30 / 77
30
しおりを挟む
そうした家族団らんの後。
「ワリ。待たせた」
と、やっと子供を寝かしつけた鷲尾が、リビングに戻ってきた。
「平気。あれだけ興奮してるとなかなか寝なかったでしょ?」
「ああ、大変だった。……いつもあんな感じ?」
「ううん。俺と一緒だとすぐだよ。たぶん、一真に甘えたいんじゃない? 完全にパパっ子になってる」
疲れた様子でソファーに座る鷲尾に、「飲んだら?」とビールを勧めながら入江は会話を進める。その様子を、佐々木はキッチンから微笑ましげに見つめていた。
『護衛』のためにこの家族とともにいて、たまたま家事が得意だったこともあり、苦手な入江に代わり家政夫としても働いている。しかし、これが最も『護る』ために最適な手段だと言う事も、佐々木自身が実感している。
入江は知らないだろう。元々高級住宅街、他にも、この近辺の護衛を任されている者が複数いる。
佐々木は主に、この家で爽太を護り、面倒を見ることを主としているが。入江が職場に向かう間、また、ここに戻ってくるまでの間。ひっそりと様子を伺い、代わる代わる警護をしているものがいる事を。それは、『鷲尾』に頼まれたことではないが、佐々木の所属先の判断で、行っている。
それだけ。彼らは社会的に重要な立場にある、と言うことだ。
だからこそ、思う。この、わずかではあるが与えられた時間。そこに自分が入り込んでいていいものかと。
帰ろうと思ったのだが「佐々木くんの話も聞きたいからここにいて」と鷲尾に言われ、仕方なくここにいる。なので、多少居心地が悪いのは否めない。
「で、何があったの? あの後」
落ち着いたところで、入江が問う。
「ん? ああ……。実はさ、予定は全部キャンセルしてたから、もっと早く帰ろうと思えば帰れたんだけど。荻原さんにつき合って欲しいところがあるって言われて、行ってきたんだよ」
ふぅ、と。重たい息を吐きながら鷲尾は言う。
「朔夜は、知ってる?オメガって、どういう仕事してるか、とかそう言うの」
「え?まあ、だいたい。抑制剤使って一般企業で働いてる人もいるけれど、それはわずか。大抵は……、時間に自由が利く自営か、あとはアルバイトか……」
考え込みながら、入江は答える。聞いていた佐々木もそんなものだ、と相づちを打った。
「やっぱ、朔夜も佐々木くんもそうだよな。でもさ……。それだけじゃねぇんだよ。……ホストクラブか、キャバクラって、言っていいのかわからないけど。そこ、行ってきて」
「えっ? ちょっと待って? ……どういう事っ!?」
「待って! 朔夜っ、落ち着けって。俺、そう言うの全く興味ないからっ」
出てきた単語に声を荒げる入江に、鷲尾は慌てて伝える。もちろん、興味がないのは理解していても、夫、となる人物からそんな単語が飛び出したら、落ち着いていられるはずがない。
「行ったのはさ、そう言うわけじゃなくて。ほら、今日入院したオメガ、いただろ? あいつ、そこで働いてるみたいなんだ。それでさ。……この場合、ホストって言っていいのかどうかわかんねぇけど、店に出てるの、みんなオメガだった。で、客はほぼアルファ。荻原さんの話によると、ソイツはやってないけれど、アフターやってるオメガも当然いて。……ソイツらは、自分の身体も、金に換えてるって」
何とか宥めながら、鷲尾は説明する。それは。
「うそ……」
入江と佐々木に、少なからず衝撃を与えた。
「ワリ。待たせた」
と、やっと子供を寝かしつけた鷲尾が、リビングに戻ってきた。
「平気。あれだけ興奮してるとなかなか寝なかったでしょ?」
「ああ、大変だった。……いつもあんな感じ?」
「ううん。俺と一緒だとすぐだよ。たぶん、一真に甘えたいんじゃない? 完全にパパっ子になってる」
疲れた様子でソファーに座る鷲尾に、「飲んだら?」とビールを勧めながら入江は会話を進める。その様子を、佐々木はキッチンから微笑ましげに見つめていた。
『護衛』のためにこの家族とともにいて、たまたま家事が得意だったこともあり、苦手な入江に代わり家政夫としても働いている。しかし、これが最も『護る』ために最適な手段だと言う事も、佐々木自身が実感している。
入江は知らないだろう。元々高級住宅街、他にも、この近辺の護衛を任されている者が複数いる。
佐々木は主に、この家で爽太を護り、面倒を見ることを主としているが。入江が職場に向かう間、また、ここに戻ってくるまでの間。ひっそりと様子を伺い、代わる代わる警護をしているものがいる事を。それは、『鷲尾』に頼まれたことではないが、佐々木の所属先の判断で、行っている。
それだけ。彼らは社会的に重要な立場にある、と言うことだ。
だからこそ、思う。この、わずかではあるが与えられた時間。そこに自分が入り込んでいていいものかと。
帰ろうと思ったのだが「佐々木くんの話も聞きたいからここにいて」と鷲尾に言われ、仕方なくここにいる。なので、多少居心地が悪いのは否めない。
「で、何があったの? あの後」
落ち着いたところで、入江が問う。
「ん? ああ……。実はさ、予定は全部キャンセルしてたから、もっと早く帰ろうと思えば帰れたんだけど。荻原さんにつき合って欲しいところがあるって言われて、行ってきたんだよ」
ふぅ、と。重たい息を吐きながら鷲尾は言う。
「朔夜は、知ってる?オメガって、どういう仕事してるか、とかそう言うの」
「え?まあ、だいたい。抑制剤使って一般企業で働いてる人もいるけれど、それはわずか。大抵は……、時間に自由が利く自営か、あとはアルバイトか……」
考え込みながら、入江は答える。聞いていた佐々木もそんなものだ、と相づちを打った。
「やっぱ、朔夜も佐々木くんもそうだよな。でもさ……。それだけじゃねぇんだよ。……ホストクラブか、キャバクラって、言っていいのかわからないけど。そこ、行ってきて」
「えっ? ちょっと待って? ……どういう事っ!?」
「待って! 朔夜っ、落ち着けって。俺、そう言うの全く興味ないからっ」
出てきた単語に声を荒げる入江に、鷲尾は慌てて伝える。もちろん、興味がないのは理解していても、夫、となる人物からそんな単語が飛び出したら、落ち着いていられるはずがない。
「行ったのはさ、そう言うわけじゃなくて。ほら、今日入院したオメガ、いただろ? あいつ、そこで働いてるみたいなんだ。それでさ。……この場合、ホストって言っていいのかどうかわかんねぇけど、店に出てるの、みんなオメガだった。で、客はほぼアルファ。荻原さんの話によると、ソイツはやってないけれど、アフターやってるオメガも当然いて。……ソイツらは、自分の身体も、金に換えてるって」
何とか宥めながら、鷲尾は説明する。それは。
「うそ……」
入江と佐々木に、少なからず衝撃を与えた。
1
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔
三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)!
友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。
【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…?
【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編
【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編
【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場
【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ
【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る
【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい
【第8章 終章】 短編詰め合わせ
※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる