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152.根回しの計画。

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「まずは、周囲に僕たちが婚約しましたよってことを知らせること。
 そして、僕がフタバちゃんのお義父さんに対して「いいとこ見せたい」って焦ってるって‥周囲に漏らさないといけない」

 周囲って‥そういえば誰にだろう。

 僕は貴族らしいことしてこなかったから、そう貴族の友達はいない。
 学生時代にも友達はそういなかった。
 今まで連絡一つとったことないのに、
 急に連絡して
「フタバちゃんと婚約したんだ。だけど、僕ってほら、貧乏貴族の三男坊じゃない? なんかカッコつかない‥っていうか‥。彼女のお父さんにいいとこ見せたいんだ」
 って愚痴こぼす‥とか不自然極まりない。
 知らんがな、って感じだ。

 さて‥どうしよう‥
 そんなに親しくはないんだけど‥集まって何となく近況を話す機会‥。

 って思ってた時にふと‥「同窓会‥」って言葉が浮かんできた。
 これしか‥ない。

 正直、同窓会なんて一生行かないって思ってたけど、行くしかない。
 ってか‥開催するしかない。(都合よく今急に同窓会なんか開かれるわけがないからね)
 って思った。

 去年卒業した者たちは全員進路が決まっている‥ってことに表向きはなっている。
 僕の進路は、「魔術紋 → 騎士紋」コース変更、で騎士になった、ってことになってる。
 それは間違いではないが、騎士になっただけで、どこにも所属していない。資格を持ってるだけだ。

「僕が「就職を斡旋してくれ」って言わないから、教会は僕が騎士紋を取得して、騎士になり、就職しているって思ってる」

 だけど、僕は就職していない。
 正確にいうと、騎士として就職することは出来ない。
 なぜか、
 剣が使えないから。

「‥どういうこと? 」
 コリンがいや~な顔でロナウを見る。
 何を言っているんだ? って顔だろう。
 そんな顔になるのは‥ロナウだってわかる。自分でも「何言ってるんだか」って思う。
 これを認めるまで時間がかかったし、‥認めた後も、随分悩んだ。
 
 ロナウは小さく頷くと、真剣な顔で
「神剣が主だと認めたのが僕だから、この神剣のマスターは僕だ。
 当代は僕しかこの神剣は使えない。
 それと同時に‥
 僕は、この神剣以外の剣を使用できないんだ」
 と、説明した。

「そんなことって‥」
 こんな説明しても、皆が分かって‥理解して、信じてくれるかどうかは分からない。
 だけど、これは‥真実なんだ。

「‥信じられないだろうが、真実なんだ。触れること位は出来るが‥剣を振ることすら‥出来ない」
 なんでも、この神剣には(喋ったりは勿論できないけど)自我があって、他の剣を使うのを嫌がって‥物理的に邪魔をするらしい。
 
 剣にとっては、「自分が使えるんだから、それでいいだろ! 」ってことなんだろう。
 普通だったら‥そりゃ、そうだ。
 これ以上に使いやすくって、これ以上に「自分に合った」剣はない。

「だけど‥それは、僕が当主だったら‥の話だ」

 だけど、ロナウは当主じゃない。ただの形式上‥継承式の時限定の「身代わり」だ。

 だからまさか当主ではないロナウが神剣を常に帯剣して、実際に使うわけにはいかない。だけど、他の剣をつかうのは、神剣によって邪魔をされる。
 今回は「いざという時」に備えて、こっそり持ってきた‥らしい。
 なんだ? いざという時って思ったら
「コリンといたら、よく事件に巻き込まれるから」
 ってロナウが笑った。

 ‥僕は見かけは子供の「コ●ン君」か!

 それにしても‥
「「「‥‥‥」」」
 ‥なにそれ、迷惑。

「そんな事情、誰にも言えないじゃない。だから、僕は就職しないんじゃなくて、就職できないんだ。
 ‥フタバちゃんとのことが無くても、僕は困った状況なんだ」
 へにゃ、っとロナウが笑う。

 ‥何呑気そうにしてるんだこの男は。
 そんな無職男が嫁を貰うとか‥どういう気だ。
 「ふり」とかじゃなく本気でやべえな。そんなのフタバちゃんのお義父さんじゃなくても、ヤバいわ‥。

「ね。僕が焦って「怪しい話にでも縋りたい」って状況‥リアリティあるでしょ? 」
 ‥そうだな。
「「‥‥‥」」
 全員苦笑いだ。
 ロナウ君、暇なんだね。(フタバちゃんみたいに)休みを無理やり取ってくれたわけでもなく‥暇なんだね。つまり。

 あ、言っとくけど僕らは専門職だったり自営業だったり冒険者だったり‥と時間に融通が利くだけで、無職じゃないからね! (アンバーもギリ‥専門職かな? )


 にしても‥怖いな神剣。‥血に飢えた妖剣みたいじゃない??

