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12.楠、柊コンビとの出会い。(side 梛木)
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俺が柊の兄ちゃんと出会った時は、‥それでもここまで柊の兄ちゃんは「フリーダム」じゃなかった。
寧ろ、無口で無表情、無気力で‥楠にべったりの‥ヤバい男の兆しは‥そういえばあったかも? ‥いや、思い出した限りではなかった。
楠はというと、そんな柊を見捨てることなく、だけど不必要に過保護に接する風でもなく‥世話していた。
というか‥見守っていたって表現が正しい。楠にとってそれが柊の兄ちゃんとの適正な関わり方だって思ったからだろう。
基本誰に対しても楠は過保護なんだ。
それは、当時ここに来たばかりの俺に対してもそうだった。
俺はそれを最初は「うっとおしい」「おせっかい」って‥毛嫌いしたんだ。
‥親の愛情なんて分からなかったから‥。
そんなとんがった俺だったのに、楠は何かと世話を焼きまくった。
朝ごはんを食べろだの、野菜を食えだの‥それこそ「母ちゃん」のように接してきた。
‥母ちゃんのようにって言ったけど、俺の「ホントの」母さん‥生みの親はそんなんじゃなかった。
だけど‥「きちんと」はしてたな。
教育だの、育児だのに理想論がある人だった。
理想論というか、アレだな。「当然そうしなきゃならない」って‥自分で自分を追い込んでた。
悪い人じゃなかったんだ。だけど‥ちょっと極端だった。
普通なら「子育てって大変。理想と違うことばかりだわ~」って早々に気付いて、諦めたりする別の方法を考えたりするもんなんだけど、完璧主義者の彼女はそれを許さなかった。ただただ一つの行動に固執して、それを出来ない自分に対して嫌悪感を感じ‥思い通りにいかない俺に対して恨みを募らせた。
融通が利かない人だったんだよね。頭も固くて、人や自分を許すってことをしなかった。
どうやれば出来る? って考えたり、人に聞いたり‥親ってみんな努力するじゃない。‥あの人にはそういうのが無かった。人に聞いたり協力を仰ぐのが恥ずかしいってタイプだったんだ。
「え。なんで? なんでこの子はこの育児書の通りじゃないの? なんで‥この子は私を困らせるの? 」
出来ないことを恥じて‥隠したいって思った。‥出来ない原因を俺のせいにして‥俺を恨んだ。
完璧主義者だけど‥人にそう努力をするタイプじゃなかったんだよね。
俺は別にそう問題があるタイプじゃなかったんだよ?
むしろ、ごねたりぐずったりそういうタイプじゃなかったんだ(って、父方のばあちゃんが教えてくれた)
所謂「子供らしくない子供」
「美恵ちゃんと違って‥大人しい子だった」
だったらしい。
美恵ちゃんっていうのは、俺の二つ下の妹の名前だ。
当時「英才教育」とやらに憧れていた母親は初めての子供である俺に全ての理想をつぎ込んだ。
教育番組を見せて、高い教材を与えた。子供教室なるところに行ったりもした。俺はそれを真面目にこなしたんだけど‥(彼女にとって)予想外に‥少々出来過ぎてしまったらしい。
母親は、ろくに笑ったり遊んだりせず計算をしたり漢字を書いたりする幼児‥俺が‥怖くなったんだ。
「‥なんで、この子笑わないの? この子、公園に連れて行っても本ばかり読んでるのよ? 周りのお母さんがなんて言ってると思う? 「この子、勉強ばかりで可哀そう」って。「表情も少ないわ」って‥。きっと、愛情をかけられてないって思われてる。私‥教育ママだって思われてるわ
愛情に飢えた子供にした‥ダメな母親だって思われてるわ!? 」
母親は一時ノイローゼになりかけた。
そんな彼女の心の支えになったのが二年後に生まれた「普通の子供」である美恵だったのだ。
大声で叫んだり、笑ったり、悪戯したり、家の中で走り回ったり‥美恵のそういう普通の子供っぽい様子を見て母親は癒され、安心した。
今度は失敗しないようにしないと‥
って思った。
