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薬を飲み始めたことにより、オメガの症状は抑えられていると思うが、代わりにやって来たのは倦怠感。家に帰るまではなんとかなる、しかしその後が続かない。それでも学校から出された課題や授業の予習は必ず行う。彼の生活で大きく影響が出たのは食生活。倦怠感から食欲が落ち、夜は全くと言っていいほど食べなくなった。そうすると、元々細身であるのに更に痩せる、多英の心配も過剰になる。それでも朔夜は「大丈夫」と言い、多英に迷惑をかけたくなくて、食事の量は減らして貰うようにお願いをした。
医師、薫にもメールは送っていない。たかが倦怠感くらいで相談するのは申し訳ないと思ったからだ。薬も、発情期が訪れようとしている今は飲まないといけないが、周期が安定すればそれに合わせて飲めばいいという。少しの間の辛抱。大丈夫、耐えられる。
だが、そんなことを言っていられなくなる事態はすぐ目の前に迫っていた。
学校での体育の授業。サッカーだった。
朔夜は運動神経は平均的だったが、サッカーは得意な方であり、大抵重要なポジションを任される。この日もそうだった。運動量の多いフォワード。初めのうちはそつなくこなしていたが、だんだん身体が追いつかなくなる。ついに両膝に手をついて、荒い息をつくようになってしまった。
「入江、大丈夫?」
クラスメートの一人が言う。
「あ。うん……っ。ゴメン、ちょっとヤバいかも」
休んでも息が整わない。交代するのは癪に障るが、このままではチームに迷惑をかけてしまう、そう思って、朔夜は素直に体調を告げた。
すぐにそれは了承され、代わりのフォワードがフィールドに入る。朔夜はその場から離れようとしたのだが、
「わ……っ」
バランスを崩し、そのまま地面に倒れ込んだ。
「入江っ!?」
「マジかよっ! おいっ、大丈夫かっ??」
そんな声が聞こえるが、答える気力が朔夜には残されていない。何かを考える間もなく、勝手に落ちる意識に身を任せるしかなかった。
(あ、れ……?)
意識が浮上する。ゆっくりと瞼を上げれば、視界に入ったのは天井。しばらく考えて、ここが保健室だという事にようやく気がついた。
(やっちゃった、な……)
苦笑がもれる。こうならないように気を遣っていたつもりなのに、知らないうちに限界を超えていたのか。ベッドの上では時計も目に入らないから、今が何時なのかわからない。そこまで時間が経過していないことを願いたかった。
「あ、気づいたんだね。よかった」
どうしようか、と考えていた時、カーテンが開き男性が顔を覗かせる。この学校の養護教諭だ。
「はい。あのっ、今何時間目ですか?」
「ん? 六時間目。なかなか目を覚まさないから迎えを呼ぼうかと思ったんだけどね、鷲尾君が連れて帰るからこのままで、ってうるさく言うからそうしたけれど良かった?」
「えっ? 一真、来たんですか?」
「うん、水無瀬君と一緒にね。スゴかったよ。君が倒れたって言う話をどこからか聞きつけたみたいだね。鷲尾君、とんでもない勢いで走ってきて、水無瀬君が慌てて止めてたくらいだから」
「そう、ですか……」
今が六時間目となるともうすぐ授業そのものが終わる。そうなると、一真は構わず三年の教室に入って、朔夜の荷物を取ってここに来るだろう。それが簡単に予想できてしまう。なので。
「先生、すみません。教室に帰ります」
そう言って戻ろうとしたが
「待って」
ベッドに押し戻される。
「あの、先生??」
「オメガなんだってね」
「……えっ?」
「ビックリしたよ。君みたいな成績優秀な子でも、オメガって事があるなんて。……でも」
突然のことに思考が追いつかない朔夜の耳元に、養護教諭は唇を寄せ、
「そう言う子ほど、啼かせがいがあるよね」
ベタリと。鼓膜に張り付くような声で囁く。
その声に、朔夜の全身に鳥肌が立つ。ゾワリ、と言う感覚は、強烈な不快感を植え付けた。
「……ふふっ。怖い? でも、俺は教師だよ。逆らえばどうなるか。頭のいい君ならわかるよね?」
香りを嗅ぐように顔を埋める男に、朔夜は全く動くことができない。薬を飲んでるはずなのに、何故? その思いが頭を駆け巡る。
「君のことだからきっと、先手を打って薬を飲んでるんだろうけれど。それでもわかるんだよ。特に君みたいな綺麗な子はいい匂いがするからね。……ま、せいぜい頑張る事だね。生徒もだけど、俺達教師に食われないように」
ニタリ、と笑みを浮かべ。男は朔夜から離れる。
「ほら、お迎えが来たよ。あーあ。廊下は走るなってさっきも言ったんだけどねぇ」
その言葉の通り、ドタバタと廊下を走ってくる音が聞こえる。
「失礼します! あっ、朔夜起きたんだ! 良かったぁ……」
入ってきたのは、もちろん一真。朔夜の予想どおり、制服と鞄を手に持っている。
「か、一真っ。廊下は走っちゃダメだってさっき言われただろっ。あ。朔夜くん、良かった。倒れたって言うからどこか打ったんじゃないかって、心配したよ」
