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大好きなモンブランの味が、よくわからない。紅茶も同様。原因は間違いなく目の前の朔夜なのだが、勝手にドギマギしているのも痛感しているので、文句の言いようがない。対して朔夜は、見た事のない一真の反応に小首をかしげ、
「どうした?」
じっと見つめ、訪ねる。
「なんでもないっ!」
焦った一真は一気に答え、ケーキを頬張った。
朔夜はますます納得のいかない表情を見せたが、「坊ちゃんも召し上がってください」と多英に言われたため、従う事にする。
お気に入りの店のチーズケーキ。いつもと変わらない味が、安心すると同時に家族の事を思い出す。いつもなら、家族とともに食べていた。もう、そんな事もないのか。ふとよぎった考えに気持ちが沈む。今まで、自らをアルファだと誰もが信じて疑っていなかったからこそ、あの場所にいられた。おそらく家族はもう、面と向かって会ってはくれないだろう。そんな予感がしていた。判定後も、こうして不自由なく生活させてくれる事は嬉しいが、これは間違いなく『隔離』。それくらい、朔夜とて十分に理解している。
(どうして……)
ケーキを食べる手が止まる。たとえ両親がアルファであっても、子供がベータやオメガである確率はゼロではない。それは頭にあった。だが、全く関係ないと思っていた。それが、まさか自らの身に起こるなんてとても。
「坊ちゃん。お口に合いませんでしたか?」
「えっ? あっ、違う違うっ、ぼーっとしちゃって、ゴメンね。もちろんおいしいよ、多英さんっ」
多英の声が届き、慌てて朔夜はケーキを食べる事を再開する。「うん、おいしいっ」。そう言いながらケーキを口に運ぶ朔夜の態度を、今度は一真が不審がって見つめている事に彼は全く気づかなかった。
「ごちそうさまでした」
皆ケーキを食べ終わり、多英は片付けを始めた。朔夜は、一真が「朔夜の部屋が見たい」というので案内する。家に入れている以上、断る事はできない。それに、部屋自体にはとくにおかしな点はない。それくらいならいいだろうと判断した。
「狭っ」
「ふはっ。まあでも、多英さんが前の部屋と配置を変わらないようにしてくれたから不自由はないよ。あ、そこの椅子に座って。制服にしわがついちゃうからさ」
言いながら、朔夜自身はラグの上に座る。以前は自室にもソファーが置かれていたが、この部屋にはそこまでのスペースはない、当然の対応だろう。
言われたとおりに椅子に座り、一真は「な?」と尋ねる。
「何?」
「さっき、何考えてた?」
「えっ?」
「なんか、すげぇ辛そうな顔してた。なぁ、なんでこんな事になってる? こんな急に、こんな所に、しかも多英さんはいてくれるけれど、基本的には朔夜一人だろ? 中学生が一人暮らしするなんて、余程の事だよ。しかも、朔夜のご両親は、朔夜に家を継いで欲しいって、ずっと言ってた。なのに何で? これじゃあ、まるで朔夜だけ切り離されたみたいだ」
直球。
一真はいつもそうだ。聞きたい事ははっきりと聞く。例えそれは不躾であっても、後々、事が大きくなってから聞くよりも先に知っておきたい、そう考え、行動を起こす。その性格が中学生でも起こる数々のトラブルの解決を早める結果となるのだが、今尋ねられるのは、正直痛い。
「なぁ? 何で??」
しつこく一真は問う。それにどう答えていいかわからない。目を合わせたくなくて、思わず視線を逸らしてしまう。
「朔夜」
一真は椅子から降り、朔夜と同じ目線の高さになるように座り、
「隠し事、しないで」
そっと、朔夜の頬に手を触れた。
「なっ……」
「泣きそう」
困惑する朔夜に、一真は呟く。その一言に、張っていた彼の糸はプツンと切れた。
「かず、ま……っ」
声が震えたのと同時に、緩む涙腺。まだ頬に触れている彼の手を濡らしてしまうのはわかっていたが、止めようがない。
「えっ? えっ?? さく、や??」
「ごめ、ん……っ」
