悪役令嬢の神様ライフ

星宮歌

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第二章 異質な神界

第百十五話 嫌がらせの日々12(ピンク頭視点)

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(これは虫じゃない、これは虫じゃない、これは虫じゃない、これは虫じゃない…………………)


 膝下まで埋め尽くす気色悪いカサカサとした存在達を、私は必死で否定していた。だって、こんな悪夢が現実であるなど、認めたくないのだ。ただ、気絶だけはしてはならない、ということは理解できた。黒幕である悪役令嬢が、気絶したからといって、この嫌がらせをやめてくれるはずがない。むしろ、嬉々として頭やら顔やらに虫を降らせるのではないかという危惧まである。


「あぅ、あぅ、あぅ……」


 聖の神とて、気絶の危険性は理解している。しかし、もはやまともな言葉すら話せなくなったアイツがどこまで持ち堪えられるか分からない。


(早く……早くっ、終わって……)


 死んでいるとはいえ、気味の悪い虫に埋もれるなど、凄まじい精神攻撃だった。だから、これよりも上が存在するなんて、全く、これっぽっちも、思わなかったのだ。

 ドサッ、ドサッと立て続けに山が形成され、必死に悲鳴を押し殺し、震える私達。いつ、あの山が私達の上に降るとも限らない。聖の神はもちろん、私も、そんなことになったら気絶しかねない。もはや、精神に甚大なるダメージを受けることは避けられないかに思えたのだが……。
 そんな時、唐突に部屋が明るくなる。……いや、天井から、光が降り注ぐ。それはまるで、希望を体現したかのような光で、上に顔を向けないようにしていた私は、思わず上を見上げる。


「っ、虫が、落ちてきて、ない……?」


 眩い黄金の光に目を細めた私は、その状態にいち早く気づいた。


「ぇ、あ……おわっ……た……?」


 虫が落ちてこないという事実に、聖の神は、その瞳に光を取り戻す。とはいえ、未だ足は動かないし、魔法も使えない。すぐにでもこの虫の死骸をどうにかしてしまいたいところではあるが、まだ、それはできそうになかった。


「ぅ……うぅ……もぅ、俺、こんなの、やだぁ……」


 これ以上虫は降らない。そう思った私達だったが、それでも、足元には虫の死骸が大量で気持ちが悪い。ようやく、まともに泣き始めた聖の神を見ながら、どうすればこの状況から抜け出せるのかと視線を巡らせた直後、違和感に気づく。


(……? 何……?)


 今、何かが動いたような気がして、その方向へ……虫の死骸の山へと目を向けるが、特に異常は見られない。


「ひぅっ!」

「っ、どうし、キャアッ!」


 いや、異常は、確かに存在した。そして、それを認識した瞬間、猛烈な鳥肌が立つ。


「いやぁあっ! 何でっ、虫がぁっ」

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇえっ!!」


 死骸だと思っていた虫達は、モゾモゾと、カサコソと、息を吹き返したらしく、蠢き始めた。
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