Chaka

宮成 亜枇

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Chapter7

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 綾瀬の作った酒を一気にあおり、笹本は続ける。
「樹くんってさ。なんて言うんだろう……。こんな言い方したら失礼なんだけど、才能があるおかげで、欲しいって望んだものを、たぶんそんなに苦労しないで、今まで手に入れてきたんだよね……」
 それは、間宮も感じていた。
 実際に会ったのはあの数分であったが。それだけで十分すぎるほど。
「だからこそ、気づかなかったんじゃないのかな? ……綾瀬くんへの想いに」
「へっ? 俺??」
「そう。……ひょっとして、綾瀬くんも気づかなかった? まあ……、俺も、宏之から聞かされるまではまさかって思ってたから、人の事全然言えないんだけど。今だからこそ、はっきり言える。樹くんは、綾瀬くんのことずっと好きだったんだよ」
 クスリ、と。苦く笑う笹本に、綾瀬は告げる言葉がない。しかし、間宮や真澄は、それを綾瀬の話や一連の事柄から感じていたから、特に疑問には思わなかった。
「綾瀬くん。あそこまでされてこんな事言うのも何だけどさ。……樹くんのこと、悪く思わないで」
「えっ?」
「あの人ね、すごく純粋なんだよ。ホント、子供みたいに。ほら、変なたとえなんだけどさ。大好きなお母さんが弟や妹の方に気が向いたりすると、気を引こうとしてわがまま言ったり、酷いと赤ちゃんみたいになったりする事ってあるでしょ? ホント、それなんだよね」
 自虐的に笑う笹本の様子は変わらない。……そのまま。
「樹くんはね。たぶん最初は気づかなかった。でも、再び会って、もう、綾瀬くんの中に樹くんがいないことに気がついて……、気を引かせたくて、もう一度、自分の方を向いて欲しくて。あんな事、したんだと思う」
 こう、告げた。
 両手で抱え込んだグラスは、わずかに揺れている。笹本の心がそこに現れているように、綾瀬には見えた。

 彼は続ける。
「だからね。俺、言っちゃったんだよね。……あんたはガキだ! って。自分の気持ちにいい加減気づけ!って。綾瀬くんを好きなら、手に入れたいなら。どうしたらいいか考えろ。そんなことばかりしてたら、彼が離れていくに決まってるだろ? それすらわからないのかっ!! って……」
 後悔を滲ませて語る笹本を、間宮は誰よりも支持したかった。
 彼が語ることは、まさしく言いたかったそのもの。
 ただ、それが。
 ほぼ見ず知らずの自分ではなく、長年の友人から告げられた。
 濱田のショックは……、相当だったはず。
「しかも俺、余計な一言言っちゃったんだよねぇ……」
「あ!あれでしょ?『あんたは呆れるくらいの大バカ者だっ!!』って。俺、それ聞いたときすごいビックリしたもん!」
「だーかーらぁ。口に出ちゃったんだよ。いくら友達だからとはいえ、社長にきく口じゃないよなぁ……」
 そこまでを言い、頭を抱える笹本に。
「大丈夫、大丈夫!!」と言いながら、沢井はその肩をばしばしと叩く。
「えっ?ちょっと待って。……って、事はさ」
「そっ。それで濱田さんキレちゃってね。本気で航汰さんに殴りかかったわけ。でも、その前を俺が塞いじゃったから……ね? こうなったの」
 わははっ、と笑いながら沢井は告げる。自責の念なのか、まだ苦悩する笹本に、「だからっ、これは俺が飛び出して事故っただけのようなものだから、気にしないでっ!!」と明るく振る舞う彼は、誰よりも強いメンタルの持ち主なのではないかと。
 この時、間宮は思った。
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