俯き、涙をこぼし始めた朔夜を見て、オロオロと慌てふためいた一真だったが、こんな風に泣く朔夜をこのままにしておきたくなくて。
そっと、震える身体を抱きしめた。
「どうした?」
じっと見つめ、訪ねる。
「なんでもないっ!」
焦った一真は一気に答え、ケーキを頬張った。
朔夜はますます納得のいかない表情を見せたが、「坊ちゃんも召し上がってください」と多英に言われたため、従う事にする。
お気に入りの店のチーズケーキ。いつもと変わらない味が、安心すると同時に家族の事を思い出す。いつもなら、家族とともに食べていた。もう、そんな事もないのか。ふとよぎった考えに気持ちが沈む。今まで、自らをアルファだと誰もが信じて疑っていなかったからこそ、あの場所にいられた。おそらく家族はもう、面と向かって会ってはくれないだろう。そんな予感がしていた。判定後も、こうして不自由なく生活させてくれる事は嬉しいが、これは間違いなく『隔離』。それくらい、朔夜とて十分に理解している。
(どうして……)
ケーキを食べる手が止まる。たとえ両親がアルファであっても、子供がベータやオメガである確率はゼロではない。それは頭にあった。だが、全く関係ないと思っていた。それが、まさか自らの身に起こるなんてとても。
「坊ちゃん。お口に合いませんでしたか?」
「えっ? あっ、違う違うっ、ぼーっとしちゃって、ゴメンね。もちろんおいしいよ、多英さんっ」
多英の声が届き、慌てて朔夜はケーキを食べる事を再開する。「うん、おいしいっ」。そう言いながらケーキを口に運ぶ朔夜の態度を、今度は一真が不審がって見つめている事に彼は全く気づかなかった。
「ごちそうさまでした」
皆ケーキを食べ終わり、多英は片付けを始めた。朔夜は、一真が「朔夜の部屋が見たい」というので案内する。家に入れている以上、断る事はできない。それに、部屋自体にはとくにおかしな点はない。それくらいならいいだろうと判断した。
「狭っ」
「ふはっ。まあでも、多英さんが前の部屋と配置を変わらないようにしてくれたから不自由はないよ。あ、そこの椅子に座って。制服にしわがついちゃうからさ」
言いながら、朔夜自身はラグの上に座る。以前は自室にもソファーが置かれていたが、この部屋にはそこまでのスペースはない、当然の対応だろう。
言われたとおりに椅子に座り、一真は「な?」と尋ねる。
「何?」
「さっき、何考えてた?」
「えっ?」
「なんか、すげぇ辛そうな顔してた。なぁ、なんでこんな事になってる? こんな急に、こんな所に、しかも多英さんはいてくれるけれど、基本的には朔夜一人だろ? 中学生が一人暮らしするなんて、余程の事だよ。しかも、朔夜のご両親は、朔夜に家を継いで欲しいって、ずっと言ってた。なのに何で? これじゃあ、まるで朔夜だけ切り離されたみたいだ」
直球。
一真はいつもそうだ。聞きたい事ははっきりと聞く。例えそれは不躾であっても、後々、事が大きくなってから聞くよりも先に知っておきたい、そう考え、行動を起こす。その性格が中学生でも起こる数々のトラブルの解決を早める結果となるのだが、今尋ねられるのは、正直痛い。
「なぁ? 何で??」
しつこく一真は問う。それにどう答えていいかわからない。目を合わせたくなくて、思わず視線を逸らしてしまう。
「朔夜」
一真は椅子から降り、朔夜と同じ目線の高さになるように座り、
「隠し事、しないで」
そっと、朔夜の頬に手を触れた。
「なっ……」
「泣きそう」
困惑する朔夜に、一真は呟く。その一言に、張っていた彼の糸はプツンと切れた。
「かず、ま……っ」
声が震えたのと同時に、緩む涙腺。まだ頬に触れている彼の手を濡らしてしまうのはわかっていたが、止めようがない。
「えっ? えっ?? さく、や??」
「ごめ、ん……っ」
俯き、涙をこぼし始めた朔夜を見て、オロオロと慌てふためいた一真だったが、こんな風に泣く朔夜をこのままにしておきたくなくて。
そっと、震える身体を抱きしめた。
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