‥別に美恵がどうってことじゃなかったんだ。ただ、一人目の育児は「ちゃんとやらなきゃ」って気が張っちゃうけど、二人目は慣れて、(イイ感じで)手を抜く。それが良かったんだ。美恵は、のびのびと自由に育った‥ってわけ。だけど、そんなの俺を目の敵にしてる母親には分からなかった。ただ、美恵を見て‥俺が余計に憎くなった。
見たくないって思う程に‥。
母親は俺を見ないことにしたんだ。‥自分と美恵を守る為に。
その日から、母親の子供は美恵だけになった。彼女の目には俺は一切入らないようになった。
俺をまるでいないかのように扱った。(意識的に見ないようにしてるんじゃなくて、彼女にとってはホントに見えていなかったんだろう)
俺に食事を与えたのは父親だった。父親は情緒不安定になっている自分の妻に「兄のことも見てやれ」とは‥言わなかった。‥きっと、俺のことを言ったら彼女が酷くヒステリーを起こしたりするのが面倒だったんだろう。
面倒事に関わり合いたくなかったんだろう。父親は、母親を諭したり、病院に連れて行ったりすることはなかった。‥相談相手になることもしなかったんだ。
妻には言わず、俺の部屋に食事を運び、風呂にいれた。小学校に行くための制服を用意したのも父親だった。俺はどんな時も何も言わずただ父親のするようにしていた。
黙って食事を食べ、風呂に入り、制服を合わせて、その制服を着て毎日学校に行く。そして、学校から帰るとそのまま図書館に行き、閉館迄いてから、合い鍵を使って家に入った。そのまま二階にある自室に行き、父親が食事を持ってくるまで部屋で黙って過ごす。図書館で本を借りて来るから退屈さは感じなかった。
二階の自室に居ても、一階のリビングで俺以外の家族が楽しそうに話したりテレビを見る音は聞こえた。‥それは、ただただ耳障りだった。
妹は俺には気付いていたんだろうけど‥両親の様子から「触れてはいけない問題なんだろうな」って子供心に感じ取っていたのだろう。妹が俺に関わってくることはなかった。(思えばアイツも不幸だよな)
小学校には行っていたが、正直何をすればいいのか分からなかった。
友達の作り方も分からないし、作る気もなかった。つまらないことで騒いだりはしゃいだり‥正直周りが何をやっているのか分からなかった。
馬鹿にしてるわけでは無く‥単純に何も分からなかったんだ。(奴らが話題にしてる、歌手だってテレビ番組だって何一つ知らなしね)
映画で、役者が知らない言語で話し、笑ったりしててもなんで笑ってるのか分からないでしょ? ちょうどあんな感じ。皆は笑ってるけど‥なんで笑ってるんだろって思ったんだ。あと‥ノリについてけない。(それの方がおおきかったかな)
まるで俺は一人「異邦人」みたいだったんだ。
教科書は貰った瞬間全部読んでしまい、一瞬で理解した。だから、授業中は黙って先生の話を聞いている様な顔をして、ただ座っていた。(時々板書ぐらいはした)
体育の時間は苦痛だった。
今まで走り回って育ってこなかったから、駆けっこも得意じゃなかったし、鉄棒も壊滅的だった。あまりにも出来ないもんだから、近所の公園で練習したが、コツがわからなく上達することはなかった。そうなったらおもしろくなくって‥結局すぐやめてしまった。
百点ばっかりの答案も、体育だけが悪い成績の通知簿も俺は親に見せたことはなかった。
参観日、懇談会、運動会‥家族が誰も来ない行事。周りは「この子、ちょっと虐待されてない? 」って気付いた様だ。
児童養護施設に連絡がいって、母親に「話を聞きたい」って連絡が入って‥母親が「なんで私が虐待してるとか言われなきゃならないの!? 」って喚き散らし‥俺は施設に保護されることになった。
あの後、施設の方で「この子‥もしかして‥」って西遠寺に連絡がいった‥らしい。
そんな具合で、俺はすっかりひねくれた子供になっていたんだ。(そりゃ、そんな扱い受けて素直でいい子に育ってたら‥その方がヤバい気がする)
伊吹さんにここに連れてこられて、柳さんに「ウチで面倒見る」って言われたけど、‥正直「どうでもいい」としか思ってなかった。
で、この部屋に連れてこられて、一番最初に挨拶をして来たのが楠だった。
