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聖女の休日

060.聖女、書庫に監禁される。

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 体が熱い。何これ。下腹部がじんじんする。何なの、これ。

「ふぅぅっ」
「よく効くじゃないか。もう濡れてきたぞ」

 笑いながらエレミアスはわたしの秘部から指を引き抜いた。その僅かな刺激でさえ、堪らなく切ない。もっと欲しいと思ってしまう。もちろん、エレミアスのモノなんていらないのだけど。
 エレミアスはわたしが耐えているのを見下ろしたあと、近くに落ちていた鍵を拾い上げる。総主教からもらった鍵だ。彼の狙いはそれか。

「閲覧禁止の本棚の鍵はこっちだな」
「んんんっ!」
「お前も気になるだろ? 総主教になるためには、どれだけの聖職者の秘密を握っておけるかが大事なのさ。副主教の持つ鍵では開けられない本棚が、この向こうにある。楽しみじゃないか」

 そんなの興味ない! 誰が総主教になろうとわたしには関係ない。わたしたちの生活を脅かす人でないのなら、誰だって構わない。
 だから、エレミアスだけは絶対に総主教にはなってもらいたくない。どクズじゃん! 犯罪者じゃん! 絶対、トップにしちゃいけない男だよ!
 あぁぁ、ダメ、イキたい……っ! 誰か、今すぐ、貫いてほしい。……ダメ、すぐ雑念が入ってくる。あぁ、もう!

 見たところ、書庫はかなり広い部屋だ。本棚が所狭しと並び、机や椅子もある。……あぁ、あの椅子の足、挿入するにはいい感じの太さだわ。ダメダメ、油断するとすぐに挿入のことを考えてしまう。つらい。これ、めっちゃつらい。
 エレミアスは奥のほうに進み、姿が見えなくなる。閲覧禁止の本棚に向かったのだろう。
 わたしを追ってきた男たちはどうしたのだろう、と耳を澄ますと、廊下で何やら話し声がする。どうやら、彼らはエレミアスに雇われていたみたい。ノックをしてくる気配がない。たぶん、誰かが立ち入らないように外で見張っているのだ。

「約束が違います!」

 廊下のほうから声が聞こえる。たぶん、レナータ。あぁ、聖女宮の扉の鍵を男たちに渡したのが、彼女だったのね。わたしのこと、好きじゃないもんね。まぁ仕方ないね。わたしもラルスのこととかでぼんやりしていて、警戒していなかったし。

「聖女様には手を出さないと仰ったではありませんか! ただ鍵を奪うだけだと! どうして、命の実がここにあるのですか!? まさか、聖女様に食べさせたのですか!?」

 大丈夫、食べてはいないよ。果汁はさっきから飲んじゃってるけど。これ、ぜんぶ食べないと妊娠しないんだよね? じゃあ、果汁を飲むだけならセーフでしょ!?

「聖女様!? いらっしゃいますか、聖女様っ!!」
「引っ込んでろ、この女!」
「きゃあっ!!」
「んんーんーっ!!」

 扉の外で、レナータが男たちに殴られたみたいだ。酷い。なんてことを。わたしを殴るのはいいけど、レナータには手を出しちゃダメでしょ! わたしを裏切ったけど、だからといって、殴っていいわけではない。
 埃っぽい床の上でびたんびたんと動く。……はぁ、誰か早く挿れてくれないかな……いやいや、そうじゃなくて! 油断するとえっちな気分になってしまう。ヤバイな、これ。
「その女には手を出すな!」とエレミアスが遠くで叫ぶ。割と大きい声だから、廊下にも聞こえたみたい。

「その女、総主教様の遠縁の者だからな!」

 あ、そうなんだ? へぇー! だから、総主教との橋渡しができたわけね。ってことは、レナータ、実はいいところのお嬢様なんじゃないの?
 でも、そんなお嬢様がどうして女官になったのか、こんな犯罪に加担したのか、わからない。何かのっぴきならない事情でもあったのだろうか。

「じゃあ、どうしますか、この女」
「鍵は返してやれ。それから、本部から追い出せ。どうせ誰かに助けを求めることもできんさ。自分が撒いた種だからな」
「聖女様! 聖女様!! 助けを、必ず助けを呼んできますからっ!!」

 レナータ、それじゃあ自分の罪を認めるってことになるじゃん? それはダメじゃない? お嬢様なのに、その地位を捨てることになるんじゃない? ちょっと、早まっちゃダメだよー!

「んんーっ!」
「なんだ、これは?」

 エレミアスがランプ片手にやって来て、わたしの眼前に何かを突きつける。ん? 近い、近い、読めないよ。バカなの? あぁ、紙? 何か書いてある? 文字?
 ……日本語?

「お前の世界の言葉か?」

 エレミアスの言葉に頷く。まさかこんなところで日本語を見ることになるなんてビックリ。それが閲覧禁止の本棚に置いてあったのならば、つまり――。

「これは聖女が書いたものか。なんと書いてある? 読めるのだろう?」
「んー!」
「あぁ、喋れないのか……」

 エレミアスは近くの机から小型のナイフを持ってくる。命の実の皮を剥いたときのフルーツナイフだろう。それをわたしの首筋につけ、「叫んだら刺すぞ」と脅す。うんうんと頷くと、ようやく命の実が口から抜かれる。
 ケホケホとむせるわたしの鼻先に紙を突きつけ「読め」とエレミアスが命ずる。
 その文字が書かれた紙は、便箋くらいの大きさのもの。その真ん中に、インクで書かれた綺麗な文字が並ぶ。

「明け、ぬれば、暮れ……暮るるものとは、知りながら?」

 あー、これ、いつだったか国語でやったやつじゃない? ほら、あれ、何だっけ?

「なほ恨めしき、あさぼらけかな……あぁ、そうだ、百人一首だ!」
「何だそれは? どういう意味だ?」
「覚えてないよ! たぶん、聖女の心情を詠んだ歌だよ」

 いつの時代の聖女かわからないけれど、きっと教養のある人だったのだろう。百人一首をここに書きつけることができるほどの人なんだもの。
 その歌のすぐそばに、名前が書いてある。ええと、オレール、様? オレールって人に宛てた短歌なんだろうな。 

「……なんだ、詩歌か。何が閲覧禁止だ。くだらん詩歌と下手な絵しか残っていないじゃないか、クソッ」

 エレミアスは転がった命の実を持ち、わたしの口に突っ込もうとする。けれど、わたしは口を開けない。床に落ちた果実を口に入れられるなんて汚いじゃん! せめて洗ってからにして! まぁ、そういう問題でもないんだけど。

「口を! 開けろ!」
「いーっ!」
「んのっ、愚か者めがっ!」

 往生際が悪いわたしは、エレミアスがナイフを置いたのを見て、床をごろごろびたんびたんと這い回る。髪や服の乱れ、体の痛みなど気にしていられない。

「助けて! 誰か、助けて!」

 書庫に防音設備はない。だから、叫んでいれば、きっと、誰かが。

「きゃあ!」

 目の前がチカチカする。エレミアスに殴られたのだと理解したときには、既に彼はわたしに馬乗りになっていた。エレミアスの怒りに満ちた目がわたしを見下ろしている。

「殺されたいのか!」
「あなたこそ! 聖女にこんなことして、バレたら大変なことになるんじゃない?」
「はん! 私は処分などされないさ。黄の国の者だからな」
「驕れる者、久しからず!」

 エレミアスのようなクズ男、さっさと滅んでしまえばいい。わたしに彼を失脚させるような力がないのは腹立たしいけれど、彼に恨みのある聖職者だっているはずだから、きっと一緒に声を上げてくれるはず。

「んんっ」

 はだけた胸元に、冷たい感触。エレミアスがナイフを滑らせただけなのに、体がピリピリする。感じやすくなっている。

「本当に、イイ体をしているな。そりゃ、夢中になるはずだ、あの七人が」
「っあ」

 エレミアスの指がわたしの秘所を這う。あ、ダメ、それ欲しい。指、欲しい。挿れて。挿れて……いや、ダメダメ、エレミアスのは、ダメ。絶対ダメ。

「欲しいんだろ?」
「やっ、だ」
「そうか。じゃあ、あと二粒やるよ」
「あぁっ」

 つぷと指が挿れられた瞬間、エレミアスの指なんかで体が悦んでしまった。最悪だ。確かに、硬いものが押し込まれる。さっきと同じ薬なら、最悪だ。この状態のまま、どうしろというのだろう。

「もっと挿れて欲しいだろ?」
「だ、誰が」
「安心しろ。お前を犯すのは私じゃない。聖女の夫でもないのにお前に手を出したら、黒翼地帯に追放されるからな」

 やだ、頭がふわふわしてきた。すごいな、この薬。体が言うことを聞かない。どうしよう。すごい、イキたい。指、指、使いたいよぅ。
 息が荒くなってくる。体がつらい。エレミアスの指でいいから、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてもらいたくなっている。ダメだ、つらい、しんどい。

「……来たか」

 言って、エレミアスはわたしの上からどいて、わたしを書庫の奥のほうへと引きずっていく。こんな摩擦では全然イケない。太い棒が欲しい。欲しいなぁ。やっぱ椅子の足かなぁ。

「聖女様! 聖女様、こちらですか!?」

 扉をドンドンと叩く音が、よく知っている声が、聞こえる。エレミアスはニヤリと笑って、わたしの手の縄に何か細工をする。ヒヤリと冷たい……金属? 鎖? 手錠? そうして、わたしを書庫の奥に放置したまま、エレミアスは音を立てずに扉のほうへと向かう。
 彼の計画の一部始終を理解して、ゾッとする。エレミアスは、わたしと彼をここに閉じ込める気だ。それから、彼を罪人にするつもりだ。聖女を犯した者として告発する気だ。

「来ちゃダメ、ラルス! 来ないで!」
「聖女様!?」

 あぁ、逃げなきゃよかった。聖女宮で見知らぬ男二人に嬲られたほうがまだマシだった。夫以外の子を孕んだとしても、逃げるべきではなかった。
 ラルスを失うくらいなら、彼を罪人にするくらいなら、わたしが我慢すればよかったんだ。


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