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第一章 出会い

第十三話 ララ(ララ視点)

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 新しい片翼のお嬢様がやってきた。それを聞いた瞬間、また、リリは自分を犠牲にするのだと思って、胸が締め付けられた。

 孤児だった私達姉妹を拾って、侍女として働かせてくれたのはジークフリート様だ。それには、とてもとても感謝している。
 そして、だからこそ、ジークフリート様のために片翼のお嬢様の心を守りたいというリリの気持ちは分からなくもない。私だって同じ気持ちだし、私を叩くことで片翼のお嬢様の気が晴れるのなら、それで良いと思えた。でも、リリを叩かれるのだけは、どうしても許容できそうにない。

 次第に、私は片翼のお嬢様達を警戒するようになった。もし、リリが叩かれそうな時は、身を呈してでも守ろうと思っていた。ただ……それをした結果は散々だった。二人とも、息も絶え絶えという状態になるまで叩かれるはめになったのだ。結局、私はリリを守れない。

 リリだけでも配置換えをしてほしいとジークフリート様に望んで、実際そのために動いたこともあったけれど、それはリリ自身の猛反対によって頓挫した。リリのジークフリート様への忠誠心が、ジークフリート様の片翼のお嬢様から離れることを否定したのだ。

 今回もまた、リリが害される。その事実が、心に重くのしかかっていた。それなのに……。


(お嬢様が叩かなかった?)


 リリからその報告を聞いた時は、一瞬、意味が分からなかった。片翼のお嬢様がリリや私を叩くのは当たり前のことで、それが行われないということはあり得なかった。何せ、相手は人間だ。獣人は低俗で穢らわしい存在だと本気で信じている人族だ。それが、暴力を振るわなかったということは、あまりにも現実離れしていた。


(リリの言うように、我慢している?)


 そう思って観察してみると、今度はなんと、メアリーが鞭を取り出した。どこに隠し持っていたのかと尋ねたい気持ちはあったものの、こんなことは初めてで、私は少し動揺してしまう。けれど、動揺していたのは、何も私だけではなかった。


(っ、なん、で?)


 そのお嬢様は、確かに無表情だった。でも、全く感情がないわけではない。むしろ、その感情は黒い瞳にとても良く表れていた。

 動揺し、必死にメアリーが勧める鞭を拒否しようとしている。もしかしたら、リリの時もそうだったのかもしれないと思えば、余計にその状況がおかしく思えた。


(そういえば、このお嬢様は、私達を蔑んだ目で見ない……)


 理由は分からない。分からないものの、実際、お嬢様が私達を見る目は、とても澄んだ目だ。


(ユーカお嬢様、ね)


 まだ、見定める必要はあると思う。それでも、私は初めて、片翼のお嬢様という者に好感を持てた。


(今度、私も鞭を用意してみよう)


 それをして、このユーカお嬢様がどういった対応をするのか、今から見物だった。
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