楠は
「僕は楠だよ。よろしくね? 」
と膝をまげて座り、目線を合わせて小さな子供に対する口調で話しかけて来た。
笑顔も優しい声も‥正直「ウザ」って思った。コイツは俺に同情してるだけの偽善者だって思った。
俺がプイと顔を背けると、楠は少なからずショックをうけたらしい、笑顔が引きつった。
ほら、機嫌が悪くなった。「優しくしてやってるのに、何なんだよ」って思ったんだろうなって思った。
「変な同情するからだよ」
柳の兄ちゃんが呆れた様な口調で言った。
楠はそんな柳の兄ちゃんに苦笑すると俺に、
「ごめん。ええと、言い直すね。僕は、楠で、そっちに寝てるのが、柊さん」
って今度は、立ち上がって、「普通に」自己紹介と、何故か寝てる柊の兄ちゃんの紹介をした。柊の兄ちゃんは初め俺に背を向けて寝てたんだけど、楠に言われて初めて俺を振り向いた。
柊の兄ちゃんの目は前髪に隠れて見えなかったけど、柊の兄ちゃんが俺を見たのが雰囲気で分かった。
今思えば、柊の兄ちゃんはあの時、俺をサーチしていたんだ。
俺が(楠にとって)敵か味方かっていうサーチ。
敵だって判断したら、多分柊の兄ちゃんは即座に楠を守る為に動いたはずだ。勿論、そう派手に動くわけでは無い。「いつでも攻撃出来る様に」座るだけだ。
座って、敵の動向を見落とさないように睨みつける。
そうでない時は、柊の兄ちゃんにとって「嫌な感じはする、か、そうでもないか、いいか」の三択だ。嫌な感じがする場合も睨むくらいはするだろう。
だけど、どうやら、この時の俺は柊の兄ちゃんにとって、「そうでもない」か、「いい」だったらしい。特に反応はなかった。口も相変わらず真一文字に結ばれたままだった。
そんな、俺を「子供扱いしない」そして、俺と同じような「孤独オーラを纏った不幸そうな青年」である柊の兄ちゃんにあの時の俺は親近感を感じたんだ。
‥単純だったし、人を見る目が無かったんだろうな。あの頃の俺。(← 結構つい最近)
柳の兄ちゃんのことは「利己的で計算高い大人」だって思ってたし、楠のことは「偽善者」って思ってた。
桂ちゃんを紹介された時は‥単純に緊張した。今まで子供や30過ぎの女性しか会ったことなかったから。‥ただそれだけ、母親を思い出して苦手意識もったわけじゃない。それは考え過ぎだ。(楠はそういう風に感じたみたいだけど)
結局その後、「おせっかい焼き」「偽善者」の楠と住むことになった。俺が子供で保護が必要だから‥って理由だ。
俺の感想は一言、「うんざり」だった。‥しかも、何故か柊の兄ちゃん付きだって聞いた時にはウンザリが「呆れ」に変わった。コイツ、どんだけ偽善者なんだよ。‥厄介者全部引き受けさせられてるじゃん? ‥馬鹿みたいって‥呆れた。
俺はあからさまに不審そうな顔をしていたんだろう。柳の兄ちゃんが「楠さんは柊さんの保護者なんだ」って教えてくれた。
ああ。この人(柊の兄ちゃん)自分じゃ何もしなさそうだもんね。
すんなり納得した。
でも、何もしたくないの分かる。きっと‥「放っておいてくれ」って思ってんだろうな。って思った。(それは直ぐに誤解だとわかった。柊の兄ちゃんは楠に構ってもらいたくて、わざと何もしていないんだ! )
だけど、あの時の俺はどうにかしてたのか‥気付かなかったんだよ。
‥ホント、どうにかしてた。
勝手に、柊の兄ちゃんを心に傷を抱えた孤独な青年って思い込んでた。
聞くと、家庭環境に問題がありげなところも似ている(結構すんなり教えてくれた)「この人、俺と類友」って思った。「そうか‥俺たち家族に恵まれなかった同士だ。兄ちゃんと呼ぼう」って思った。(家庭環境に恵まれた偽善者楠なんて、楠だ! 呼び捨てで十分だ! )
‥だけどね、違った。柊の兄ちゃんは俺とは違った。俺たちは全然、類友じゃなかった。
‥そりゃね、(家庭環境の話とか)全然嘘は言ってなかったよ? だけど‥俺が思ってたのと違って‥柊の兄ちゃんは「そんなこと全然気にしてなかった」んだ‥! 兄ちゃんは俺よりも‥(親に隠れて女の子とエッチしたり‥と)隔離生活をエンジョイしてたんだ!
