43 / 46
Chapter7
3
しおりを挟む
綾瀬の作った酒を一気にあおり、笹本は続ける。
「樹くんってさ。なんて言うんだろう……。こんな言い方したら失礼なんだけど、才能があるおかげで、欲しいって望んだものを、たぶんそんなに苦労しないで、今まで手に入れてきたんだよね……」
それは、間宮も感じていた。
実際に会ったのはあの数分であったが。それだけで十分すぎるほど。
「だからこそ、気づかなかったんじゃないのかな? ……綾瀬くんへの想いに」
「へっ? 俺??」
「そう。……ひょっとして、綾瀬くんも気づかなかった? まあ……、俺も、宏之から聞かされるまではまさかって思ってたから、人の事全然言えないんだけど。今だからこそ、はっきり言える。樹くんは、綾瀬くんのことずっと好きだったんだよ」
クスリ、と。苦く笑う笹本に、綾瀬は告げる言葉がない。しかし、間宮や真澄は、それを綾瀬の話や一連の事柄から感じていたから、特に疑問には思わなかった。
「綾瀬くん。あそこまでされてこんな事言うのも何だけどさ。……樹くんのこと、悪く思わないで」
「えっ?」
「あの人ね、すごく純粋なんだよ。ホント、子供みたいに。ほら、変なたとえなんだけどさ。大好きなお母さんが弟や妹の方に気が向いたりすると、気を引こうとしてわがまま言ったり、酷いと赤ちゃんみたいになったりする事ってあるでしょ? ホント、それなんだよね」
自虐的に笑う笹本の様子は変わらない。……そのまま。
「樹くんはね。たぶん最初は気づかなかった。でも、再び会って、もう、綾瀬くんの中に樹くんがいないことに気がついて……、気を引かせたくて、もう一度、自分の方を向いて欲しくて。あんな事、したんだと思う」
こう、告げた。
両手で抱え込んだグラスは、わずかに揺れている。笹本の心がそこに現れているように、綾瀬には見えた。
彼は続ける。
「だからね。俺、言っちゃったんだよね。……あんたはガキだ! って。自分の気持ちにいい加減気づけ!って。綾瀬くんを好きなら、手に入れたいなら。どうしたらいいか考えろ。そんなことばかりしてたら、彼が離れていくに決まってるだろ? それすらわからないのかっ!! って……」
後悔を滲ませて語る笹本を、間宮は誰よりも支持したかった。
彼が語ることは、まさしく言いたかったそのもの。
ただ、それが。
ほぼ見ず知らずの自分ではなく、長年の友人から告げられた。
濱田のショックは……、相当だったはず。
「しかも俺、余計な一言言っちゃったんだよねぇ……」
「あ!あれでしょ?『あんたは呆れるくらいの大バカ者だっ!!』って。俺、それ聞いたときすごいビックリしたもん!」
「だーかーらぁ。口に出ちゃったんだよ。いくら友達だからとはいえ、社長にきく口じゃないよなぁ……」
そこまでを言い、頭を抱える笹本に。
「大丈夫、大丈夫!!」と言いながら、沢井はその肩をばしばしと叩く。
「えっ?ちょっと待って。……って、事はさ」
「そっ。それで濱田さんキレちゃってね。本気で航汰さんに殴りかかったわけ。でも、その前を俺が塞いじゃったから……ね? こうなったの」
わははっ、と笑いながら沢井は告げる。自責の念なのか、まだ苦悩する笹本に、「だからっ、これは俺が飛び出して事故っただけのようなものだから、気にしないでっ!!」と明るく振る舞う彼は、誰よりも強いメンタルの持ち主なのではないかと。
この時、間宮は思った。
「樹くんってさ。なんて言うんだろう……。こんな言い方したら失礼なんだけど、才能があるおかげで、欲しいって望んだものを、たぶんそんなに苦労しないで、今まで手に入れてきたんだよね……」
それは、間宮も感じていた。
実際に会ったのはあの数分であったが。それだけで十分すぎるほど。
「だからこそ、気づかなかったんじゃないのかな? ……綾瀬くんへの想いに」
「へっ? 俺??」
「そう。……ひょっとして、綾瀬くんも気づかなかった? まあ……、俺も、宏之から聞かされるまではまさかって思ってたから、人の事全然言えないんだけど。今だからこそ、はっきり言える。樹くんは、綾瀬くんのことずっと好きだったんだよ」
クスリ、と。苦く笑う笹本に、綾瀬は告げる言葉がない。しかし、間宮や真澄は、それを綾瀬の話や一連の事柄から感じていたから、特に疑問には思わなかった。
「綾瀬くん。あそこまでされてこんな事言うのも何だけどさ。……樹くんのこと、悪く思わないで」
「えっ?」
「あの人ね、すごく純粋なんだよ。ホント、子供みたいに。ほら、変なたとえなんだけどさ。大好きなお母さんが弟や妹の方に気が向いたりすると、気を引こうとしてわがまま言ったり、酷いと赤ちゃんみたいになったりする事ってあるでしょ? ホント、それなんだよね」
自虐的に笑う笹本の様子は変わらない。……そのまま。
「樹くんはね。たぶん最初は気づかなかった。でも、再び会って、もう、綾瀬くんの中に樹くんがいないことに気がついて……、気を引かせたくて、もう一度、自分の方を向いて欲しくて。あんな事、したんだと思う」
こう、告げた。
両手で抱え込んだグラスは、わずかに揺れている。笹本の心がそこに現れているように、綾瀬には見えた。
彼は続ける。
