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一章 ジョゼフィーヌ○○エンド
014.【サフィール】誓い
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死者を弔うための黒い服に身を包んで、サフィールは大神殿の二階からぼんやりと窓の外を眺める。
ジョゼとの婚約は正式にはまだ発表されていなかったため、国葬という形を取ることはできない。そのため、ロベール伯爵家が葬儀を執り行うこととなった。
ロベール伯爵の結婚式に参列した者たちが、そのまま弔問客となっている。ジョゼと交流のあった令嬢や令息も何人かいるようだ。彼女の菓子を楽しみにしていた子どもたちも、大勢いる。
だが、サフィールにはすべてがどうでもいいことだ。
「兄さん」
同じく黒い服を着たアルジャンが、目の前に立っている。彼が何を言おうと、どうでもいいことだ。
「兄さん、花を。ジョゼに別れの挨拶を」
「……そんなことをしても、ジョゼは生き返らない」
「でも、そうしないと兄さんは前に進めないでしょう」
「俺は進まない。ずっとここにいる」
――どうして、ジョゼが死ななければならなかった? どうして。
ジョゼが『真に愛する者』だったのかどうかは、サフィールにとってはどうでもよかった。ただ彼女と幸せになりたいと願っただけなのに、なぜ奪われなければならないのか、それがわからない。
「どうして、聖母神は俺からジョゼを奪ったんだ」
「兄さん、聖母神様が見ている前で滅多なことを言わないでください。早く行きましょう。……いいですよ、連れて行ってください」
アルジャンはそばにいた騎士に「兄王子を引きずってでも祭壇へ連れて行くように」と指示する。騎士に抱えられながら、サフィールはボロボロと涙を流す。
「俺じゃ、ダメなのか? 俺じゃ、無理、だったのか?」
幸せにしたいと、幸せになりたいと、願うことはいけないことなのか。いや、そんなことはないはずだ。幸福になる権利は、誰しもが有しているはずだ。
サフィールは自問自答する。
「ジョゼを、幸せに、したかったのに」
「そうですね」
「今度こそ……今度こそと、思ったのに」
「うん」
白い階段から二人の王子が下りていくと、人垣がさっと分かれていく。一人は騎士に抱えられてめそめそと泣いているため、物珍しそうに眺めている人もいる。
「これはこれは、サフィール王子殿下、アルジャン王子殿下」
ロベール伯爵が、夫人や娘たちとともに頭を下げる。聖母神像の前に作られた祭壇に、真っ白な棺がある。
「……美しいでしょう。まるで眠っているかのようです」
ジョゼは藍色のドレスを着て、眠っている。婚約者に名乗りを上げていたサフィールに配慮して、その色のドレスを着させたのだろう。青の王子の花嫁にふさわしいようにと。
「……ジョゼ」
騎士から降ろされ、フラフラとした足取りで、サフィールは棺にすがりつく。
「……目を、開けてくれないか、ジョゼ」
棺の中には、色とりどりの花が並べられている。別れの挨拶として、参列者が入れたものだ。
「ジョゼ、幸せにすると、今度こそ幸せになろうと、約束したじゃないか」
サフィールが、ジョゼの手を取る。その真っ白な手は、冷たく、石のように硬い。もう生きてはいないのだと、悲しい現実を突きつけてくる。
「ジョゼ、目を開けてくれ。口を開いてくれ。手を、握って、握り返して……あぁ、ジョゼ」
ロベール伯爵夫人、妹たち、そして参列者は、サフィールの言葉に涙を拭う。
「ジョゼ、お願いだ、お願いだから、また俺の名前を、呼んでくれないか。俺のために、杏の菓子を、作ってくれないか。ジョゼ、お願いだから……お願いだから!」
サフィールの中に深い絶望が生まれる。
ようやく、幸せになれると思ったのに。幸せにできると思ったのに。
サフィールは今にも動き出しそうなジョゼの頬に触れる。だが、それはただの化粧で、実際には冷たさを、絶望を返してくるだけだ。
「ジョゼ……」
「兄さん、そろそろ」
「嫌だ。俺はジョゼのそばにいる。約束したんだ。俺はジョゼを諦めない」
アルジャンは溜め息をつく。「連れて行って」と指示された騎士は、悲しげな顔をしながら、棺からサフィールを引き離す。
「ジョゼ……ジョゼ! 俺は何度生まれ変わっても、またきみを見つけるから!」
――何度生まれ変わっても、何度不幸な目にあっても、またジョゼと幸福な結末を探したい。だから、何度でも、きみと――。
サフィールはボロボロと涙をこぼし、愛しい人の名前を呼ぶ。声を枯らし、何度でも来世での幸福を誓う。
居合わせた人々は、サフィールが本当にジョゼフィーヌを愛していたのだと嘆き、同じように悲しみ、彼が取り乱した様子を悪しざまに言うこともなかった。