柊の兄ちゃんが不満だったのは、(自分を顧みない)家族じゃなかったんだ。ただ、家から離れて‥自由になりたかっただけ。
だから‥家を出ただけだったんだ。
そして、そこで柊の兄ちゃんは‥自分の唯一に出会った、らしい。それが‥楠だったんだって。
「あ、唯一っていっても、恋人にしたい、監禁したい、とかじゃないよ?
楠と居たら‥ただ、こころが穏やかなんだ‥ただそれだけ。それだけで幸せなんだ」
あの時は、柊の兄ちゃんそう言ってたのになあ‥(そりゃあ、澄んだ瞳で‥)
今じゃ、ホント、監禁しそうな勢いだもんな!
せめて、無理強いは避けたい。‥あの時と違って、今は俺も楠のことは好きだ。
母ちゃんってこんなのじゃないかなって思ってる。‥母ちゃんにするなら楠だって思ってる。その場合‥柊の兄ちゃんが‥父ちゃんでもいい。きっとそうしないと、柊の兄ちゃんはきっと大暴れするだろうから。
優しい母ちゃんとダメオヤジ。‥悪くない。
そんな風に‥この頃は思ってるんだ。
‥理想の「育ての両親」が、ヤンデレ束縛夫と監禁妻じゃよくないよね!?
寧ろ、無口で無表情、無気力で‥楠にべったりの‥ヤバい男の兆しは‥そういえばあったかも? ‥いや、思い出した限りではなかった。
楠はというと、そんな柊を見捨てることなく、だけど不必要に過保護に接する風でもなく‥世話していた。
というか‥見守っていたって表現が正しい。楠にとってそれが柊の兄ちゃんとの適正な関わり方だって思ったからだろう。
基本誰に対しても楠は過保護なんだ。
それは、当時ここに来たばかりの俺に対してもそうだった。
俺はそれを最初は「うっとおしい」「おせっかい」って‥毛嫌いしたんだ。
‥親の愛情なんて分からなかったから‥。
そんなとんがった俺だったのに、楠は何かと世話を焼きまくった。
朝ごはんを食べろだの、野菜を食えだの‥それこそ「母ちゃん」のように接してきた。
‥母ちゃんのようにって言ったけど、俺の「ホントの」母さん‥生みの親はそんなんじゃなかった。
だけど‥「きちんと」はしてたな。
教育だの、育児だのに理想論がある人だった。
理想論というか、アレだな。「当然そうしなきゃならない」って‥自分で自分を追い込んでた。
悪い人じゃなかったんだ。だけど‥ちょっと極端だった。
普通なら「子育てって大変。理想と違うことばかりだわ~」って早々に気付いて、諦めたりする別の方法を考えたりするもんなんだけど、完璧主義者の彼女はそれを許さなかった。ただただ一つの行動に固執して、それを出来ない自分に対して嫌悪感を感じ‥思い通りにいかない俺に対して恨みを募らせた。
融通が利かない人だったんだよね。頭も固くて、人や自分を許すってことをしなかった。
どうやれば出来る? って考えたり、人に聞いたり‥親ってみんな努力するじゃない。‥あの人にはそういうのが無かった。人に聞いたり協力を仰ぐのが恥ずかしいってタイプだったんだ。
「え。なんで? なんでこの子はこの育児書の通りじゃないの? なんで‥この子は私を困らせるの? 」
出来ないことを恥じて‥隠したいって思った。‥出来ない原因を俺のせいにして‥俺を恨んだ。
完璧主義者だけど‥人にそう努力をするタイプじゃなかったんだよね。
俺は別にそう問題があるタイプじゃなかったんだよ?
むしろ、ごねたりぐずったりそういうタイプじゃなかったんだ(って、父方のばあちゃんが教えてくれた)
所謂「子供らしくない子供」
「美恵ちゃんと違って‥大人しい子だった」
だったらしい。
美恵ちゃんっていうのは、俺の二つ下の妹の名前だ。
当時「英才教育」とやらに憧れていた母親は初めての子供である俺に全ての理想をつぎ込んだ。
教育番組を見せて、高い教材を与えた。子供教室なるところに行ったりもした。俺はそれを真面目にこなしたんだけど‥(彼女にとって)予想外に‥少々出来過ぎてしまったらしい。
母親は、ろくに笑ったり遊んだりせず計算をしたり漢字を書いたりする幼児‥俺が‥怖くなったんだ。
「‥なんで、この子笑わないの? この子、公園に連れて行っても本ばかり読んでるのよ? 周りのお母さんがなんて言ってると思う? 「この子、勉強ばかりで可哀そう」って。「表情も少ないわ」って‥。きっと、愛情をかけられてないって思われてる。私‥教育ママだって思われてるわ
愛情に飢えた子供にした‥ダメな母親だって思われてるわ!? 」
母親は一時ノイローゼになりかけた。
そんな彼女の心の支えになったのが二年後に生まれた「普通の子供」である美恵だったのだ。
大声で叫んだり、笑ったり、悪戯したり、家の中で走り回ったり‥美恵のそういう普通の子供っぽい様子を見て母親は癒され、安心した。
今度は失敗しないようにしないと‥
って思った。
‥別に美恵がどうってことじゃなかったんだ。ただ、一人目の育児は「ちゃんとやらなきゃ」って気が張っちゃうけど、二人目は慣れて、(イイ感じで)手を抜く。それが良かったんだ。美恵は、のびのびと自由に育った‥ってわけ。だけど、そんなの俺を目の敵にしてる母親には分からなかった。ただ、美恵を見て‥俺が余計に憎くなった。
見たくないって思う程に‥。
母親は俺を見ないことにしたんだ。‥自分と美恵を守る為に。
その日から、母親の子供は美恵だけになった。彼女の目には俺は一切入らないようになった。
俺をまるでいないかのように扱った。(意識的に見ないようにしてるんじゃなくて、彼女にとってはホントに見えていなかったんだろう)
俺に食事を与えたのは父親だった。父親は情緒不安定になっている自分の妻に「兄のことも見てやれ」とは‥言わなかった。‥きっと、俺のことを言ったら彼女が酷くヒステリーを起こしたりするのが面倒だったんだろう。
面倒事に関わり合いたくなかったんだろう。父親は、母親を諭したり、病院に連れて行ったりすることはなかった。‥相談相手になることもしなかったんだ。
妻には言わず、俺の部屋に食事を運び、風呂にいれた。小学校に行くための制服を用意したのも父親だった。俺はどんな時も何も言わずただ父親のするようにしていた。
黙って食事を食べ、風呂に入り、制服を合わせて、その制服を着て毎日学校に行く。そして、学校から帰るとそのまま図書館に行き、閉館迄いてから、合い鍵を使って家に入った。そのまま二階にある自室に行き、父親が食事を持ってくるまで部屋で黙って過ごす。図書館で本を借りて来るから退屈さは感じなかった。
二階の自室に居ても、一階のリビングで俺以外の家族が楽しそうに話したりテレビを見る音は聞こえた。‥それは、ただただ耳障りだった。
妹は俺には気付いていたんだろうけど‥両親の様子から「触れてはいけない問題なんだろうな」って子供心に感じ取っていたのだろう。妹が俺に関わってくることはなかった。(思えばアイツも不幸だよな)
小学校には行っていたが、正直何をすればいいのか分からなかった。
