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第三章 歩み寄り
第五十四話 厨房へ
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一日、男性入室禁止を解くことなく、後からやってきた二匹の猫に癒された私は、一つの覚悟を決める。
「(メアリー、ジークフリートさんとハミルトン様に内緒で、何か贈り物をしたいんだけどっ)」
結局、まだ『お友達から始めましょう』という内容を伝えられていない私は、手ぶらでは不味いと考え、意を決して、メアリーに相談してみる。
「お二人に内緒で、ですか……それは、少し難しいかと」
ただ、困ったように微笑むメアリーを前にすると、もしかしたらこの案は通らないのかもしれないと不安になる。
「……リドル様には知られても良いのですか?」
せっかく勇気を出そうと思っていたところ、出鼻をくじかれた形になった私に、メアリーはそっと問いかけてくる。
「(うん、二人に内緒でできれば、それで良いの)」
「分かりました。それでは、まず、リドル様に相談してみましょうね」
そうして、メアリーは部屋を退出し、しばらくすると、リド姉さんを伴って戻ってきた。
「今日は、もう入っても良いのね?」
「(うん、もう大丈夫)」
扉の前で、そんなやり取りはあったものの、とりあえず入室してもらうと、三人で椅子に腰掛け、話し合いを始める。
「なるほど、ユーカちゃんは、『お友達から始めましょう』と伝える時に、何か贈り物も必要だと思ってるわけね。……さすがに、あいつらが気の毒になってきたわ」
「(うん。でも、私、お金を持ってないから、何かできることはないかなって)」
後半は何を言ったのか聞き取れなかったものの、きっと大したことではないのだろう。聞き取れたことだけで話を続けれは、メアリーの通訳を挟んで、リド姉さんはしっかりと考えてくれる。
「そうねぇ。何を贈っても喜びそうだけれど……ユーカちゃんは、何か自分で作れるものとかあるのかしら?」
「(私が作れるもの……)」
そうして思い浮かべるのは、お菓子や料理くらいだった。
「お菓子、料理、良いわねそれっ。あぁ、贈り物にするなら、お菓子の方が良さそうね」
自分では、味見分くらいしか食べたことがない上、ちゃんと評価してくれるような人もいなかったため、正直自信と呼べるものは存在しない。けれど、不味くはないということは知っていたため、大丈夫だろうと思い、うなずく。
「(じゃあ、お菓子を作りたい。材料費とかは、働いてから返すことになりそうだけれど……)」
「ユーカお嬢様。前々から申しておりますが、ユーカお嬢様が働く必要はございませんよ? ユーカお嬢様は、ご主人様の庇護下にございますので」
メアリーの言葉に、私は上手く反応できずにうつむく。確かに、メアリーの言葉はその通りなのだ。片翼について知らなかった頃ならまだしも、知ってしまった今となっては、魔族が片翼に対して、特に女性の片翼に対してどれだけ過保護なのかということも分かっている。もしかしなくとも、ジークフリートさん達は、私を働かせるつもりなどないのだろう。
「とりあえず、それは置いておきましょう。今は、野郎どもへの贈り物が優先よ。さっ、行きましょう?」
何も言えなくなった私を見て、リド姉さんは話題を変える。そして、立ち上がったかと思えば、私に手を差し出してきて、どこかへ向かい出した。
「(えっと、どこに?)」
「おそらく、厨房でしょうね」
そう言われて連れてこられたのは、確かに、厨房だった。しかも、かなり広い。
「おぉっ、リド坊っちゃん。何だ? おやつでもせびりに来たのか?」
あまりの広さに呆然としていると、厨房の奥から強面の大男がひょっこり顔を出す。茶髪に黄色の瞳をしたその大男は、リド姉さんと随分と親しげだ。
けれど、さすがに、ジークフリートさん達には慣れたとはいえ、初めて会う男の人は怖い。すぐさまリド姉さんの後ろに隠れた私は、じっと息を潜める。
「もうっ、違うわよっ。何百年前の話をしてるのよ」
「ガッハッハッ、何百年経とうと、リド坊っちゃんはリド坊っちゃんだからなぁ。んで、何の用だったんだ? そっちの嬢ちゃんの用事か?」
そう言う大男の視線は、明らかにリド姉さんの後ろに隠れた私の方へと注がれている。
「大丈夫ですよ。ユーカお嬢様。ゴッツはこんな見た目ではございますが、気の良い料理人です」
メアリーになだめられ、私はそーっとリド姉さんの背中から顔を出す。
「おうっ、見ねぇ顔だな。何か甘い菓子でも作ってやろうか?」
「ゴッツ。今日は、ユーカちゃんにお菓子作りをさせてあげたいと思って来たのよ。餌付けはやめてちょうだい」
「菓子作り? ははぁ、さては、想い人への贈り物ってとこか?」
髭の生えたあごをジョリジョリと掻きながら告げられたそれに、私はプチパニックを起こす。
(お、おおお、想い人っ!?)
