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244.アンバーからみた二女と「調べて分かった二女」

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「アンバー。さっきの二人‥どうだったんだ? 詮索したんだろ? 」
 コリンを連れて行った二人が、部屋から十分に離れたのを確認してから、ザッカが部屋のどこかにいるであろうアンバーに声を掛けた。
 アンバーが部屋の隅から姿を現す。
 コリン直伝の「隠密」だ。
 さすがは元悪の組織の一味といったところだろうか。闇属性の魔法なら先生であるコリンより上達が早そうだ。
 ザッカは密かに(心の中で)感心した。
「さすが隙がないよね。‥あれ以上魔力を出してたら気付かれるって分かったから‥詮索は出来てない」
 は~と大袈裟にため息をついてアンバーが言った。
「そうか‥」
 ザッカもため息をついて腕を組む。
 ‥さて、どうしたものか‥って考えてるんだ。
 ナナフルも眉をひそめて立ち上がる。ナナフルは‥「何も出来ないのがもどかしくって」「落ち着かない」って感じ。
 さっきまで「あいつらは会ったことあるかな」って記憶をフル回転させてたロナウとフタバは「ダメだ‥記憶にはないみたいだ‥」って崩れ落ちた。
 完全にお手上げって顔だ。
 シークは俯いて机を見つめている。

 事務所全体がどよ~んと沈んでいるように見える。

「それにしても‥! 見るからに性格悪そうな二人だったな! 」
 怒こり顔でロナウが、がばっと顔を上げる。
「あ~もう! 誓約士って皆あんな感じなわけ?? コリンを連れ出すときも僕たちなんかまる無視だったよ!? 普通、挨拶とかするよね?! 」
 行き場のない怒りをただ発散させてる‥って感じ。
「そうだな」
 ザッカがロナウをなだめるように苦笑いして相槌を打つ。
 ナナフルも、うんうんって怒った顔で同意してる。
 ナナフルはロナウに話を合わせてるっていうより、ホントに怒ってるんだろう。
「~~! なんもできないのがもどかしい!! 」
 ぷんぷん怒りながらロナウは立ち上がり、外に出る為部屋を出て行った。
 頭を冷やしたい? 一人になりたい? 
 ‥とにかく、このままここに座ってるのは無理って感じ。
 怒りと‥それよりも心を大きく占める不安と焦燥感で‥じっとしてられなかった。
 フタバもその後を追う様に立ち上がり、ドアの前でロナウに追いつくと、「私の屋敷に帰りましょう。‥誓約士協会にコリンを返すように要請‥するのは無理でも、コリンに酷いことをしないようにお願いしましょう‥」って言った。


「ザッカ、ちょっと」
 アンバーがザッカに声を掛け、一緒に来るように促す。
 ザッカも黙って頷き、一緒に部屋を出る。
「‥じっとしてたら時間がもったいないから」
 ってアンバーはまるで自分に言い聞かせるように呟いて、ザッカも頷く。
「誓約士協会に行くのか? 」
 ザッカが尋ねると、アンバーは「え? 」って心底驚いたって顔をした。
「そんなこと、俺に出来るわけないじゃないか。‥そんなことしない。
 コリンのことは心配だけど、‥俺たちにはどうすることもできない。
 だけど、あのまま心配して座ってても仕方ないだろ? ‥俺たちは俺たちの出来ることをするしかない。だけど、あの調子で、みんなが揃わない状態で出来ることはないから、先に俺たちの用事を済ませておこう。
 ‥エンヴァッハ伯爵令嬢のことだ」
 エンヴァッハ伯爵令嬢の名前でザッカの目つきが変わる。
 緊張感のみなぎった‥厳しい表情でザッカは頷き、アンバーもそんなザッカに頷く。
「調べたことを話す前に‥。
 俺のエンヴァッハ伯爵令嬢に対する第一印象から。
 俺が彼女に会ったのは、5年ほど前だったと思う。歳は俺とそう変わらないか、俺より若いって感じの派手な女だった。だけど、水商売の女みたいな婀娜っぽさはないって感じ。無理して自分を強く見せようとしてる‥単純な女って印象を受けたな。
 詮索するまでもなく、すぐに貴族の女だって分かった。
 一見して、「若くて綺麗で「自分の言う事を誰でも聞いてくれて当たり前」って勘違いしてる貴族の女」に見えたんだけど、‥なんかどっか無理してるような感じもあって、「悪女ぶろうとしてるけど、どこか不慣れ」って感じに見えた。だけど、まあ‥俺にとっては「悪女ぶってようと、ホントに悪女だろうと」全然関係ないし、全然趣味じゃなかった。彼女は当時俺になにかとちょっかいかけてきてたけど「珍しくってちょっと悪ぶりたい貴族のお遊び」に付き合う気なんか‥俺には全然なかった。
 だけど、まあ‥ちょっと遊んでやるか。飽きたら捨てたらいいや、どうせあっちも俺に遊びで関わってきてるだけだし‥って感じかな」
 アンバーの話を聞きながら、ザッカは「わ~、悪ものっぽい~」って(心の中で)感心したり。

