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33話、姉。

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「高梨は何で川口を振ったの?」

 ズバッと本題から切り込んでくるあたり、さすがカナ。私はメニューで顔を覆ってしまいたくなる。
 平日のリストランテ・マミヤは混雑している。職場から近すぎず遠すぎず、価格もリーズナブル。ランチには持ってこいの場所だ。デミグラスソースのオムライスが絶品で、私はそれが大好きだ。
 オムライスランチを頼み、水を一口飲み込んで、深呼吸をしてから、ようやくカナの顔を見ることができた。

「何で、知っているの?」
「昨日泣きつかれたのよ。川口を焚きつけたのが私だから、責任感じてね。で、川口のどこがダメだったの? 高梨に好きな人がいるなんて今まで聞いたことなかったけど?」

 なるほど。カナが川口の相談相手だったというわけか。なら、事情をよく知っているだろう。
 先にやってきたサラダをフォークでつつく。キャベツにレタス、トマトにキュウリ。彩り鮮やかなサラダなのに、私の頭の中は真っ白だ。

「就職が決まった院生もダメ、職場の同期もダメ。高梨は誰ならいいの?」
「……昔から、好きな人はいたの。でも、打ち明ける勇気はなかったし、恋人になる将来を想像できなくて、なんて言うか、諦めてて」
「諦めていたけど、諦めきれていなかった、ってこと?」
「そう、だね。二人から告白されて、やっぱり好きだなーって再確認しちゃって」

 ふうん、と小さく呟いて、カナもサラダを頬張る。日替わりで変わるドレッシングは、今日はゴマ。アッサリしていて、青じそと同じくらい好きだ。

「昔からってことは、初恋の人とか?」
「そうじゃないけど、まぁ、似たようなものかな。長いこと片想いしてたから」

 カナは日替わりランチ。白身魚のソテーとフライ。器用に切り分けて口へ運んでいる。
 オムライスの玉子をスプーンで掬い、デミグラスソースと一緒に食べる。程よい甘さが口いっぱいに広がる。美味しい。

「で、その人に想いは伝えるの?」
「……伝えちゃった」

 無言になったカナを見上げる。いつもクールなカナだけど、目を丸くしている彼女は初めて見た。新鮮な感じだ。

「長年言えなかったのに?」
「うん……自分が一番びっくりしてるよ」
「で、答えは?」
「あー……付き合うことになった、かな」
「急転直下だね、まったく」

 おっしゃる通り。
 まったく、びっくりの展開です。

「どういう人? 高校の同級生とか?」

 あ、カナ、全部聞き出すつもりだ。
 さすがに正直に全部答えてしまうと、弟だってバレてしまいそうだから、私は言いよどんでしまう。でも、カナにも嘘は付きたくないし、困った。
 それを察知してか、カナは「なるほど、秘密なのね」とうなずく。そして、それ以上の詮索はしてこなくなった。

「まぁ、いいんじゃない? 初々しい感じのデートを重ねて、長年の想いを打ち明けていけば」
「そうだね。デートしたいなぁ。手とか、繋いでみたいな」

 昨夜、全部すっ飛ばして、セックスから始めてしまった。これから、少しずつ思い出を作っていけばいいかな。家族ではなくて、恋人としての思い出を。

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