女王蜂

宮成 亜枇

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「なぁ……。お前、何であんなバカなこと、してんだよ?」
「えっ? 何だよ急に」
「あの店。『食ってやる』って言ったけどさ。……あれが、お前の言う食うって、事なのか?」
 それは、あることを思い出させる。理由がわからない苛立ちは再び募り、原因となっている男に向かって、吐き出される。
「……行ったの?」
「『連れて行かれた』んだよ。荻原さんに」
その言葉に、古城は再び驚いたような表情を見せた。そう言われれば、と思い返す。荻原が今、どんな仕事をしているのかを。
 相手は『同年代』と、楓伝いで知っていた。……それが、まさか。
 しかし、荻原は迎えには来るが店に入ることはない。古城があの店で働く事も、あまり快く思っていないのを知っている。なのに、何故。

「……教えてやろうか?」
「えっ?」
「『食う』って、どういう事なのかを」

 聞いたことのない、低い声。
 放たれた一音にゾクッと、背筋を走るものがある。見れば瞳も……、あの時と同じような光を、奥底に宿している。
 ヒュッと、喉が鳴る。知らず息を飲み込んでいたようだ。
 逃げたくて、身体に力を入れようとして失敗した。それならせめて、目を逸らしたいのに、できない。

『捕らわれる』。
 知らないうちに張られた、蜘蛛の糸に。
 もがけばもがくほど糸が絡まり、身動きが取れなくなる。……まるで、揚羽蝶。

 ゆっくりと男は近づく。何が彼をここまで豹変させたのか、全くわからない。
 怖い。……が。
 同時に、何故か身体の真芯が別の反応を示し始める。
(えっ……)
 それを、古城が認識するか否か。

「うわ……っ」
 強い圧力を、上から感じた。と、同時に。

「んっ! んんーーっ!!」
 声を、飲み込まれる。

 重なった唇は、熱い。せめてもの抵抗として、力を込め、これ以上の侵入は拒むが、パジャマにカーディガンを羽織っただけの格好は、手のひらを拒否するには無防備だ。
 あっさりと、肌 の上を滑らせた指は。
「んっ!……んぁっ!!」
 胸の尖りにたどり着き、いたずらに弄ぶ。
「んやっ! ああ……っ」

 嫌なはずなのに。与えられる刺激を、まるで身体は望んでいたかのように、受け入れる。抑えきれなかった声を、水無瀬が聞き逃すことはなく。
「んっ、ふ、うん……っ」
 口腔内に入り込み、逃げようとする舌を捕らえ、絡ませる。
 漏れる声は 艶を帯び。
 消えることのなかった燻りは、燃え上がる材料を見つけ、一気に火をつけた。


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