愛し合う二人は結ばれなかった――その悲劇的な情景だけが、国民の心に影を落とすのだった。
ただ一人の人物を除いては。
ジョゼとの婚約は正式にはまだ発表されていなかったため、国葬という形を取ることはできない。そのため、ロベール伯爵家が葬儀を執り行うこととなった。
ロベール伯爵の結婚式に参列した者たちが、そのまま弔問客となっている。ジョゼと交流のあった令嬢や令息も何人かいるようだ。彼女の菓子を楽しみにしていた子どもたちも、大勢いる。
だが、サフィールにはすべてがどうでもいいことだ。
「兄さん」
同じく黒い服を着たアルジャンが、目の前に立っている。彼が何を言おうと、どうでもいいことだ。
「兄さん、花を。ジョゼに別れの挨拶を」
「……そんなことをしても、ジョゼは生き返らない」
「でも、そうしないと兄さんは前に進めないでしょう」
「俺は進まない。ずっとここにいる」
――どうして、ジョゼが死ななければならなかった? どうして。
ジョゼが『真に愛する者』だったのかどうかは、サフィールにとってはどうでもよかった。ただ彼女と幸せになりたいと願っただけなのに、なぜ奪われなければならないのか、それがわからない。
「どうして、聖母神は俺からジョゼを奪ったんだ」
「兄さん、聖母神様が見ている前で滅多なことを言わないでください。早く行きましょう。……いいですよ、連れて行ってください」
アルジャンはそばにいた騎士に「兄王子を引きずってでも祭壇へ連れて行くように」と指示する。騎士に抱えられながら、サフィールはボロボロと涙を流す。
「俺じゃ、ダメなのか? 俺じゃ、無理、だったのか?」
幸せにしたいと、幸せになりたいと、願うことはいけないことなのか。いや、そんなことはないはずだ。幸福になる権利は、誰しもが有しているはずだ。
サフィールは自問自答する。
「ジョゼを、幸せに、したかったのに」
「そうですね」
「今度こそ……今度こそと、思ったのに」
「うん」
白い階段から二人の王子が下りていくと、人垣がさっと分かれていく。一人は騎士に抱えられてめそめそと泣いているため、物珍しそうに眺めている人もいる。
「これはこれは、サフィール王子殿下、アルジャン王子殿下」
ロベール伯爵が、夫人や娘たちとともに頭を下げる。聖母神像の前に作られた祭壇に、真っ白な棺がある。
「……美しいでしょう。まるで眠っているかのようです」
ジョゼは藍色のドレスを着て、眠っている。婚約者に名乗りを上げていたサフィールに配慮して、その色のドレスを着させたのだろう。青の王子の花嫁にふさわしいようにと。
「……ジョゼ」
騎士から降ろされ、フラフラとした足取りで、サフィールは棺にすがりつく。
「……目を、開けてくれないか、ジョゼ」
棺の中には、色とりどりの花が並べられている。別れの挨拶として、参列者が入れたものだ。
「ジョゼ、幸せにすると、今度こそ幸せになろうと、約束したじゃないか」
サフィールが、ジョゼの手を取る。その真っ白な手は、冷たく、石のように硬い。もう生きてはいないのだと、悲しい現実を突きつけてくる。
「ジョゼ、目を開けてくれ。口を開いてくれ。手を、握って、握り返して……あぁ、ジョゼ」
ロベール伯爵夫人、妹たち、そして参列者は、サフィールの言葉に涙を拭う。
「ジョゼ、お願いだ、お願いだから、また俺の名前を、呼んでくれないか。俺のために、杏の菓子を、作ってくれないか。ジョゼ、お願いだから……お願いだから!」
サフィールの中に深い絶望が生まれる。
ようやく、幸せになれると思ったのに。幸せにできると思ったのに。
サフィールは今にも動き出しそうなジョゼの頬に触れる。だが、それはただの化粧で、実際には冷たさを、絶望を返してくるだけだ。
「ジョゼ……」
「兄さん、そろそろ」
「嫌だ。俺はジョゼのそばにいる。約束したんだ。俺はジョゼを諦めない」
アルジャンは溜め息をつく。「連れて行って」と指示された騎士は、悲しげな顔をしながら、棺からサフィールを引き離す。
「ジョゼ……ジョゼ! 俺は何度生まれ変わっても、またきみを見つけるから!」
――何度生まれ変わっても、何度不幸な目にあっても、またジョゼと幸福な結末を探したい。だから、何度でも、きみと――。
サフィールはボロボロと涙をこぼし、愛しい人の名前を呼ぶ。声を枯らし、何度でも来世での幸福を誓う。
居合わせた人々は、サフィールが本当にジョゼフィーヌを愛していたのだと嘆き、同じように悲しみ、彼が取り乱した様子を悪しざまに言うこともなかった。
愛し合う二人は結ばれなかった――その悲劇的な情景だけが、国民の心に影を落とすのだった。
ただ一人の人物を除いては。
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