれない。護衛が居るとはいっても、この前のように、ジークフリートさんに扮して来られたら素通りしてしまう可能性だってあるのだ。
 早速とばかりに探知魔法を、この部屋の外の廊下がある程度範囲に入るくらいで展開する。すると、どうやらハミルさんとララがこちらに向かっているらしいことに気づいた。


「? 何か、用があるのかな?」


 今は、暇な時間であるため、ハミルさんの相手は……多少どころではなく恥ずかしい場面もあるけれど、それなりに歓迎できた。この部屋とハミルさん達の距離はさほどなく、すぐにノックの音がしたため、声を上げて返事をする。


「失礼します」


 そうして、入ってきたララ。そして、探知魔法で、ハミルさんだと思っていたその存在に、絶句し、硬直する。


「ニャア」

「ユーカお嬢様。お暇でしたら、この猫に構ってあげてもらえますか? 後で、もう一匹も連れてきますので、手作りのケーキをあげてみてはいかがでしょう?」


 ララの腕の中から、ピョンと飛び出た灰色の猫は、いつも通り、私に甘えてすり寄ってくる。ただ……。


「えっと……」

「? どうかなさいましたか?」


 どう考えても、その魔力は、ハミルさんのものだ。


(どう、いうこと? まさか、この猫って、ハミルさん本人!?)


 一瞬、分身というのも考えてみたものの、それにしては魔力量が多すぎる。分身に注げる魔力量は、自身の魔力の十分の一までだったはずで、この猫には十分の一どころではない魔力を感じる。となると、ハミルさん本人と考えた方が妥当なわけで……。


「う、うぅ……」

「ユーカお嬢様!?」

「ニャッ!?」


 二日に一度くらいのペースで、その灰色の猫ハミルさんを抱き枕よろしく抱き込んで眠っていたことに思い至り、火を吹くほどに顔が熱くなる。そう、よくよく見れば、灰色の毛並みにトパーズの瞳は、ハミルさんと同じだ。


(えっ? ちょっと待って……じゃあ、まさかあの翡翠の猫は……)


 翡翠の毛並みに、サファイアの瞳のくーちゃん……それは、ジークさんの色そのもので、私はそのジークさんの色の猫に、雄雌の確認までしたことを思い出して……卒倒したくなった。


「あ、う……何で、ハミルさん、猫の姿……」

「ニャッ!!?!?」


 そうだ。良く考えれば、リリも言っていたではないか。この猫達は、普通の猫ではないと。それはつまり、この猫達の正体を、リリは知っていたということにほかならない。
 ようやく問いかけた私の言葉に、あーちゃん改め、ハミルさんは見事に固まる。


(そういえば、やけに人間味があったんだよね……)


 今までも、私の行動にいちいち反応してきた猫達。その正体がジークさんとハミルさんだったとなれば、それも納得だった。


「ニ、ニャ……ニャーンッ」


 ただ、正体を看破されてもなお、ハミルさんは自分は猫ですよとアピールすべく、鳴き声を上げる。


「魔力……ハミルさんのものです。間違えるはず、ないです」


 そうは言いつつも、どうか間違いであってほしいと祈る私は、バカなのかもしれない。
 大きくトパーズの目を見開いた灰色の猫は、しばらく私と見つめ合って……『フニャアァァァアッ』と叫び声を上げて、脱兎のごとく逃げ出した。


「……ララは、知ってたの?」

「……申し訳ございません」


 一人残ったララに問いかければ、謝罪が返ってくる。そして、それは、やはり知っていたということなのだろう。


「しばらく、一人になりたい」

「承知、しました」


 ララを責めるつもりはないけれど、これは、ダメージが大きい。もう、悶絶しかできない。


「うわぁぁあっ! 何で猫になってたのよーっ!!」


 心配をかけるわけにもいかない私は、枕を顔に押し付けて、小声で悶絶するのだった。
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