25 / 46
Chapter5
3
しおりを挟む
(えっ? ……ええっ!?)
唐突過ぎる出来事に、綾瀬は全く対応ができない。
その隙に。
温かくて柔らかいものが、口腔内に入り込む。
何をされているのか、理解するのに数秒かかった。
その間にも。弄ばれる舌。
それは、ある熱を呼び起こし、力が抜けそうになる。……が。『酔わされる』のはまっぴら御免。
必死で抵抗し、ありったけの力を使い。最後の手段として。
「っ!」
相手の舌を噛む、という行動でなんとか、離れることに成功する。
「何するンだよっ!」
「何って……、お前が望んでることだろ?」
「……はぁ?」
「前、俺の事が好きだって、目の前で言ったじゃねぇか。だから、してやったまでだけど? この俺がサービスしてやってんのに噛むなんて、最低だな」
……『目の前で言った』は否定する。
実際に、本人にそう告げたわけではないからだ。ただ、気づかれた。
この、一見温厚そうで勘の鋭い男に。
しかし、わからない。
あの時拒絶をしたのなら、何故今、このようなことをする?「男なんてあり得ない」と口にしたはずなのに。
そして、もう一つ気づいたことがある。
それをどう表現すればいいのか、綾瀬自身わかりかねるが。
はっきりと。自覚した。
「……その目」
「は?」
「その目が気にくわねぇんだよ。あの時は、俺が来るたびに熱を帯びた目で見てたくせにさ。……何だよっ」
引き続き、見下すような態度で濱田は言う。
先ほどよりはいくらかマシな体勢とは言え、まだ、相手に分がある。
見据えられるような視線。……冬に張る氷よりも、遙かに冷たく感じる。
そう言われて、どう返していいのか迷う。
否定はできない。過去の自分は濱田の表面的な優しさと許容の大きさに惚れ、あらゆる妄想を掻き立てていた。そう言った視線で見ていても、おかしくない。
しかし、今は。
どういった目で彼を見ているのか、綾瀬自身がわからない。
ただ、一つ言えるのは。
かつて、目の前の人物に恋い焦がれていた自分は、今はいないと言うこと。濱田にキスされたことによって、ようやく気づいた。
『恋』や『憧れ』。
かつてそんな感情を彼に抱いていた自分はもういない。残っていた気持ちも、全く別のもの。
甘酸っぱい気持ちを、もし今持っているとするのなら、その相手は……。
「……とにかく、だ」
多少、苛立ちの表情を見せた濱田だったが。
先ほどの、ムカつくほどににやついた顔に戻ると。
「お前は、尻尾振って纏わり付く犬になってればいいんだよ。できるだろ?」
殴りたくなるほどの言葉を吐く。
本来の綾瀬なら、即座に言葉で切り返しただろう。元々それだけの技量を持っているのだから。しかし。
もし、それを行えば。
あの、大切な店をこの男は、あっさりと潰しかねない。
……と、なると。
唇と噛みしめ、視線を外し。
不承不承、首を縦に振ろうとした。……その時。
「うわ……っ!!」
そう、車を走らせる男が告げたのと同時
「えっ? ……うわっ!」
キキーッ!! と言うけたたましいブレーキ音と共に、車は大きく揺さぶられ、急停止する。
あまりの勢いに、不安定な状態であった綾瀬はもちろん、シートに座っていた濱田でさえ、体勢を崩し、綾瀬にかかっていた固定の力もほどける。
「おいっ! 何があったっ!?」
「すみませんっ! ですが……っ!!」
そのやりとりを、綾瀬は他人事のように聞いていたが。
「尚哉っ! 今すぐ降りろっ!!」
……突如、外から聞こえた声。
まさか、とは思ったが、この声を持つ人物を、綾瀬は他に知らない。
そこからは、最早本能。
まだ混乱している男たちを気にもとめず、綾瀬は強引に車のロックを解除して。転がるように、車外に飛び出した。
唐突過ぎる出来事に、綾瀬は全く対応ができない。
その隙に。
温かくて柔らかいものが、口腔内に入り込む。
何をされているのか、理解するのに数秒かかった。
その間にも。弄ばれる舌。
それは、ある熱を呼び起こし、力が抜けそうになる。……が。『酔わされる』のはまっぴら御免。
必死で抵抗し、ありったけの力を使い。最後の手段として。
「っ!」
相手の舌を噛む、という行動でなんとか、離れることに成功する。
「何するンだよっ!」
「何って……、お前が望んでることだろ?」
「……はぁ?」
「前、俺の事が好きだって、目の前で言ったじゃねぇか。だから、してやったまでだけど? この俺がサービスしてやってんのに噛むなんて、最低だな」
……『目の前で言った』は否定する。
実際に、本人にそう告げたわけではないからだ。ただ、気づかれた。
この、一見温厚そうで勘の鋭い男に。
しかし、わからない。
あの時拒絶をしたのなら、何故今、このようなことをする?「男なんてあり得ない」と口にしたはずなのに。
そして、もう一つ気づいたことがある。
それをどう表現すればいいのか、綾瀬自身わかりかねるが。
はっきりと。自覚した。
「……その目」
「は?」
