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第十四話 幸せの幽霊屋敷ツアー

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裁判が終わり、私は無事に元スレア伯爵のタウンハウスを手に入れた。
この屋敷は正式には『フランメル準子爵邸』だが、ほぼ『マリーゼ邸』の呼び名で通っている。

家宅捜索で遺体が見つかったジェームス、アニー、ジョンは共同で葬儀が行われた。出席者には私の他に、ジョンの孫で七歳の男の子のレンと、ジェームスの兄であるアンバー男爵もいた。ジェームスはアンバー家の墓に、他の二人は教会所有の共同墓地に埋葬された。ハンター先生は生死不明のため、今回の葬儀リストから外されている。

私は葬儀が終わった後も、月に一度はそれぞれの墓所を訪れ、花を供えている。
無事に亡骸が収まるべき場所に収まった三人だったけれど、彼らの魂は天に昇る道を選ばなかった。

「我々はまだまだこの世に残りますよ。マリーゼ様をお助けしたいですからね。
何より、シェアリアをこの世に放ったままでは、安心して旅立てません」

ジェームスの言葉にうなずくアニーとジョン。

「皆、ありがとう、感謝するわ。問題は山積みだもの」

あれから私は準子爵になった。しかし実際には無職だ。
屋敷は得ても、その他の領地は国の物になり、領地収入が得られる訳ではない。

ただ、この屋敷に置かれていた美術品や調度品、シェアリアが置いていったドレス等を少しずつ売っていけば、生活には困らないと思う。

裁判の時に法廷で話したが、この屋敷には三人の他にも、使用人だった地縛霊が十数人いた。彼らは殺されたのではなく、ただ行き場がなく彷徨っているだけの無害な存在だ。彼らに「人手が足りないから」と頼むと、屋敷の雑用を手伝ってくれるようになったのだ。おかげで広い屋敷だが、何とか管理できている。

食事も洗濯も私一人分だし、食材は庶民の格好をして、自分で市場で買っている。侵入者がいても皆が脅して追い払ってくれるから、護衛も必要ないのだ。せいぜい、門番だった古い霊に、来客が来たら教えてくれるよう、お願いした程度だった。
そんなこんなで生活には、さほどお金が掛からない。

だけど、新たな収入源がないのは困る。
私達には、シェアリアに復讐するという、大きな目的があった。
行方をくらました彼女を探し出し、罪を償わせなければならない。

しかし、情報を得たり、現地に向かったり等、人探しには何かとお金がかかるのだ。
今のままでは、とても彼女を捜索できそうにない。
ジャンの孫への仕送りも、続けなければならなかった。

いくらかでも収入を得ようと、使用人を募集する貴族の屋敷に面接に行ったが、ことごとく断られた。
私が幽霊屋敷に住んでいるのは有名になっているらしく、気味悪がられたのだ。

とはいえ自分で起業しようにも、私は商売には疎く、何から始めるべきなのかも分からなかった。
そもそも元手もない。

「ジェームス、どうしたらいいかしら?」

「そうですね……私に一つ、考えがあります」



***



「皆様、本日はよくぞおいで下さいました。
それでは、これよりツアーを開始いたします」

ここはマリーゼ邸、正面玄関。ガイド役の私は、つばの短い紺色の帽子とカッチリしたジャケットを着用し、三角形の旗をはためかせた。

目の前には、老若男女を取り混ぜた、十人の貴族が立ち並ぶ。彼らがツアー客だ。中には夫婦で参加している者もいる。参加料は、一人当たり二十万セン。庶民には高額だが、貴族の話題作りになら手頃な値段だろう。



数週間前、屋敷の門にたくさんの張り紙をした。



________________



『最後に幸せが訪れる、恐怖の幽霊屋敷ツアー』



日程:二月十二日 午後二時

参加費:二十万セン(料金後払い)

集合場所:マリーゼ邸・正門前

◎先着十名様まで



本物の幽霊が出ると評判のマリーゼ邸で
あなたも冒険しませんか?
驚愕の心霊現象がお目にかかれます
(身の安全は保障いたします)

ゴールまで辿り着いた参加者には
尊いお方より祝福を与えられます

参加ご希望の方は、当家当てに郵送でご連絡を
(二月五日必着)



________________



こんな内容でも、応募者はいるものだ。貴族とは、よっぽど暇なのだろう。
念の為、参加者全員の点呼を取り、屋敷に足を踏み入れる。
玄関ホールは普通の屋敷のように明るい。だが人気がなく閑散としている。

「皆様、私からあまり離れないでくださいね」
「本当に出るのか?」

低位貴族と思われる一人の男性が、疑わし気につぶやく。



バーーーーーーーーン!!!!



参加者全員が屋敷内に入ったところで、玄関の扉が、大きく音を響かせ、閉じた。
窓から入っていたはずの陽射しがいきなり途切れ、空を雨雲が覆い、激しい雨が窓を叩き付ける。

「えっ!? 何!?」

婦人が不安そうな声を上げ、夫らしき男性にしがみつく。

「ギャアアアアアアアアアア……」

直後、断末魔のような男の悲鳴が響き渡った。
薄暗い邸内を薄らぼんやりと光を放つ火の玉のようなものが、いくつも飛び回る。

「皆様!あちらに逃げましょう!」

私は自分で人魂を操りながら、ツアー客をパーティー用の広いホールへと導いた。
ホールの天井には大きなシャンデリアがいくつも灯り、外の嵐で暗くなった室内を柔らかい光で照らしている。
参加客は皆、一様に胸を撫で下ろし、安心した様子だ。

「いやあ、最初は驚いたが、それほどでもありませんな」

……などと、余裕をかまし始めた客が出始めたところで、私はシャンデリアの灯を一斉に消した。

(皆、今よ!)

私が合図を送ると、元ピアニストの霊がグランドピアノで葬送行進曲を奏で始める。
ジョンとジェームス、その他、元々この屋敷に住んでいた霊たちが、一斉に半透明の姿を現した。全員、血まみれのメイクを施してある。

「誰だ……この屋敷に勝手に入ってきたのは誰だ……」

亡霊が苦し気にうめきながら、こちらへ近付いてくる。

「ヒイイイイ! こっちに来るな!」

叫ぶ貴族のところまで来た霊たちは、そのまま客に向かって突進し、彼らの身体を通り抜けたと思うと、踵を返して天井に浮かび上がった。あまりの恐怖に腰を抜かしたり、気絶しそうになっている人もいる。
こんなの、事情を知らなかったら私でも怖い。トリックでも何でもなく、出演者全員が本物なのだから。

私は客を驚かせる係の皆に、手加減しながら、徐々にフェードアウトしてもらうように指示を出す。
幽霊たちがいなくなったホールに、再び明かりが点いた。

「ご安心ください、亡者どもは立ち去りました」

座り込んでいたツアー客の最後の一人が、何とか立ち上がれるようになった頃、私はあるドアの前に、客達を集合させた。

「皆様、大変お疲れ様でした。いよいよ最後の部屋にお連れ致します。くれぐれも失礼のないように。よろしいですか?」

「ああ……」
「あ、うん……」
「……わ、わかった」

客の貴族達の返事は、まばらだった。
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