上 下
84 / 173
第五章 戻った日常?

第八十一話 大ダメージ

しおりを挟む
 護衛さん達を紹介された後は、ジークさんが何やら真剣な顔で彼らに注意をしていた。
 曰く、ユーカと話をする際は、緊急でない限り、必ず本人の許可をもらうこと。曰く、ユーカから話しかけられた場合、即座に応対すること。曰く、緊急時以外の接近距離は直径一メートル内に入ってはいけない、などなど。本当に、真面目な顔で力説していた。しかも、護衛さん達も真面目な顔でうなずいているし、ハミルさんも当然のように聞いている。


(……突っ込みどころが満載な気がするのは、私だけ?)


 あまりにも真剣な空気に、口を出すことも憚られる。


「そういうわけで、ユーカ。彼らがこれらの決まりを破った際は、すぐに俺か専属侍女達に報告してくれるか?」

「えっと……はい」


 もはや、肯定する以外に、私が取れる行動はなかった。そうして、昼食のために一時的に護衛さん達とともに退出した私は、運ばれてきた昼食を堪能し、訓練までの時間をどう潰そうかと考えていた。


「そういえば、私も警戒した方が良いのかな?」


 ふと思い浮かんだのは、探知魔法。広範囲でなければ、ずっとかけ続けられるその魔法を、もしかしたらかけておいた方が良いのかもしれない。護衛が居るとはいっても、この前のように、ジークフリートさんに扮して来られたら素通りしてしまう可能性だってあるのだ。
 早速とばかりに探知魔法を、この部屋の外の廊下がある程度範囲に入るくらいで展開する。すると、どうやらハミルさんとララがこちらに向かっているらしいことに気づいた。


「? 何か、用があるのかな?」


 今は、暇な時間であるため、ハミルさんの相手は……多少どころではなく恥ずかしい場面もあるけれど、それなりに歓迎できた。この部屋とハミルさん達の距離はさほどなく、すぐにノックの音がしたため、声を上げて返事をする。


「失礼します」


 そうして、入ってきたララ。そして、探知魔法で、ハミルさんだと思っていたその存在に、絶句し、硬直する。


「ニャア」

「ユーカお嬢様。お暇でしたら、この猫に構ってあげてもらえますか? 後で、もう一匹も連れてきますので、手作りのケーキをあげてみてはいかがでしょう?」


 ララの腕の中から、ピョンと飛び出た灰色の猫は、いつも通り、私に甘えてすり寄ってくる。ただ……。


「えっと……」

「? どうかなさいましたか?」


 どう考えても、その魔力は、ハミルさんのものだ。


(どう、いうこと? まさか、この猫って、ハミルさん本人!?)


 一瞬、分身というのも考えてみたものの、それにしては魔力量が多すぎる。分身に注げる魔力量は、自身の魔力の十分の一までだったはずで、この猫には十分の一どころではない魔力を感じる。となると、ハミルさん本人と考えた方が妥当なわけで……。


「う、うぅ……」

「ユーカお嬢様!?」

「ニャッ!?」


 二日に一度くらいのペースで、その灰色の猫ハミルさんを抱き枕よろしく抱き込んで眠っていたことに思い至り、火を吹くほどに顔が熱くなる。そう、よくよく見れば、灰色の毛並みにトパーズの瞳は、ハミルさんと同じだ。


(えっ? ちょっと待って……じゃあ、まさかあの翡翠の猫は……)


 翡翠の毛並みに、サファイアの瞳のくーちゃん……それは、ジークさんの色そのもので、私はそのジークさんの色の猫に、雄雌の確認までしたことを思い出して……卒倒したくなった。


「あ、う……何で、ハミルさん、猫の姿……」

「ニャッ!!?!?」


 そうだ。良く考えれば、リリも言っていたではないか。この猫達は、普通の猫ではないと。それはつまり、この猫達の正体を、リリは知っていたということにほかならない。
 ようやく問いかけた私の言葉に、あーちゃん改め、ハミルさんは見事に固まる。


(そういえば、やけに人間味があったんだよね……)


 今までも、私の行動にいちいち反応してきた猫達。その正体がジークさんとハミルさんだったとなれば、それも納得だった。


「ニ、ニャ……ニャーンッ」


 ただ、正体を看破されてもなお、ハミルさんは自分は猫ですよとアピールすべく、鳴き声を上げる。


「魔力……ハミルさんのものです。間違えるはず、ないです」


 そうは言いつつも、どうか間違いであってほしいと祈る私は、バカなのかもしれない。
 大きくトパーズの目を見開いた灰色の猫は、しばらく私と見つめ合って……『フニャアァァァアッ』と叫び声を上げて、脱兎のごとく逃げ出した。


「……ララは、知ってたの?」

「……申し訳ございません」


 一人残ったララに問いかければ、謝罪が返ってくる。そして、それは、やはり知っていたということなのだろう。


「しばらく、一人になりたい」

「承知、しました」


 ララを責めるつもりはないけれど、これは、ダメージが大きい。もう、悶絶しかできない。


「うわぁぁあっ! 何で猫になってたのよーっ!!」


 心配をかけるわけにもいかない私は、枕を顔に押し付けて、小声で悶絶するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

千年に一度の美少女になったらしい

みな
恋愛
この世界の美的感覚は狂っていた... ✳︎完結した後も番外編を作れたら作っていきたい... ✳︎視点がころころ変わります...

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

処理中です...