そんなつもりは、全く、これっぽっちもなかった。けれど、端から見たら、そう思われても仕方ないことをしているわけで……。
「(ち、違います。友達になりたい人に贈るんですっ!)」
思わずそう反論するものの、今回はちょっとばかし角度が悪かった。メアリーから、私の唇が見えてなかったのだ。
「ん? 嬢ちゃん、声が出ないのか? 何か、まるでご主人様の片翼みてぇ…だ、な? ……おい、リド坊っちゃん? この嬢ちゃん、まさか、噂のご主人様とハミル坊っちゃんの両翼とか言わねぇよな?」
「そのまさかよ。ついでに、お菓子を贈る相手は、その二人よ」
そうリド姉さんが説明すれば、ゴッツさんはカチンと固まる。そして、プルプルと携帯のバイブのごとく振動を始めたかと思えば、クワッと目を見開いた。
「ぜひっ、協力させてくれぇっ!!」
その恐ろしい形相に、私が半泣きになったのは言うまでもない。
「(メアリー、ジークフリートさんとハミルトン様に内緒で、何か贈り物をしたいんだけどっ)」
結局、まだ『お友達から始めましょう』という内容を伝えられていない私は、手ぶらでは不味いと考え、意を決して、メアリーに相談してみる。
「お二人に内緒で、ですか……それは、少し難しいかと」
ただ、困ったように微笑むメアリーを前にすると、もしかしたらこの案は通らないのかもしれないと不安になる。
「……リドル様には知られても良いのですか?」
せっかく勇気を出そうと思っていたところ、出鼻をくじかれた形になった私に、メアリーはそっと問いかけてくる。
「(うん、二人に内緒でできれば、それで良いの)」
「分かりました。それでは、まず、リドル様に相談してみましょうね」
そうして、メアリーは部屋を退出し、しばらくすると、リド姉さんを伴って戻ってきた。
「今日は、もう入っても良いのね?」
「(うん、もう大丈夫)」
扉の前で、そんなやり取りはあったものの、とりあえず入室してもらうと、三人で椅子に腰掛け、話し合いを始める。
「なるほど、ユーカちゃんは、『お友達から始めましょう』と伝える時に、何か贈り物も必要だと思ってるわけね。……さすがに、あいつらが気の毒になってきたわ」
「(うん。でも、私、お金を持ってないから、何かできることはないかなって)」
後半は何を言ったのか聞き取れなかったものの、きっと大したことではないのだろう。聞き取れたことだけで話を続けれは、メアリーの通訳を挟んで、リド姉さんはしっかりと考えてくれる。
「そうねぇ。何を贈っても喜びそうだけれど……ユーカちゃんは、何か自分で作れるものとかあるのかしら?」
「(私が作れるもの……)」
そうして思い浮かべるのは、お菓子や料理くらいだった。
「お菓子、料理、良いわねそれっ。あぁ、贈り物にするなら、お菓子の方が良さそうね」
自分では、味見分くらいしか食べたことがない上、ちゃんと評価してくれるような人もいなかったため、正直自信と呼べるものは存在しない。けれど、不味くはないということは知っていたため、大丈夫だろうと思い、うなずく。
「(じゃあ、お菓子を作りたい。材料費とかは、働いてから返すことになりそうだけれど……)」
「ユーカお嬢様。前々から申しておりますが、ユーカお嬢様が働く必要はございませんよ? ユーカお嬢様は、ご主人様の庇護下にございますので」
