上 下
36 / 54
第一章 どうして魔族なんかに……

第三十五話 末路(ゲイン視点)

しおりを挟む
『君のことを好きになったんだから、仕方ないだろう? 君だって、俺と結婚したいと思ってくれるくらい、離れがたいんだろう?』


 そう言った直後、理那は『最低ですね』と言って、止める俺を振り払って行ってしまった。


 そして……そして?


 それから、どうしても諦められなかった俺は、理那の家にまで行って……。


『あら、あなた。何でここに来たの?』


 手に包丁を持った、血濡れの妻を見つけた。何度も刺されたらしい理那の姿を見つけた。


『お、前……なに、を……』

『あなたが……あなたが悪いんです。こんな、女に引っかかるなんて。ねぇ? 帰りましょう? 私のお腹には、子供だって居るんですから』


 ゆらりと、近づく殺人鬼。それを前に、俺は完全に腰を抜かした。


『くっ、来るな!』


 そして、言葉を間違えた。


『……どうして? そんなに、この女が良かったの? ……許さない、許さない、ゆるさナい、ユルサナイ』


 何度も、何度も、振り上げては落とされる腕。
 激痛に叫んで、暴れて、殺人鬼をどうにか括り殺して……ただ、出血量が多かったのだろう。そのまま、俺は、死んだ。





 どうして、今になって、思い出す……。


 前世の記憶は、今思い出した内容の手前で止まっていた。きっと、防衛本能として、この恐ろしい記憶を忘れようとしたのだろう。


「さてと、ゲイン・ログデンだったか。お前には、器物破損に魔族の片翼を害した容疑、殺人未遂の容疑、人身売買の容疑がかかっている。なお、お前の国の王からは、お前も、お前の一族も我がヴァイラン魔国に処遇を任せると通達されている。よって、様々な罪に対する罰として、百年の医療奉仕とする」


 あの後、逃げた俺を待っていたのは、なぜか俺が主犯だと知っていた魔族達による報復だった。
 死の間際まで追い詰められては、治癒魔法によって回復させられる。その繰り返しを受け、何十回目かの気絶をしたところで、牢屋に入れられた。
 牢屋の中には、俺以外のログデン家の面々が続々と入れられて、現在、這いつくばった状態で、法廷での裁きを受けていた。


 医療、奉仕……? 何でも良い。終身刑みたいなものだろうしな。その内、どうにかこの国を出よう。


 この時の俺は知らなかった。
 いや、知識としては持っていたはずなんだ。ヴァイラン魔国は、医療か発達した国だと。そして、その医療に罪人が貢献しているのだと。
 具体的には、様々な不治の病に罪人を罹らせて、その治療を試すという実験。それが、ヴァイラン魔国で行われていたのだ。つまりは……。


「ぐぁぁぁあっ!!」

『被験体番号八三〇番。感染状態、良好です』


 俺は、永遠に様々な疫病にかかり続ける。そして、一応治療は試されるが、それで死なない保証など欠片もない。片翼を害した罪人に、人権などないのだから。

 そうして、俺は、いつしか狂い、数年後、様々な激痛に蝕まれながら、完全に死の世界に飲まれることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【実話】高1の夏休み、海の家のアルバイトはイケメンパラダイスでした☆

Rua*°
恋愛
高校1年の夏休みに、友達の彼氏の紹介で、海の家でアルバイトをすることになった筆者の実話体験談を、当時の日記を見返しながら事細かに綴っています。 高校生活では、『特別進学コースの選抜クラス』で、毎日勉強の日々で、クラスにイケメンもひとりもいない状態。ハイスペックイケメン好きの私は、これではモチベーションを保てなかった。 つまらなすぎる毎日から脱却を図り、部活動ではバスケ部マネージャーになってみたが、意地悪な先輩と反りが合わず、夏休み前に退部することに。 夏休みこそは、楽しく、イケメンに囲まれた、充実した高校生ライフを送ろう!そう誓った筆者は、海の家でバイトをする事に。 そこには女子は私1人。逆ハーレム状態。高校のミスターコンテスト優勝者のイケメンくんや、サーフ雑誌に載ってるイケメンくん、中学時代の憧れの男子と過ごしたひと夏の思い出を綴ります…。 バスケ部時代のお話はコチラ⬇ ◇【実話】高1バスケ部マネ時代、個性的イケメンキャプテンにストーキングされたり集団で囲まれたり色々あったけどやっぱり退部を選択しました◇

【R18】不埒な聖女は清廉な王太子に抱かれたい

瀬月 ゆな
恋愛
「……参ったな」 二人だけの巡礼の旅がはじまった日の夜、何かの手違いか宿が一部屋しか取れておらずに困った様子を見せる王太子レオナルドの姿を、聖女フランチェスカは笑みを堪えながら眺めていた。 神殿から彼女が命じられたのは「一晩だけ、王太子と部屋を共に過ごすこと」だけだけれど、ずっと胸に秘めていた願いを成就させる絶好の機会だと思ったのだ。 疲れをいやす薬湯だと偽って違法の薬を飲ませ、少年の姿へ変わって行くレオナルドの両手首をベッドに縛りつける。 そして目覚めたレオナルドの前でガウンを脱ぎ捨て、一晩だけの寵が欲しいとお願いするのだけれど――。 ☆ムーンライトノベルズ様にて月見酒の集い様主催による「ひとつ屋根の下企画」参加作品となります。 ヒーローが謎の都合の良い薬で肉体年齢だけ五歳ほど若返りますが、実年齢は二十歳のままです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

隣国の貢ぎ物にされた出来損ない令嬢は、北の最果てで大公様と甘美な夢を見る

当麻月菜
恋愛
【煮ようが、焼こうが、妻にしようが、妾にしようが、使用人として使おうが、どうぞお好きに】  リンヒニア国の侯爵家令嬢ユリシアは、ダンス一つ満足に踊れない出来損ない令嬢。そんな彼女は雑な書簡と共に、隣国の大公グレーゲルの貢物ものにされることになった。  マルグルス国の国王陛下の甥であるグレーゲルの二つ名は”血濡れの大公”───気分次第で首をすっぱり切り落とす残忍非道なヤバイ奴。付け加えると、どうも一途に愛する女性がいるようで。  というなんか色々問題がありそうなグレーゲル大公閣下の支配下で生き抜く為には、存在を消して大人しく過ごすのみ。  しかし、ある日グレーゲルに呼ばれこう告げられる。 「君を正妻として迎えることに決めた」 「……はぁ?」  政略結婚でも恋をして、愛し愛されることを望む大公様と、なぜか自分がお飾り妻だと思い込む侯爵令嬢の、北の最果てで繰り広げられるすったもんだの恋物語。 ※以前書いたものを改タイトル、加筆修正して投稿しています。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...