上 下
18 / 36

18.薄幸の「醜い」王子様。

しおりを挟む
 生まれた時から、醜いと言われ続けて来た。
 もっとも、一応王子‥この国の唯一の皇太子である私に対して表立って侮蔑する者はいない。
 ただ‥周りの反応が私にそのことを‥否応なしに自覚させる。
 人は醜いものを見たら‥具合が悪くなるらしい。
 私の身の周りの世話をしてくれる者は、いつも真っ青な顔をして‥私の姿を目に入れないように目を伏せ‥だけど、‥自分を奮い立たせるためにか「今日はお天気がよろしいですよ」と‥聞いてもいないことを言って、無理やり微笑んだ。
 その笑顔は余りに醜悪だと思った。
 無理しているのがこちらに無遠慮に伝わってくる‥苦しそうな‥笑顔。
 私が「我慢しないといけない」「敬うべき相手」だから無理に微笑を浮かべているだけで、もし私がそうする必要のない者であったら、この者は私の顔を見た瞬間悲鳴をあげて逃げ出したかもしれない。
(それどころか‥罵声を浴びさせたかもしれない)
 だけど、私は「そんなことをして許される人間」ではない。それは、私に対する不敬というより国家に‥王族に対する不敬ということになるらしい。
 そんな理由で私は腫れ物に触れるような扱いを受けていた。
 本心では決して関わりたくない、常に気を遣い、一時の油断も出来ない‥厄介者。
 油断して‥気を抜いて‥本心を表情に出そうものなら‥
 ‥実際にそんな者が過去に居て、その者はその時以来私の前に姿を見せることはなかった。
 噂で、その者が処刑されたらしいと聞いた。
 見せしめだ‥と父親は言っていた。
「王家を軽んじる者は誰であろうと容赦しない。それを広く世に知らしめる必要があるから」
 と。
 だけど、私はただ、父親がそのことによって国民に恐れられ‥非難されないか不安に思った。

 恐怖による支配は、信頼によるそれとは違うから。

 だけど、私の不安とは裏腹に、国民は‥驚くほどそのことに対して淡泊だった。
「そりゃあもっともなことだ」
「王様の御子息に対する侮辱は、王様を侮辱するのと同意だ」
「彼女は(私を不用意に見てしまい悲鳴をあげた新人のメイド)馬鹿なことをした」
 ‥無理に関わり合いになることは得策ではないし、私のことを考えるのも不快だ。彼らの態度からは‥私に対する彼らの明確な侮蔑と嫌悪感が感じられた。

 ただ、我慢していればそれでいい。

 それ以来、ここに来る者は以前に増して慎重な姿勢を取るようになった。
 本当の感情を出さないように‥何一つ失敗せず「速やかに滞りなく」業務を終えることだけに尽力する。
 そこには愛情や敬意などといった感情は全く存在しなかった。
 だから私もただ息をこらしてその業務が滞りなく終わることを待った。
 そして、成長するにつけて自分でできることが増え、私はまず身支度を自分ですることにした。
 メイドが
「それは私の仕事ですから」
 と反発すれば
「では、私が支度をし終えるまで部屋の隅に居ればいい」
 と言った。
 私は次に仮面をかぶって自分の顔が他人に見えないようにした。
 両親は
「王族が顔を隠すなど」
 と反対したが、王族が民に苦痛を強いている方が問題ではないかと言えば、不承不承‥了承してくれた。
 立場としては了承しかねるが‥といったところだろう。
 市井では私のことを
「可哀そうな王子様の生まれ変わり」
 だと噂しているのだという。
 そして、その噂には続きがあるという。
「きっと、王子様にも伝説のように‥「特別な人間」が現れるだろう」
「大神殿の尊い聖女様が女神様からそんなご神託を授かったらしい」
 そして始まったのが‥国をあげての「特別な人間」捜索だった。
 毎日何人もの「特別な人間」が私の前に連れてこられた。
 私を見て悲鳴をあげる者、具合を悪くする者‥
 もう‥地獄絵図の様だった。
 王と王妃‥両親はその様を見て烈火のごとく怒ったが、大臣は「この者たちを処罰するのは得策ではない」と言って‥偽「特別な人間」の処遇を自分に預けて欲しいと言って来た。
「‥王子様の特別な乙女ではなかったのかもしれませんが、この者たちは特別な人間であると太鼓判を押されてここに送られてきた乙女たちです。きっと、この国の民を救う光となりましょう」
 大臣は‥本心を見せない「人のいい」微笑を浮かべて言った。

 有り体に言えば‥「国家に対する偽証罪で処刑されたくないのであれば、国の為に働け」ということであろう。
 新しい国家の新規事業‥「醜い者たち」と言われ人々に忌避されているものの、国家にとって必要不可欠な防衛、建築の要となって働いてくれている者たちの種の保護を目的とした結婚斡旋所(国営)「秘宝館」の立ち上げの為のの結婚相手(花姫)として働く。
 親に言われるままここに送られた貴族令嬢にとっては‥これ以上ない絶望であった‥という。
 だけど、断れば最悪国家に対する偽証罪で処罰される。処罰を免れたとしても、‥令嬢にこの先まともな将来は期待できない。国からにらまれることを恐れて縁談は来ないだろうし、家族からは厄介者扱いされるであろう。
 ‥令嬢たちに選択の自由なんてないのだ。

「女神様は‥人々をただ苦しめるためにそんなご神託を下されたのですか? 
 私の為と貴女はおっしゃいますが‥私はそんなことを望んではいないです」

 私の為に何百年と続いて来た王家がが滅びるのは心苦しい‥だけど、王家はなくとも国は滅びない。
 例えば‥誰か新しいリーダーがこの国を更に発展させていけばいい。
 大事なのは血ではない。
 多くの者の犠牲や苦しみの上に成り立った王家など‥この先存在していく価値はない。

「いっそのこと‥呪われた我が身を滅ぼしてください。
 もうこれ以上誰もが傷ついたりしない様に‥私を殺してください」

 「可哀そうな王子」は‥自分には直接お声をおきかせ下さらない女神様に、そう切に願ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠
BL
 俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。  人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。  その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。  そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。  最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。  美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

攻略対象者に転生したので全力で悪役を口説いていこうと思います

りりぃ
BL
俺、百都 涼音は某歌舞伎町の人気№1ホストそして、、、隠れ腐男子である。 仕事から帰る途中で刺されてわりと呆気なく26年間の生涯に幕を閉じた、、、、、、、、、はずだったが! 転生して自分が最もやりこんでいたBLゲームの世界に転生することとなったw まあ転生したのは仕方ない!!仕方ないから俺の最推し 雅きゅん(悪役)を口説こうではないか(( ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー タイトルどうりの内容になってます、、、 完全不定期更新でございます。暇つぶしに書き始めたものなので、いろいろゆるゆるです、、、 作者はリバが大好物です。基本的に主人公攻めですが、後々ifなどで出すかも知れません、、、 コメント下さると更新頑張ります。誤字脱字の報告でもいいので、、、 R18は保険です、、、 宜しくお願い致します、、、

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について

いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。 ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎ 美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...