「だからね。俺、言っちゃったんだよね。……あんたはガキだ! って。自分の気持ちにいい加減気づけ!って。綾瀬くんを好きなら、手に入れたいなら。どうしたらいいか考えろ。そんなことばかりしてたら、彼が離れていくに決まってるだろ? それすらわからないのかっ!! って……」
後悔を滲ませて語る笹本を、間宮は誰よりも支持したかった。
彼が語ることは、まさしく言いたかったそのもの。
ただ、それが。
ほぼ見ず知らずの自分ではなく、長年の友人から告げられた。
濱田のショックは……、相当だったはず。
「しかも俺、余計な一言言っちゃったんだよねぇ……」
「あ!あれでしょ?『あんたは呆れるくらいの大バカ者だっ!!』って。俺、それ聞いたときすごいビックリしたもん!」
「だーかーらぁ。口に出ちゃったんだよ。いくら友達だからとはいえ、社長にきく口じゃないよなぁ……」
そこまでを言い、頭を抱える笹本に。
「大丈夫、大丈夫!!」と言いながら、沢井はその肩をばしばしと叩く。
「えっ?ちょっと待って。……って、事はさ」
「そっ。それで濱田さんキレちゃってね。本気で航汰さんに殴りかかったわけ。でも、その前を俺が塞いじゃったから……ね? こうなったの」
わははっ、と笑いながら沢井は告げる。自責の念なのか、まだ苦悩する笹本に、「だからっ、これは俺が飛び出して事故っただけのようなものだから、気にしないでっ!!」と明るく振る舞う彼は、誰よりも強いメンタルの持ち主なのではないかと。
この時、間宮は思った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
窓辺へ続く青春に僕たちの幕が上がる
不来方しい
BL
桜に染まったあの日から十年。中学校卒業と同時に別れが訪れた。
優しいキスしか残さなかった彼は、行く先も高校も告げずに目の前から消えた。
痛みを抱えたままの倉木窓夏は、動物園で働くという夢を叶え、平穏な毎日を過ごしていた。「キリンって、どんな鳴き声ですか?」話しかけてきた男性は、十年前に別れた藤宮秋尋だった。
モデルや俳優の仕事をしている彼と再び連絡を取るようになり、距離が近づいていく。
彼が人気モデルだと知らなかった窓夏は、まさか記者に追い回されているとも知らずに深い仲へと発展し、同棲するようになるが……。
そして永遠になる
三ツ葉りお
BL
有名ロックバンドボーカル(25)✕平凡なサラリーマン(20)
朝目覚めると、そこは自分の部屋ではなく、ホテルのスイートルームだった。自分が寝ているベッドの隣には、見知らぬ男性が寝ていて───。
一夜の過ちから始まるラブコメ。
鼓動の速さでわかる事
三愛 紫月 (さんあい しづき)
BL
愛してる。梨寿(りじゅ)&真白が映画で見に行った芸能人のお話です。
その中の映画の内容と、芸能人のお話。
これから先も、愛してる。
愛してる。梨寿(りじゅ)&真白
愛してる。由紀斗&千尋
も、お読みいただく方がより楽しめると思います。
三万文字以内の短編小説になります。
これから先も、愛してる
↓
愛してる。真白&梨寿(りじゅ)
↓
愛してる。由紀斗&千尋
↓
鼓動の速さでわかる事
の順番になります。
実は、秘密のdiaryの八(はち)と九(きゅう)も見に行っていました。
闇を照らす光の君ー静樹ーで、夏子と静樹も見に行っていました。
ちなみに、闇を照らす桜の木ー夏子ーと、愛してる、由紀斗&千尋では、鴨池はやてがのちにやるバンドの大ファンに夏子と千尋はなっています。
小説家になろう、カクヨムにも載せています。
【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた
さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。
――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。
受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。
BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。
さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。
【完結】推しに求愛された地味で平凡な俺の話
古井重箱
BL
【あらすじ】沢辺誠司は実家の酒販店で働く27歳。シンガーソングライターの貝塚響也の火力強めのファンである。ある日、ひょんなことから沢辺は貝塚のピンチを救う。そのことがきっかけで沢辺は貝塚に惚れられる。「全力でお断りします! 推しと同じフレームに俺みたいな凡人が収まっちゃダメでしょう!」「推しじゃなくて、ひとりの人間として僕を見てほしい」交流するうちにやがて、沢辺は貝塚を意識し始める。
【注記】独占欲強めの繊細王子様×自分の殻を破りたいと願う平凡くん。【掲載先】自サイト、ムーンライトノベルズ、pixiv、エブリスタ、フジョッシー、カクヨム(全年齢版)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる