Chaka

宮成 亜枇

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Chapter4

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「くぁっ、あっ!」
 悲鳴とも、嬌声ともつかない声が、部屋に響く。噛みつかれた胸の尖りは、ジンジンと熱を帯び、空気に晒される。それだけで刺 激になっているのだが、時に含まれ、転がされるたびに、痛みとは違う疼きを生む。
 それだけではない。与えられるのは痛覚であるはずなのに、身体は勝手に快感に変換し、すでに反り立ってしまったもの。そして、同様に反応する間宮に、思考や感情が追いつかず、振り回される。
 熱さと、痛みに涙がこぼれる。気づいた間宮は指でそれをすくい、小さく笑った。
 それに、ドキリと。心が大きく揺さぶられる。元々、整った顔立ち。誰もが認めるイケメンだ。こんな風にされたら、男であってもこうなるだろう。だが、それだけではない。
 この揺れは、忘れていた、いや、忘れようとしていたのものに似ている。
 そう思ったのと同時。

「ぅあ、ああっ……」
 深部に、杭が入り込んでくる。ここにやっかいになってから、何度も受け入れてきたもの。もう、痛みはそれほどではないが、いつまで経っても慣れない熱。内部から灼かれるのではないかと思うほどのマグマが、綾瀬に襲いかかる。
「ひぁっ、ああっ!!」
 擦り切れるような声に情けなくなる。こんな声、出したくも聞かせたくもないのに。
 それでも。
「もっと……。聞かせろっ」
 間宮に言われると。
「んあっ、やぁ……っ」
 自然と、声が漏れてしまう。

 パン、パンというリズミカルな音は更にテンポアップして耳に届く。ナカで大きくなる間宮のものも感じる。時折表情をゆがめ、「くっ……」と小さく呻く彼。余裕がないのが伝わる。あの間宮陸仁をここまで追い込んでいる。その事実が、何故か綾瀬はうれしかった。

 何度目かわからない、熱を放ち。ナカにも注ぎ込まれる。あまりの疲労に、意識を保つのがやっと。
 身体と同様に、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた心は、どうにもならない不快感を生む。
 処理しきれなくて、こうさせた張本人に文句を言おうとして、……できなかった。
「えっ……?」
 思わず、声に出していた。
 何故なら、文句を言おうと口を開いたとき、気づいてしまったからだ。
 上から降り注ぐ、何か。

 綾瀬は、ぼんやりとした視界を何とかクリアーにしようと、必死に意識を繋げ。

 見つめる。
 そこに、あったのは。

「アンタ……」

 声もなく、ただ、肩を震わせ。
 ポタポタと、雨を降らせる男。

「なんで、泣いてるの……」

 それには。
 男はふるふると首を振るだけ。

 それを見た綾瀬は、不思議な感情にとらわれた。
 泣きじゃくる、彼が。
 こんな行為をしているにも関わらず。
 『愛おしい』。

 華やかな世界で輝き続けているのに、こんなことでしか、感情を表に出せない不器用な男を、すぐにでも、抱きしめたくて。
「……ね?」
 声を、かける。
「あなたのこと、嫌いになんてならないから」

 聞いているのかどうかは、わからない。
 男として屈辱的な行為を受けているのも十分に理解している。

 それでも。

 例えようのない、溢れる想いが。
 綾瀬に、行動を起こさせる。

「……間宮さん」
 ここに来てから、一度も呼んだことのない彼の名字を紡ぐ。

 別世界に住んでいる人物。
 いずれ、ここから出て行く身だから。
 その名を口元に残す気はなかったのだ。

 呼ばれた彼は、瞳を開き。
 視線を合わせる。

 綾瀬は、微笑み。
 柔らかく、すべてを受け入れるように。
 ……ゆっくりと、頷いた。

 間宮は、それを合図にしたかのように、彼を力一杯抱きしめ。
 綾瀬は、間宮の背中に手を回し。余った腕で、慈しむように髪を撫でた。

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