メアリーの言葉に、私は上手く反応できずにうつむく。確かに、メアリーの言葉はその通りなのだ。片翼について知らなかった頃ならまだしも、知ってしまった今となっては、魔族が片翼に対して、特に女性の片翼に対してどれだけ過保護なのかということも分かっている。もしかしなくとも、ジークフリートさん達は、私を働かせるつもりなどないのだろう。
「とりあえず、それは置いておきましょう。今は、野郎どもへの贈り物が優先よ。さっ、行きましょう?」
何も言えなくなった私を見て、リド姉さんは話題を変える。そして、立ち上がったかと思えば、私に手を差し出してきて、どこかへ向かい出した。
「(えっと、どこに?)」
「おそらく、厨房でしょうね」
そう言われて連れてこられたのは、確かに、厨房だった。しかも、かなり広い。
「おぉっ、リド坊っちゃん。何だ? おやつでもせびりに来たのか?」
あまりの広さに呆然としていると、厨房の奥から強面の大男がひょっこり顔を出す。茶髪に黄色の瞳をしたその大男は、リド姉さんと随分と親しげだ。
けれど、さすがに、ジークフリートさん達には慣れたとはいえ、初めて会う男の人は怖い。すぐさまリド姉さんの後ろに隠れた私は、じっと息を潜める。
「もうっ、違うわよっ。何百年前の話をしてるのよ」
「ガッハッハッ、何百年経とうと、リド坊っちゃんはリド坊っちゃんだからなぁ。んで、何の用だったんだ? そっちの嬢ちゃんの用事か?」
そう言う大男の視線は、明らかにリド姉さんの後ろに隠れた私の方へと注がれている。
「大丈夫ですよ。ユーカお嬢様。ゴッツはこんな見た目ではございますが、気の良い料理人です」
メアリーになだめられ、私はそーっとリド姉さんの背中から顔を出す。
「おうっ、見ねぇ顔だな。何か甘い菓子でも作ってやろうか?」
「ゴッツ。今日は、ユーカちゃんにお菓子作りをさせてあげたいと思って来たのよ。餌付けはやめてちょうだい」
「菓子作り? ははぁ、さては、想い人への贈り物ってとこか?」
髭の生えたあごをジョリジョリと掻きながら告げられたそれに、私はプチパニックを起こす。
(お、おおお、想い人っ!?)
そんなつもりは、全く、これっぽっちもなかった。けれど、端から見たら、そう思われても仕方ないことをしているわけで……。
「(ち、違います。友達になりたい人に贈るんですっ!)」
思わずそう反論するものの、今回はちょっとばかし角度が悪かった。メアリーから、私の唇が見えてなかったのだ。
「ん? 嬢ちゃん、声が出ないのか? 何か、まるでご主人様の片翼みてぇ…だ、な? ……おい、リド坊っちゃん? この嬢ちゃん、まさか、噂のご主人様とハミル坊っちゃんの両翼とか言わねぇよな?」
「そのまさかよ。ついでに、お菓子を贈る相手は、その二人よ」
そうリド姉さんが説明すれば、ゴッツさんはカチンと固まる。そして、プルプルと携帯のバイブのごとく振動を始めたかと思えば、クワッと目を見開いた。
「ぜひっ、協力させてくれぇっ!!」
その恐ろしい形相に、私が半泣きになったのは言うまでもない。
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