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163.鈴

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「鈴‥ねえ‥」
 アンバーが首を傾げて、コリンを見た。
 コリンが「何」とアンバーを睨む。
「以前、コリンは俺に鈴をつけたの? 」
 以前、アンバーがまだ味方じゃなかった時、警察に捕まったと見せかけて敵に殺されそうになってた危機をコリンが救ったとき‥
 コリンは
 アンバーをどうやって見つけたか。
「うん」
 コリンが何でもないって表情で頷く。
 プライバシーとか個人情報とか‥コリンは気にしない。
「今回も? 」
「うん、勿論」
 コリンがにこっと微笑む。
「アンバーの時とは違って今回は追跡型。ガーネットの魔力をずっと追っかけ続けるタイプの鈴をつけたんだ。
 今回も前回のアンバーの時と同様、対象者は青、周りの関係ない通行人なんかは緑、そして接触してきた人間は赤で表示される」
 それが二十四時間監視カメラみたいな感じでずっと録画され、コリンは目の端でずっとそれを見てるって感じ。
 青と緑だったらわざわざ意識しないけど、赤が出たらちょっと意識して見るって感じかな。
「悪の幹部と接触したり‥最低でもシアンと会ってくれるといいな」
 ロナウが何か楽しそうな顔で呟くのを、フタバがキッと睨みつける。
「アンタ、コリンに興味がなくなると途端にコリンに対する扱いが悪くなったわね。心配じゃないの? コリンが」
 ナナフルも頷く。
 ナナフルという強い味方をつけたフタバは、さらに‥もう虫けらみたいな視線をロナウに向け、
「‥大変そうね」
 対照的に凄く優しい‥労わるような視線をコリンに向けた。
 真っ青なロナウの顔を見たコリンは苦笑いした。
「二十四時間それじゃ気が休まらないわね」
 フタバが心配気な表情でコリンを見つめる。
 コリンは「心配ないよ」って笑顔をフタバに向ける。
「二十四時間ってわけないじゃない。相手も人間なんだから。これね、相手が眠ったら「何かあった時だけ再び入る」モードに変わるの。だから、その間に僕も眠るってわけ。ガーネットが結構睡眠時間を取るタイプで助かったよ」
 おはようからお休みまでガーネットと一緒とか‥なんか夫婦より凄いな‥。
 苦笑いするフタバだった。

「でも、接触するかな。シアンたちセールスマンとは会うだろうけど‥幹部に会うことなんてホントにあるかな」
 ロナウがさっきまでのことを挽回しようと、積極的に発言する。
 コリンが頷き
「会ったとしても、凄く怒ってたり‥そういう派手なアクションに出ない限り、分からないと思うよ。セールスマンも、コバルトもシルバーも赤、幹部だろうと赤。赤の人物は全部顔を確認するけど、その映像じゃ当たり前だけど名前や役職までは分からない」
 ちょっとため息をつく。
「あからさまに怪しい人物なんているわけないもんな」
 ロナウもため息をつく。
「アンバー様は、上の人間に会ったことはあるのですか? 」
 フタバがアンバーを見る。
 アンバーは首を傾げ
「会ってないと思うよ。俺は、ただの下っ端だから。役に立たなくてゴメンね」
 肩をすくめてちょっと笑った。
「そんな! かえって良かったです! もし会ったことっがあったら‥「顔を知られてる者を生かしておいては! 」って感じでアンバー様が危険に晒されてたかもしれませんよね。‥かえって良かったですホントに」
 しみじみと言って、その意見にロナウも同意してうんうんと何度も頷く。

 自分の事をあれこれ考察されているのが‥ちょっとむず痒い。
 詮索され‥陥れられるってことは今までもあったけど、あれこれ考えて心配されるとか‥って今までなかった。

 ちょっと照れくさいね。

「前に‥そんな話してたね。仕事を斡旋してたのは‥口利き屋だっけ? 」
 コリンがアンバーを見る。
「そう」
 アンバーが頷く。
「もしかしてそいつが」
 ‥実は影の支配者‥的な?
 ロナウはゴクリと唾をのむが、
「いや‥違うだろう。ソイツはただの監視役だろう」
 ザッカが即座に否定する。
 偉いさんはきっと暇そうに村に常駐しない。
 ‥多分だけど。
「違うか‥じゃあ、やっぱりアンバーが幹部に会ってないってのは間違いないって感じか‥」
 うーん、とロナウが唸る。
 そして、ちらっとコリンを見ると、
「そいつがどういうポジションで、アンバーの住んでたところがどんなところだったのか、僕たちは聞いてないからわからない。
 ‥良かったら僕たちにも教えてくれないか? コリンたちは聞いてるんだろ? ‥アンバーが嫌だって言うなら勿論話さなくたっていいんだけど‥」
 遠慮がちに聞いた。
 アンバーに直接は‥聞きにくい。

「別に話したくない過去なわけじゃない」
 そこでアンバーが自分が魔術士系の冒険者同士の息子で悪の組織の人間に攻撃されて両親を殺されて、拉致されて、仇である男に魔術を教え込まれて育ったことを話した。
 子供たちは、いつか仇を討つことを目標に魔術を習い‥魔術を習得した暁には、自分の師匠である前に仇である男を討ち復讐を果たし、しかし、人を殺した自分たちが表の世界に戻れるわけもなく‥結局はそこ‥悪の組織の駒として一生を終える‥という話。
「奴らは、殺しても足がつかない冒険者‥それも魔術師同士の子持ちの冒険者を狙うんだ。そして、その子供を攫って育てる。‥小さいうちから洗脳して悪の組織の一員に育て上げるんだ」
 アンバーが話し終えた時には、フタバは目を真っ赤にしていた。
「酷い‥」
 涙がその綺麗な瞳にいっぱい溜まっている。
「そんなこと‥」
 ロナウが怒り心頭って顔で宙を睨みつけている。
 
 まっとうに生きて来た人間には理解できないだろう。‥世の中にそんな悪い人間たちがいる‥なんてね。

「俺はだけど、洗脳する人間より魔力が高かったから洗脳にかからなかった。‥でもかかった振りして暮らしていた」
「洗脳は‥その‥例の魔薬によって? 」
 質問したのはフタバだ。
 目は相変わらず真っ赤だけど、もう泣いていない。
 泣いてても何にもならない‥って前を向いて、「何とかするため」に策を講じようとしている。
 フタバは賢明だし、強い。
 アンバーが頷く。
「それもあっただろうね。‥多分、初期の頃は攫って来た人間を魔薬の実験台にしていたんだろう。だけど、うまく行き始め「これを使って悪の組織の一員を初めから育てよう」って考えるようになった‥って感じじゃないか? 」
「それもあった‥ってことは、そういう魔術を使う人間もいたってことか‥呪いを掛ける人間がいたって話、以前してたね」
 ふうとコリンがため息交じりに呟く。
「したな」
 アンバーが苦笑いして頷く。
「呪い? 」
 フタバがゾッとした顔をしてコリンを見る。
 コリンが物々しく頷き‥
「‥呪いだよ。殆どね。‥精神系の魔法を使うなんて‥人間の屑だよな‥」
 と、コリンには珍しい‥ゾッとするような低い声で呟いた。

 それは‥間違いないけど、それを精神系の魔法を使う誓約士が言うのは‥ちょっと‥

 思ったけど誰もそのことをコリンに対し口に出来る者はいなかった。
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