 やっぱ、アンバーって昔っから(昔は? )悪だったんだな~ なんて思った。
「それで? 今回調べて何か分かったことは? 」
 ザッカはコホンと小さく咳払いしてから聞いた。自分の中にさっき浮かんだ「アンバーって悪者」って考えを消すためだ。
 そういう見方、良くない。
「まず、家族構成。こういうのは、フタバちゃんから聞いた。
 エンヴァッハ伯爵は、例のナナフルの仇のエンヴァッハ伯爵夫人との間に二人の娘がいる。
 一人は銀髪碧眼でエンヴァッハ伯爵にそっくりの姉、もう一人が赤い髪の令嬢だ。俺が会ったのはこっちだ。
 社交界では、白薔薇赤薔薇って呼ばれていた評判の美人姉妹だったようだ。
 姉の白薔薇令嬢の方が評判は良かったようだよ」
「赤い方は評判が悪かったのか? 」
 ザッカが確認するように聞くと、アンバーが「そうみたいだな」って頷いた。
「それが‥見た目がちょっときつめだったせいかな。「怖い」とか「悪女」って言われてたようだ。姉の男を取ったり‥って噂もあったみたいだし。だけど、妹が社交界でハブられるのを姉の白薔薇令嬢が庇ってたって話だ」
 ふうん? とザッカが頷く。
「白薔薇令嬢はイイ奴だったわけだね? 」
 って確認しながらも‥なんか「引っかかる」って顔してる。
「違和感あるって顔してるな。そうなんだよね、‥それはフタバちゃんも言ってた」
 アンバーも頷く。
 ザッカは職業柄「見かけはいい人だけど、実は‥」って人は嫌って程見てきている。
 そして、それはアンバーも同じだ。(てか、アンバーが今まで見てきた人間の中だったら、「いい人」の方が少ない。よくいるのは「見掛け通りの悪人」で、稀に「見掛けを偽った悪人」がいるよって感じ)
 だけど、三下で見掛けを偽ってる奴ってのは大概臆病で上の奴にへこへこしてるだけの‥しょうもない奴ばっかりなんだ。
 多分白薔薇令嬢は、それよりは利口だ。
 人を欺くために、見掛けを偽っている‥貴族らしい‥怖い女。
 そういう雰囲気をフタバは彼女に感じたという。「そんな感じで貴族の令嬢は‥皆ちょっとあの姉妹には出来るだけ近づかなかったって感じ。女の勘って奴ですわ」ってフタバは言ってた。
 フタバは続けて
「男は‥馬鹿ですわよね。あの容姿にころって騙されてましたわ。誰もかれも白薔薇令嬢に夢中でした」
 とも言ってた。
 まあ‥そこまで馬鹿じゃないとは思うけど‥貴族の結婚って愛し合って‥とかじゃないんだろ? その点でちょうどよかった‥とかなんだろうねえ。
 家柄が良くって、美人。そして、外面がいい。
 その条件が揃ってた白薔薇令嬢は当たり前だけどモテた。そして、赤薔薇令嬢はその引き立て役だった。
 赤薔薇令嬢は余りにも素直で単純で‥白薔薇令嬢を絶対的に信用していて、愛していた。
 そして、白薔薇令嬢はそんな赤薔薇令嬢の愛情を実に上手く利用した。
 飽きて別れる際にも、赤薔薇令嬢の名前を出せば、双方それで「彼女のせいで‥」で別れられて‥都合がよかった。
 うわ~貴族ってヤダな~。
「う~ん。‥典型的な貧乏くじタイプだったわけか。それで、グレて悪い道に走った‥と」
 ザッカが苦笑いする。
「そう単純な話でもないだろうけど‥近いだろうね。
 それで、彼女が家出して、その前後で白薔薇令嬢は結婚している。おそらく「お遊びではない、優良物件」と。そこで貞淑で理想な美人妻に収まった白薔薇令嬢は‥きっと「妹が心配‥」とか言ってるんだろう」
 苦笑いしてアンバーが馬鹿馬鹿しいって口調で言った。
「その女は‥アンバーには危険な女に見えたか? その‥ナナフルに害を成しそうな‥例えばさ、自分が上手くいかない腹いせに腹違いの兄弟に八つ当たりする‥とかさ? 」
 と、ここでザッカが真剣な表情になる。
「ん~‥俺の直感だけどね、それはないって思った。寧ろ「関係ないわ」って思いそう。愛人ってことになるわな、妻以外の女だったら‥それが乗り込んできて「この子を認知して。そして、男であるこの子こそが跡継ぎよ」とか言ったら、絶対「許すか!! 」って言うだろうけど‥、自分に関係ないなら別にどうでも‥って感じじゃないかな? 」

 あ~つまり、結構単純で「悪ぶった、だけどホントは、大して悪くもない女」って感じか。
 ‥いかにも、悪者に金蔓にされそうなタイプ~。
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