友達の作り方も分からないし、作る気もなかった。つまらないことで騒いだりはしゃいだり‥正直周りが何をやっているのか分からなかった。
馬鹿にしてるわけでは無く‥単純に何も分からなかったんだ。(奴らが話題にしてる、歌手だってテレビ番組だって何一つ知らなしね)
映画で、役者が知らない言語で話し、笑ったりしててもなんで笑ってるのか分からないでしょ? ちょうどあんな感じ。皆は笑ってるけど‥なんで笑ってるんだろって思ったんだ。あと‥ノリについてけない。(それの方がおおきかったかな)
まるで俺は一人「異邦人」みたいだったんだ。
教科書は貰った瞬間全部読んでしまい、一瞬で理解した。だから、授業中は黙って先生の話を聞いている様な顔をして、ただ座っていた。(時々板書ぐらいはした)
体育の時間は苦痛だった。
今まで走り回って育ってこなかったから、駆けっこも得意じゃなかったし、鉄棒も壊滅的だった。あまりにも出来ないもんだから、近所の公園で練習したが、コツがわからなく上達することはなかった。そうなったらおもしろくなくって‥結局すぐやめてしまった。
百点ばっかりの答案も、体育だけが悪い成績の通知簿も俺は親に見せたことはなかった。
参観日、懇談会、運動会‥家族が誰も来ない行事。周りは「この子、ちょっと虐待されてない? 」って気付いた様だ。
児童養護施設に連絡がいって、母親に「話を聞きたい」って連絡が入って‥母親が「なんで私が虐待してるとか言われなきゃならないの!? 」って喚き散らし‥俺は施設に保護されることになった。
あの後、施設の方で「この子‥もしかして‥」って西遠寺に連絡がいった‥らしい。
そんな具合で、俺はすっかりひねくれた子供になっていたんだ。(そりゃ、そんな扱い受けて素直でいい子に育ってたら‥その方がヤバい気がする)
伊吹さんにここに連れてこられて、柳さんに「ウチで面倒見る」って言われたけど、‥正直「どうでもいい」としか思ってなかった。
で、この部屋に連れてこられて、一番最初に挨拶をして来たのが楠だった。
楠は
「僕は楠だよ。よろしくね? 」
と膝をまげて座り、目線を合わせて小さな子供に対する口調で話しかけて来た。
笑顔も優しい声も‥正直「ウザ」って思った。コイツは俺に同情してるだけの偽善者だって思った。
俺がプイと顔を背けると、楠は少なからずショックをうけたらしい、笑顔が引きつった。
ほら、機嫌が悪くなった。「優しくしてやってるのに、何なんだよ」って思ったんだろうなって思った。
「変な同情するからだよ」
柳の兄ちゃんが呆れた様な口調で言った。
楠はそんな柳の兄ちゃんに苦笑すると俺に、
「ごめん。ええと、言い直すね。僕は、楠で、そっちに寝てるのが、柊さん」
って今度は、立ち上がって、「普通に」自己紹介と、何故か寝てる柊の兄ちゃんの紹介をした。柊の兄ちゃんは初め俺に背を向けて寝てたんだけど、楠に言われて初めて俺を振り向いた。
柊の兄ちゃんの目は前髪に隠れて見えなかったけど、柊の兄ちゃんが俺を見たのが雰囲気で分かった。
今思えば、柊の兄ちゃんはあの時、俺をサーチしていたんだ。
俺が(楠にとって)敵か味方かっていうサーチ。
敵だって判断したら、多分柊の兄ちゃんは即座に楠を守る為に動いたはずだ。勿論、そう派手に動くわけでは無い。「いつでも攻撃出来る様に」座るだけだ。
座って、敵の動向を見落とさないように睨みつける。
そうでない時は、柊の兄ちゃんにとって「嫌な感じはする、か、そうでもないか、いいか」の三択だ。嫌な感じがする場合も睨むくらいはするだろう。
だけど、どうやら、この時の俺は柊の兄ちゃんにとって、「そうでもない」か、「いい」だったらしい。特に反応はなかった。口も相変わらず真一文字に結ばれたままだった。