「その目が気にくわねぇんだよ。あの時は、俺が来るたびに熱を帯びた目で見てたくせにさ。……何だよっ」
引き続き、見下すような態度で濱田は言う。
先ほどよりはいくらかマシな体勢とは言え、まだ、相手に分がある。
見据えられるような視線。……冬に張る氷よりも、遙かに冷たく感じる。
そう言われて、どう返していいのか迷う。
否定はできない。過去の自分は濱田の表面的な優しさと許容の大きさに惚れ、あらゆる妄想を掻き立てていた。そう言った視線で見ていても、おかしくない。
しかし、今は。
どういった目で彼を見ているのか、綾瀬自身がわからない。
ただ、一つ言えるのは。
かつて、目の前の人物に恋い焦がれていた自分は、今はいないと言うこと。濱田にキスされたことによって、ようやく気づいた。
『恋』や『憧れ』。
かつてそんな感情を彼に抱いていた自分はもういない。残っていた気持ちも、全く別のもの。
甘酸っぱい気持ちを、もし今持っているとするのなら、その相手は……。
「……とにかく、だ」
多少、苛立ちの表情を見せた濱田だったが。
先ほどの、ムカつくほどににやついた顔に戻ると。
「お前は、尻尾振って纏わり付く犬になってればいいんだよ。できるだろ?」
殴りたくなるほどの言葉を吐く。
本来の綾瀬なら、即座に言葉で切り返しただろう。元々それだけの技量を持っているのだから。しかし。
もし、それを行えば。
あの、大切な店をこの男は、あっさりと潰しかねない。
……と、なると。
唇と噛みしめ、視線を外し。
不承不承、首を縦に振ろうとした。……その時。
「うわ……っ!!」
そう、車を走らせる男が告げたのと同時
「えっ? ……うわっ!」
キキーッ!! と言うけたたましいブレーキ音と共に、車は大きく揺さぶられ、急停止する。
あまりの勢いに、不安定な状態であった綾瀬はもちろん、シートに座っていた濱田でさえ、体勢を崩し、綾瀬にかかっていた固定の力もほどける。
「おいっ! 何があったっ!?」
「すみませんっ! ですが……っ!!」
そのやりとりを、綾瀬は他人事のように聞いていたが。
「尚哉っ! 今すぐ降りろっ!!」
……突如、外から聞こえた声。
まさか、とは思ったが、この声を持つ人物を、綾瀬は他に知らない。
そこからは、最早本能。
まだ混乱している男たちを気にもとめず、綾瀬は強引に車のロックを解除して。転がるように、車外に飛び出した。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
(完)そこの妊婦は誰ですか?
青空一夏
恋愛
私と夫は恋愛結婚。ラブラブなはずだった生活は3年目で壊れ始めた。
「イーサ伯爵夫人とし全く役立たずだよね? 子供ができないのはなぜなんだ! 爵位を継ぐ子供を産むことこそが女の役目なのに!」
今まで子供は例え産まれなくても、この愛にはなんの支障もない、と言っていた夫が豹変してきた。月の半分を領地の屋敷で過ごすようになった夫は、感謝祭に領地の屋敷に来るなと言う。感謝祭は親戚が集まり一族で祝いご馳走を食べる大事な行事とされているのに。
来るなと言われたものの私は王都の屋敷から領地に戻ってみた。・・・・・・そこで見たものは・・・・・・お腹の大きな妊婦だった!
これって・・・・・・
※人によっては気分を害する表現がでてきます。不快に感じられましたら深くお詫びいたします。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
【完結】18年間外の世界を知らなかった僕は魔法大国の王子様に連れ出され愛を知る
にゃーつ
BL
王族の初子が男であることは不吉とされる国ルーチェ。
妃は双子を妊娠したが、初子は男であるルイだった。殺人は最も重い罪とされるルーチェ教に基づき殺すこともできない。そこで、国民には双子の妹ニナ1人が生まれたこととしルイは城の端の部屋に閉じ込め育てられることとなった。
ルイが生まれて丸三年国では飢餓が続き、それがルイのせいであるとルイを責める両親と妹。
その後生まれてくる兄弟たちは男であっても両親に愛される。これ以上両親にも嫌われたくなくてわがまま1つ言わず、ほとんど言葉も発しないまま、外の世界も知らないまま成長していくルイ。
そんなある日、一羽の鳥が部屋の中に入り込んでくる。ルイは初めて出来たその友達にこれまで隠し通してきた胸の内を少しづつ話し始める。
ルイの身も心も限界が近づいた日、その鳥の正体が魔法大国の王子セドリックであることが判明する。さらにセドリックはルイを嫁にもらいたいと言ってきた。
初めて知る外の世界、何度も願った愛されてみたいという願い、自由な日々。
ルイにとって何もかもが新鮮で、しかし不安の大きい日々。
セドリックの大きい愛がルイを包み込む。
魔法大国王子×外の世界を知らない王子
性描写には※をつけております。
表紙は까리さんの画像メーカー使用させていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる