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第二章 訪問者
第三十二話 報告と次の作戦(リドル視点)
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「どうだった?」
ジークの執務室へ行くと、そこには待ち兼ねた様子のジークとハミルが居た。
「作戦失敗よ。でも、とても有益な情報は聞き出せたわ」
さすがに幼女趣味と間違えられたことは言いたくないけれど、それなりの報告は必要だ。そう思って、ジークもハミルも誤解しているであろう情報を提示することにする。
「両翼ちゃんの年齢は、十八だそうよ」
「「はっ!?」」
揃って口を開ける二人を見て、『予想通りの反応ね』と考えながら、二人が立ち直るのを待つ。
「十歳とか、八歳の間違いではなくて、か?」
「えぇ、十八歳だと聞いたわ」
「専属侍女達が読み間違えたとかじゃないかい?」
「両翼ちゃん自身に確認を取っているから、間違いないわよ」
事実を淡々と告げると、二人は思考の海にしばらく沈み…………突然、息もできなくなるほどの殺気を撒き散らしはじめた。
「ぐっ……落ち、着き、なさいっ!」
「ぐおっ」
「いっ!?」
あまりの殺気にふらつきながらも、ワタシは二人を大きな拳で殴って止める。すると、一気に室内を満たしていた殺気は霧散し、ワタシは完全に力が抜けてへたりこんでしまった。
「す、すまない」
「ごめんっ、リドっ」
二人が何を想像したのかくらい、ワタシにだって分かる。きっと、あの両翼ちゃんがどんな環境に置かれていたのかを思って、そんな環境に置いた者達への殺意をたぎらせたのだろう。
ただ、それを真正面から受けるワタシは、とんだとばっちりだ。
「はぁっ、少しは感情のコントロールくらいしなさいよ。気持ちは分かるけれど……」
「あぁ、すまない。あの子が、食事もまともに与えられていなかったことを思うと、つい、な」
「リクからの報告が待ち遠しいね。あの子を虐めた魔族どもには、どんな最期がお似合いかなぁ?」
反省するジークと、獰猛な笑みを浮かべるハミル。主に後者の方にワタシは頭が痛くなるのを感じる。
「あんた達が今やるべきことは、復讐じゃなくて両翼ちゃんとの交流よ。どうしたら良いのか、具体的に考えておきなさい」
まだ足に力が入らないながらも、ピシャリと指差して言い放つ。このくらい言っておかなければ、この二人のことだ、復讐の方にばかり気を取られかねない。
「あぁ、その通りだな」
「どうしたら良いか、かぁ。猫姿なら、いくらでも仲良くなれるのになぁ」
眉間のシワを深めるジークと、本格的に嘆くハミル。ここで手を貸すのも一つの手ではあるものの、今は放置を選ぶ。ここは、二人にしっかりと考えさせて、対処させるべきだ。
「それで、次の作戦なんだけれど、今度はお茶会でも開こうかと思っているわ」
「お茶会か……分かった。手配しよう」
「えぇ、お願い。その際に、一応好みの食べ物もリサーチしてくるわ」
「あの子の好み…………そっか、今回は、それを知ることもできるんだね」
何だか、ハミルが希望の光を目に宿す様子を見て、いたたまれなくなる。今まで、片翼の好みすら知ることができなかったのかと思うと、同じ魔族として同情を禁じえない。
「えぇ、それで、問題が一つあるわ。今のままじゃ、鎖が邪魔でお茶会なんてできないのよ」
喜んでいるハミルには悪いけれど、ここからが本題だとばかりに、ワタシはハミルを睨みつける。
「部屋でやるのはダメなのかい?」
「ダメね。両翼ちゃんには、外の空気を吸わせた方が良いわ」
「となると、庭に準備をすることになるか……」
鎖を外さなければならない状況に渋るハミルだったが、ジークがすでに庭の準備を考えている様子を見て、さらに渋い顔になる。
「…………リド、あの子を危険に晒したら容赦しないよ?」
「分かってるわ」
仄暗い狂気を纏った瞳で告げられて、ワタシは即座に了承する。ここで少しでも躊躇えば、ハミルは許可など出さないだろう。
「……じゃあ、リドが居る時限定で、リドに鎖の鍵を預けることにするよ」
『だから、絶対守ってね?』と念押しするハミルに、ワタシは重々しくうなずく。この親友は、もし両翼ちゃんが傷つきでもしようものなら、ワタシを殺しにかかるかもしれなかった。
心なしかひんやりとした空気の中、ワタシは続けて計画を話す。
「お茶会が終わって、もし余裕があれば、ジークかハミルのどちらかに会ってもらうのもありだと思っているのだけれど、どうかしら?」
今回は完全に失敗だったものの、次回は失敗する可能性は低い。甘いものは苦手ではないらしいし、外に出ることを嫌うこともないらしい。これだけの情報があれば、お茶会で楽しくお話しながら甘いものを食べることくらいできるだろう。そうして気分が良くなったところに、ジークかハミルを出せば、もしかしたら反応が違うかもしれなかった。
「そう、だね……僕が行ってみても良いかい?」
「あぁ、分かった。なら、俺は後日にしよう」
「ありがとう」
両翼ちゃんと本来の姿で会うことに消極的だった二人だけれど、どうやらきっちり作戦を考えて動くことによって、それなりの積極性を思い出してくれたらしい。
「なら、詳しく詰めるわよ」
そうして、ワタシ達は、両翼ちゃんの年齢を考慮しつつ、お茶会のセッティングを考えていくのだった。
ジークの執務室へ行くと、そこには待ち兼ねた様子のジークとハミルが居た。
「作戦失敗よ。でも、とても有益な情報は聞き出せたわ」
さすがに幼女趣味と間違えられたことは言いたくないけれど、それなりの報告は必要だ。そう思って、ジークもハミルも誤解しているであろう情報を提示することにする。
「両翼ちゃんの年齢は、十八だそうよ」
「「はっ!?」」
揃って口を開ける二人を見て、『予想通りの反応ね』と考えながら、二人が立ち直るのを待つ。
「十歳とか、八歳の間違いではなくて、か?」
「えぇ、十八歳だと聞いたわ」
「専属侍女達が読み間違えたとかじゃないかい?」
「両翼ちゃん自身に確認を取っているから、間違いないわよ」
事実を淡々と告げると、二人は思考の海にしばらく沈み…………突然、息もできなくなるほどの殺気を撒き散らしはじめた。
「ぐっ……落ち、着き、なさいっ!」
「ぐおっ」
「いっ!?」
あまりの殺気にふらつきながらも、ワタシは二人を大きな拳で殴って止める。すると、一気に室内を満たしていた殺気は霧散し、ワタシは完全に力が抜けてへたりこんでしまった。
「す、すまない」
「ごめんっ、リドっ」
二人が何を想像したのかくらい、ワタシにだって分かる。きっと、あの両翼ちゃんがどんな環境に置かれていたのかを思って、そんな環境に置いた者達への殺意をたぎらせたのだろう。
ただ、それを真正面から受けるワタシは、とんだとばっちりだ。
「はぁっ、少しは感情のコントロールくらいしなさいよ。気持ちは分かるけれど……」
「あぁ、すまない。あの子が、食事もまともに与えられていなかったことを思うと、つい、な」
「リクからの報告が待ち遠しいね。あの子を虐めた魔族どもには、どんな最期がお似合いかなぁ?」
反省するジークと、獰猛な笑みを浮かべるハミル。主に後者の方にワタシは頭が痛くなるのを感じる。
「あんた達が今やるべきことは、復讐じゃなくて両翼ちゃんとの交流よ。どうしたら良いのか、具体的に考えておきなさい」
まだ足に力が入らないながらも、ピシャリと指差して言い放つ。このくらい言っておかなければ、この二人のことだ、復讐の方にばかり気を取られかねない。
「あぁ、その通りだな」
「どうしたら良いか、かぁ。猫姿なら、いくらでも仲良くなれるのになぁ」
眉間のシワを深めるジークと、本格的に嘆くハミル。ここで手を貸すのも一つの手ではあるものの、今は放置を選ぶ。ここは、二人にしっかりと考えさせて、対処させるべきだ。
「それで、次の作戦なんだけれど、今度はお茶会でも開こうかと思っているわ」
「お茶会か……分かった。手配しよう」
「えぇ、お願い。その際に、一応好みの食べ物もリサーチしてくるわ」
「あの子の好み…………そっか、今回は、それを知ることもできるんだね」
何だか、ハミルが希望の光を目に宿す様子を見て、いたたまれなくなる。今まで、片翼の好みすら知ることができなかったのかと思うと、同じ魔族として同情を禁じえない。
「えぇ、それで、問題が一つあるわ。今のままじゃ、鎖が邪魔でお茶会なんてできないのよ」
喜んでいるハミルには悪いけれど、ここからが本題だとばかりに、ワタシはハミルを睨みつける。
「部屋でやるのはダメなのかい?」
「ダメね。両翼ちゃんには、外の空気を吸わせた方が良いわ」
「となると、庭に準備をすることになるか……」
鎖を外さなければならない状況に渋るハミルだったが、ジークがすでに庭の準備を考えている様子を見て、さらに渋い顔になる。
「…………リド、あの子を危険に晒したら容赦しないよ?」
「分かってるわ」
仄暗い狂気を纏った瞳で告げられて、ワタシは即座に了承する。ここで少しでも躊躇えば、ハミルは許可など出さないだろう。
「……じゃあ、リドが居る時限定で、リドに鎖の鍵を預けることにするよ」
『だから、絶対守ってね?』と念押しするハミルに、ワタシは重々しくうなずく。この親友は、もし両翼ちゃんが傷つきでもしようものなら、ワタシを殺しにかかるかもしれなかった。
心なしかひんやりとした空気の中、ワタシは続けて計画を話す。
「お茶会が終わって、もし余裕があれば、ジークかハミルのどちらかに会ってもらうのもありだと思っているのだけれど、どうかしら?」
今回は完全に失敗だったものの、次回は失敗する可能性は低い。甘いものは苦手ではないらしいし、外に出ることを嫌うこともないらしい。これだけの情報があれば、お茶会で楽しくお話しながら甘いものを食べることくらいできるだろう。そうして気分が良くなったところに、ジークかハミルを出せば、もしかしたら反応が違うかもしれなかった。
「そう、だね……僕が行ってみても良いかい?」
「あぁ、分かった。なら、俺は後日にしよう」
「ありがとう」
両翼ちゃんと本来の姿で会うことに消極的だった二人だけれど、どうやらきっちり作戦を考えて動くことによって、それなりの積極性を思い出してくれたらしい。
「なら、詳しく詰めるわよ」
そうして、ワタシ達は、両翼ちゃんの年齢を考慮しつつ、お茶会のセッティングを考えていくのだった。
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