そんな、俺を「子供扱いしない」そして、俺と同じような「孤独オーラを纏った不幸そうな青年」である柊の兄ちゃんにあの時の俺は親近感を感じたんだ。
‥単純だったし、人を見る目が無かったんだろうな。あの頃の俺。(← 結構つい最近)
柳の兄ちゃんのことは「利己的で計算高い大人」だって思ってたし、楠のことは「偽善者」って思ってた。
桂ちゃんを紹介された時は‥単純に緊張した。今まで子供や30過ぎの女性しか会ったことなかったから。‥ただそれだけ、母親を思い出して苦手意識もったわけじゃない。それは考え過ぎだ。(楠はそういう風に感じたみたいだけど)
結局その後、「おせっかい焼き」「偽善者」の楠と住むことになった。俺が子供で保護が必要だから‥って理由だ。
俺の感想は一言、「うんざり」だった。‥しかも、何故か柊の兄ちゃん付きだって聞いた時にはウンザリが「呆れ」に変わった。コイツ、どんだけ偽善者なんだよ。‥厄介者全部引き受けさせられてるじゃん? ‥馬鹿みたいって‥呆れた。
俺はあからさまに不審そうな顔をしていたんだろう。柳の兄ちゃんが「楠さんは柊さんの保護者なんだ」って教えてくれた。
ああ。この人(柊の兄ちゃん)自分じゃ何もしなさそうだもんね。
すんなり納得した。
でも、何もしたくないの分かる。きっと‥「放っておいてくれ」って思ってんだろうな。って思った。(それは直ぐに誤解だとわかった。柊の兄ちゃんは楠に構ってもらいたくて、わざと何もしていないんだ! )
だけど、あの時の俺はどうにかしてたのか‥気付かなかったんだよ。
‥ホント、どうにかしてた。
勝手に、柊の兄ちゃんを心に傷を抱えた孤独な青年って思い込んでた。
聞くと、家庭環境に問題がありげなところも似ている(結構すんなり教えてくれた)「この人、俺と類友」って思った。「そうか‥俺たち家族に恵まれなかった同士だ。兄ちゃんと呼ぼう」って思った。(家庭環境に恵まれた偽善者楠なんて、楠だ! 呼び捨てで十分だ! )
‥だけどね、違った。柊の兄ちゃんは俺とは違った。俺たちは全然、類友じゃなかった。
‥そりゃね、(家庭環境の話とか)全然嘘は言ってなかったよ? だけど‥俺が思ってたのと違って‥柊の兄ちゃんは「そんなこと全然気にしてなかった」んだ‥! 兄ちゃんは俺よりも‥(親に隠れて女の子とエッチしたり‥と)隔離生活をエンジョイしてたんだ!
柊の兄ちゃんが不満だったのは、(自分を顧みない)家族じゃなかったんだ。ただ、家から離れて‥自由になりたかっただけ。
だから‥家を出ただけだったんだ。
そして、そこで柊の兄ちゃんは‥自分の唯一に出会った、らしい。それが‥楠だったんだって。
「あ、唯一っていっても、恋人にしたい、監禁したい、とかじゃないよ?
楠と居たら‥ただ、こころが穏やかなんだ‥ただそれだけ。それだけで幸せなんだ」
あの時は、柊の兄ちゃんそう言ってたのになあ‥(そりゃあ、澄んだ瞳で‥)
今じゃ、ホント、監禁しそうな勢いだもんな!
せめて、無理強いは避けたい。‥あの時と違って、今は俺も楠のことは好きだ。
母ちゃんってこんなのじゃないかなって思ってる。‥母ちゃんにするなら楠だって思ってる。その場合‥柊の兄ちゃんが‥父ちゃんでもいい。きっとそうしないと、柊の兄ちゃんはきっと大暴れするだろうから。
優しい母ちゃんとダメオヤジ。‥悪くない。
そんな風に‥この頃は思ってるんだ。
‥理想の「育ての両親」が、ヤンデレ束縛夫と監禁妻じゃよくないよね!?
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