月兎

宮成 亜枇

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 鷲尾家に到着し中に入ろうとした時、朔夜はあることに気づいた。
「ウチの車……?」
 敷地内に止められた、見覚えのある車。同じ車種はもちろんあるので確定はできないが、記憶に鮮明に残っているものだった。
 車を降り、すぐに一真に手を繋がれる。いきなりのことにどうしていいかわからずにいると、
「朔夜さん」
 佐伯に呼び止められた。
「先ほど、これからは歩いて学校に通われると仰られたようですが、もしよろしければ、明日以降も変わらず、わたくしに送迎をさせて頂けませんか?」
「えっ! だって……」
「これは、わたくしの我が儘です。旦那様と奥様にどう言われようと、譲る気はございませんよ」
 ニッコリと微笑み佐伯が伝えれば、
「佐伯! よく言った!!」
 嬉しそうに一真が応じる。
「でも、あの……っ」
「それとも、わたくしの送迎は嫌でございますか?」
 それに対しては、即座にブンブンと首を振る。
「それなら構いませんね。一真様、よろしくお願い致します。譲る気はございませんが、一真様から旦那様達を説得していただけた方が、わたくしも事が運びやすい故」
「わかった! 任せろっ!!」
 自信たっぷりに一真は答え、朔夜をエスコートするように家へと向かった。

 中に入っても、繋がれた手は変わらない。何人もの使用人の視線も届き、気恥ずかしくてたまらないが、一真は全く気にしない様子。そのままリビングにたどり着くと。
「えっ?」
 先に声を上げたのは朔夜だった。それもそうだろう。
 リビングには一真の両親だけでなく、朔夜の両親、そして多英がいたからだ。
「朔夜くん、久しぶりね」
「あ、こんにちは。ご無沙汰しております。……すみません、ご挨拶もせずに」
「いいのよ。どうせ一真があなたを強引に引っ張ってきたんでしょう?」
「強引になんてしてねぇよっ!!」
  憤慨する一真を笑いながら対応するのは彼の母。可愛らしい、と言う雰囲気がとてもよく似合うが、夫と共に『鷲尾』を動かし、ここまで大きくした立役者の一人。父親も妻に呆れつつも受け入れている。堅苦しさはそこにはない。対して、朔夜の両親は彼を咎めるような視線を送る。それにより、何故両親がここに来たのかを瞬時に理解した。
『謝罪』。
 ……当然だろう。息子のふがいなさのせいでこのような事態に陥ったのだから。その事実に、泣きたくなるような心境に襲われる。
「まあ、とにかく一真も朔夜くんも座りなさい。朔夜くん、話があって来たんだろう? 聞こうじゃないか。でもその前に、お茶でも飲まないか。ずっと出かけてたんだろう?」
 言われて、二人は頷く。空いているソファーに座ると、すぐにお茶とお菓子が用意された。しかし、それに手をつけるつもりはない。とにかく謝らないと。その思いが朔夜を支配する。
「坊ちゃん」
 その時、多英から声がかかった。
「昨日のこと、そして今日一真さんが学校をお休みになった理由。それらを含めまして、わたくしの方から旦那様達にはお話申し上げました。そして少し前になりますが、多賀谷亨様より、鷲尾様宛にお電話を頂戴しております。ですから、まずはゆっくりなさって、お話はその後でよろしいのでは?」
 そう言われ、朔夜は「あっ」と小さく呟く。思い出したのだ。病院で、朔夜だけでなく一真も連絡先を教えて欲しいと言われ伝えたこと。朔夜は自身の携帯にしたが、一真は家にしたのかもしれない。そして、今更多英が行動をしていたことを思いだしたのだ。
 そうなると、最早従うしかない。何を言われるのかわからない。どれだけ怒られても仕方ないと思っているが、その矛先が一真に向かうのだけは避けたい。
 脳内で必死に策を練りながら、朔夜はようやく運ばれたお茶に口をつけた。
 
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