その十数秒後には、秀も。
「……朔夜?」
朔夜の様子を見て、一真はキョトンとしてしまう。いつもなら、こんなに賑やかに入ってくればすぐにやんわりと注意をする彼が、起きてはいるが、また意識をなくしてしまったのではないかと思ったからだ。
医師、薫にもメールは送っていない。たかが倦怠感くらいで相談するのは申し訳ないと思ったからだ。薬も、発情期が訪れようとしている今は飲まないといけないが、周期が安定すればそれに合わせて飲めばいいという。少しの間の辛抱。大丈夫、耐えられる。
だが、そんなことを言っていられなくなる事態はすぐ目の前に迫っていた。
学校での体育の授業。サッカーだった。
朔夜は運動神経は平均的だったが、サッカーは得意な方であり、大抵重要なポジションを任される。この日もそうだった。運動量の多いフォワード。初めのうちはそつなくこなしていたが、だんだん身体が追いつかなくなる。ついに両膝に手をついて、荒い息をつくようになってしまった。
「入江、大丈夫?」
クラスメートの一人が言う。
「あ。うん……っ。ゴメン、ちょっとヤバいかも」
休んでも息が整わない。交代するのは癪に障るが、このままではチームに迷惑をかけてしまう、そう思って、朔夜は素直に体調を告げた。
すぐにそれは了承され、代わりのフォワードがフィールドに入る。朔夜はその場から離れようとしたのだが、
「わ……っ」
バランスを崩し、そのまま地面に倒れ込んだ。
「入江っ!?」
「マジかよっ! おいっ、大丈夫かっ??」
そんな声が聞こえるが、答える気力が朔夜には残されていない。何かを考える間もなく、勝手に落ちる意識に身を任せるしかなかった。
(あ、れ……?)
意識が浮上する。ゆっくりと瞼を上げれば、視界に入ったのは天井。しばらく考えて、ここが保健室だという事にようやく気がついた。
(やっちゃった、な……)
苦笑がもれる。こうならないように気を遣っていたつもりなのに、知らないうちに限界を超えていたのか。ベッドの上では時計も目に入らないから、今が何時なのかわからない。そこまで時間が経過していないことを願いたかった。
「あ、気づいたんだね。よかった」
どうしようか、と考えていた時、カーテンが開き男性が顔を覗かせる。この学校の養護教諭だ。
「はい。あのっ、今何時間目ですか?」
「ん? 六時間目。なかなか目を覚まさないから迎えを呼ぼうかと思ったんだけどね、鷲尾君が連れて帰るからこのままで、ってうるさく言うからそうしたけれど良かった?」
「えっ? 一真、来たんですか?」
「うん、水無瀬君と一緒にね。スゴかったよ。君が倒れたって言う話をどこからか聞きつけたみたいだね。鷲尾君、とんでもない勢いで走ってきて、水無瀬君が慌てて止めてたくらいだから」
「そう、ですか……」
今が六時間目となるともうすぐ授業そのものが終わる。そうなると、一真は構わず三年の教室に入って、朔夜の荷物を取ってここに来るだろう。それが簡単に予想できてしまう。なので。
「先生、すみません。教室に帰ります」
そう言って戻ろうとしたが
「待って」
ベッドに押し戻される。
「あの、先生??」
「オメガなんだってね」
「……えっ?」
「ビックリしたよ。君みたいな成績優秀な子でも、オメガって事があるなんて。……でも」
突然のことに思考が追いつかない朔夜の耳元に、養護教諭は唇を寄せ、
「そう言う子ほど、啼かせがいがあるよね」
ベタリと。鼓膜に張り付くような声で囁く。
その声に、朔夜の全身に鳥肌が立つ。ゾワリ、と言う感覚は、強烈な不快感を植え付けた。
「……ふふっ。怖い? でも、俺は教師だよ。逆らえばどうなるか。頭のいい君ならわかるよね?」
香りを嗅ぐように顔を埋める男に、朔夜は全く動くことができない。薬を飲んでるはずなのに、何故? その思いが頭を駆け巡る。
「君のことだからきっと、先手を打って薬を飲んでるんだろうけれど。それでもわかるんだよ。特に君みたいな綺麗な子はいい匂いがするからね。……ま、せいぜい頑張る事だね。生徒もだけど、俺達教師に食われないように」
ニタリ、と笑みを浮かべ。男は朔夜から離れる。
「ほら、お迎えが来たよ。あーあ。廊下は走るなってさっきも言ったんだけどねぇ」
その言葉の通り、ドタバタと廊下を走ってくる音が聞こえる。
「失礼します! あっ、朔夜起きたんだ! 良かったぁ……」
入ってきたのは、もちろん一真。朔夜の予想どおり、制服と鞄を手に持っている。
「か、一真っ。廊下は走っちゃダメだってさっき言われただろっ。あ。朔夜くん、良かった。倒れたって言うからどこか打ったんじゃないかって、心配したよ」
その十数秒後には、秀も。
「……朔夜?」
朔夜の様子を見て、一真はキョトンとしてしまう。いつもなら、こんなに賑やかに入ってくればすぐにやんわりと注意をする彼が、起きてはいるが、また意識をなくしてしまったのではないかと思ったからだ。
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