異世界のキルヒ

がおきち

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3話

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りんりん、とフルーツを食べ終えた丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。
きっと、さっきの人だろう。
ルークはまた「ちょっと待っててね」と言うと玄関のほうへ行った。
二回も来るなんて、やっぱり、ルークの恋人だよね…。
俺がルークの家にいると、ルークの恋人が、ルークの家に来られなくなっちゃう。
でも、住み込みで働くとなると怖いっていうのが分かったし…。

出来るだけ早く出て行けるように、早く仕事を見つけないと…。

そんなことを考えていると、ルークと、もう一人男の人が入ってきた。


「え!可愛い!!ちょっとルーク、ずるいんですけど!?」

「うるさい。ごめんね、リン…。どうしてもリンに会ってみたいって聞かなくて」

「へえ~、リンちゃんって言うんだ!よろしくね!俺はネロだよ!」


笑顔で近づいてきたと思ったら、ぎゅーっと何故か抱きしめられる。
びっくりして固まっていると、「ふざけすぎだ。」と、ネロさんをルークが引きはがした。


「あ、あの、えっと」

「俺は肉屋やってて、ルークの幼馴染なんだ!気軽に会いに来てね!」

「はいはい。リン、お風呂入ろっか。」


ルークはそう言うと俺の手を掴んで、お風呂場まで歩き出した。
ネロさんは凄い話しかけてくれているのに、俺は全然話せなくて、申し訳ない気分になる。
でも、洗面所に入る前にちら、とネロさんを見ると目が合って笑ってくれた。


「そこに置いてあるシャンプーとか、好きに使ってくれていいよ。洋服はあとで置きに来るから、それ着てね。」

「うん、ありがとう」


ルークが出て行ってから服を脱いで、お風呂場に入る。
窓から入る光がお風呂のお湯にうつって、お風呂場全体がキラキラと輝いていた。
全体が白っぽくて綺麗で、それになんだか嗅いだことのないようないい匂いがする。
俺が住んでいた家よりも広くて、バスタブも大きい。
なんとなくバスタブの中をのぞいてみると、黄色い色をした果物が浮かんでいた。
ミカン風呂、とか、ゆず風呂、みたいな感じかもしれない。

シャワーを浴びて、シャンプーとボディソープも借りて、洗い終わってお湯の中に入る。


「あつっ!」


足を入れると、想像以上にお湯が熱くて慌てて足を引っ込めた。
普通の家のお風呂の温度じゃなくて、温泉くらいありそう。
でも、家で温泉気分になれるのはいいな、と思ってそのまま我慢して入る。
熱くて肌がピリピリして、足で肌をすり合わせて熱さを誤魔化す。


「俺、なんでここに来たんだろう」


熱さに慣れたころ、お湯の中に入ってぼーっとしていると、ぽつり、とそんな声が漏れた。

家族は父親しかいなくて、仲が良いとは言えなかった。
高校には馴染めずに、一人も友達と呼べる人ができなかった。
小学校、中学校の友達は、中学を卒業してから会わなくなり、その場だけの友達になってた。

でも、これが俺の普通だって思ってたからか、そんなに辛くなかった。
人に冷たくされても、自分と向き合ってくれる人がいなくても、慣れてしまっていた。大丈夫だった。


でも初対面の怪しい男に、こんなに優しく親切にしてくれる人と出会ってしまったら、これまでの生活になんて戻ることはできないと思う。
目が覚めたら日本で、またいつもの毎日が始まってしまったら、俺は今まで通りの生活なんてできない。
温かさをきっと求めてしまう。ルークのことを探してしまう。


異世界から来た人の戻り方はわからない、と聞いたときは困ったけど、今は少しほっとしてるかもしれない。


まだ1日もたってないのに、そんなこと思ってて、俺、平気かな。危機感なさすぎるかな。
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