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第四章 ヘルジオン魔国

第七十話 聞き耳

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 目の前にある固いパンと冷たいシチュー、温い水が入ったコップ。それを私はしばらく見つめ、食べないという判断をする。


(何が入ってるか分からないしね)


 もちろん、美味しくなさそうというのもあるけれど、それ以上に、身の安全を考えるべきだろう。


(お水なら、あんまり適正がないから少ししか出せないけれど、魔法で出せるしね)


 私の魔法の適正は、風が最も強かったものの、水と光も少しだけ使える。とはいっても、水は飲み水を少し出せる程度だし、光は、本を読むのに少し辺りを明るくできる程度だ。
 両手を器にして、魔法で水を出すと、私はそれを口にする。


(うっ……これが、音に聞く不味さ)


 ただ、魔法で出した水を飲むのは、決まって緊急時だ。その理由は、魔法で出した水が不味いことによる。


(何とも言えない苦味というかえぐみというか……普通の水が飲みたいよ)


 少し涙目になりながらも、それを飲み干すと、私は気絶する前とほとんど変わらないジメッとした室内を見渡す。


(食事を出すってことは、生かしておくつもりはあるんだよね)


 気絶している間に届けられたと思われる食事をもう一度見て、私は考えてみる。


(でも、目的が分からないのは怖い、かな? ……今回は、情報収集をメインにしてみよう)


 恐らく、私が魔力切れを起こした原因は、探知の範囲を広げ過ぎたせいだ。自分を中心に、円形の探知を行ったので、ものすごく効率が悪かったものと思われる。


(なら、情報を集めて、ジークフリートさん達が居そうな方向を限定するとか、私を拐った原因を特定するとかした方がためになるよね)


 一応、探知魔法は発動した。つまりは、方向さえ分かれば、探知できる可能性もあるということだ。
 まだまだ不安が大きいものの、必死に頭を回転させることで、それらを紛らわせる。


(よしっ、やってみよう! 探知と伝音魔法!)


 グッと拳を握った私は、まずは、この近くに居る、私を拐ったであろう人達を探知で見つけることにする。


(十……二十人、くらいかな?)


 ある程度範囲を限定して探知魔法を発動させると、そこに居る人数がまず把握できる。


(この中で、何人かで集まってるところに、伝音魔法っと)


 伝音魔法の音を拾う方を発動させてみると、すぐに、効果は表れた。


『なぜっ、リアン魔国が宣戦布告などっ!』

『我々の国の者が、リアン魔国魔王の片翼を拐ったらしいですよ?』

『何だと!? 誰がそんな無謀なことをっ!』

『リアン魔国の魔王と言えば、冷酷無比で有名じゃないですかぁ。いやぁっ、死にたくないっ!』

『ま、待て、落ち着こうっ。もしかしたら、その片翼を見つけ出して差し出せば、命は助けてもらえるかもしれないじゃないかっ』

『そ、そうだそうだっ。すぐに捜さなければっ!』

『……それが、リアン魔国魔王の片翼は、黒目黒髪の小柄な少女らしい』

『『『…………』』』


 十人くらいの人が、円形に並んでいるらしいところに、伝音魔法を試した結果、何やらとんでもなく不穏な話が聞こえてきた。


(えっ? リアン魔国の魔王って、ハミルトン様だよね? 冷酷無比? 嘘!? 宣戦布告って何!? 原因、私が拐われたからっ?)


 痛いほどの沈黙が下りる中、私は一人で大混乱を起こす。まさか、私が拐われた理由を知ろうとしただけなのに、こんな情報が入ってくるとは思わなかった。


『まさか……ヴァイラン魔国魔王の片翼だと思っていた彼女は、リアン魔国魔王の片翼だった、のか?』

『黒目黒髪、小柄な少女……は、はははっ、全部、当てはまるなぁ……』

『いやぁぁぁぁあっ、死にたくないぃぃぃいっ』

『お、お前が言い出したんだろっ! ヴァイラン魔国魔王の片翼を拐って、他の勢力に罪を擦り付ければ、この国を何とかしてもらえるってっ』

『誰もこんなことになるとは思わないだろうっ! というかっ、誰だよっ、あの少女がヴァイランの魔王の片翼だって言った奴っ!』

『で、ですが、報告では、かの魔王の片翼であることは間違いないと……』

『うわぁぁぁあっ、もうおしまいだっ。この国は更地にされるぅぅうっ』


 私が大混乱を起こした直後、あちら側でも大混乱が起こり、私は逆に冷静になることができた。


(うん……何というか、私、何かの陰謀に巻き込まれたっぽい?)


 それも、国家間でのいざこざに巻き込まれたらしいことが分かり、私は頭を抱える。


(えーっと、このままだと、ハミルトン様がこの国を更地にしちゃう、のかなぁ? さすがに大袈裟だとは思うけれど……もし本当だったら怖いから、止めたいなぁ。うん、とにかく二人の居場所が分からないか、情報を集めようっ)


 未だに阿鼻叫喚となっているその場所で、私は他に情報が来ないかと、根気よく待ち続けるのだった。
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