「じゃあ、テイナー君が剣を持つとああ(刃物ハイに)なってたのは‥(妖剣に操られてたから? )」
 ‥妖剣なら人格を操ってもおかしくはないからな。
 コリンがゴクリ、と唾をのんだ。
「いや、あれは‥神剣のマスターになる以前の話だったから‥。
 神剣は多分‥「自分をお飾りじゃなく、使ってくれそう」っていう期待を込めて‥僕を選んだんだと思う」
 
 領地経営に力を入れて来たこの頃の当主たちと違って、ロナウが、「刃物大好き、刃物ハイ」なやべー奴だったから‥ロナウは神剣に選ばれた‥ってこと。
 当主の器とか‥所詮剣にはどうでもいい、関係ない。

 一同は苦笑いした。
 なんていうか‥お気の毒‥としか‥言えない。

「う~ん。つまり、
 神剣のマスターであるロナウ君はそのせいで騎士という職業に就けない。だけど、それを誰かに相談するわけにはいかない。だって、それは一族の秘密だから‥ってことか。
 だけど、じゃあ、余計に教会の同窓会っていうのは具合が悪くないか? 」
 アンバーが首をちょっと傾げる。
 めんどくさそうに‥ちょっと首を傾けて、ゆったりと腕を組む。
 ただそれだけ、いつものただ「男の色気満載」なアンバーなんだけど、恋しちゃったロナウにはアンバーが可愛く見えて仕方が無い。
 キレイ、じゃなく、可愛いだ! 
 コリンがもし、ロナウのこの感想を知ったら、きっと椅子から転げ落ちて、しかも、目を見開いちゃうだろう。

 自分たちより頭二つ分以上も大きな男を可愛い!!

 ‥確かにアンバーは、背は高いが、筋肉質じゃない‥華奢な体つきをしている。シークやザッカみたいながっちりした男がまわりに居るから余計に、ね。
 顔も‥人形かって程、綺麗だ。
 たとえ、その美貌に浮かべた表情が「興味なさ過ぎて氷の様」だとしても‥だ。

 因みに、ロナウの頭の中は、こう。

 小悪魔! 冷たく見える表情‥色っぽい~! でも、僕の事心配してくれてるってわかってる‥。僕は分かってるからね! 君が優しい子だってこと! ああ、年上だったか‥。でも、年上だのに守りたくなるような可愛さ‥ツンデレ‥いい! 

 ‥惚れっぽい人‥ヤバい。

「資格は取ったけど仕事がない、だれかいい伝手ない? って周囲に「困ってます」アピールするってこと? 」
 コリンは首を傾げる。
 こっちは、普通に可愛い‥。今までだったら「可愛いなくそ‥」って感じだったんだけど、今はツンデレ美人のアンバーが可愛く見えてるから‥こっちは「うん、可愛いけどね。別に‥」って感じになっちゃったらしい。
「そんな感じかな‥。
 幸せ自慢したい。だけど、ちょっと困ってるんだよね~って周囲にアピール‥ってのね。
 そこらは、なんとかうまく‥出来ると思う」
 うん‥僕らには心配しかないけど‥君が出来るって言うなら‥うん。
 コリンとフタバは苦笑いした。
 そして
「‥そういう会に、普段だったら絶対参加しない僕が出るってのも変だと思うから、僕は欠席するね」
 監視したいのはやまやまだけど‥と呟いて、コリンが言うと、ロナウは眉を寄せて‥
「いや‥コリンは昨年度卒業生の中で一番の出世頭だ。‥コリンが来るって言うなら同窓会を開いてもいいって先生もいうだろうし‥なんだかんだ言ってコリンと接触したいっていう卒業生も多いだろう。
 コリンには悪いが‥
 共同体のたっての頼み‥ってことで‥」
 出席してもらえないだろうか? 
 縋るような顔をする。
「まあ、そうよね。ロナウが頼んでも、誰も「うまみがない」から同窓会に来てもくれないわよね。人が集まらなかったら意味はないわよね」
 フタバが援護射撃をする(と見せかけて、ロナウを貶す)。
「‥それは‥そうかもしれないけど‥。僕が「うまみ」になるかどうか‥。一番の出世頭っていっても、誰も誓約士になんかなりたい人はいないだろうし‥。
 ああ‥
 誓約士の知り合いがいたら何かと便利‥って話か‥」
 ふう、とため息をつく。
 学生時代は自分の事を馬鹿にして‥苛めて来た奴らが自分に利害目的で擦り寄って来るかも‥って考えたらイラっとする。
 ロナウの計画の邪魔をしないように‥奴らにキレないようにしなければいけないが‥自信がない。
「そこら辺は私がフォローするわ」
 フタバが小さくため息をつく。

 コリンが損でしかない。

 三人の様子を見ながら、シークはイラっとした。
 そして、同時に「自分の知らないコリン」を見せられ、寂寥感というか‥嫉妬というか‥なんとも複雑な気持ちも感じた。

 こんな黒い気持ちを誰かに持つなんて‥。
 俺は思っていた以上に‥
 コリンのことを好きになっている‥。
 
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