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111.正規と野良の魔術士。

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 ‥協力せざるを得ない??
 強制?

 首を傾げる4人にコリンが、「魔術の相性がいい運命共同体の人々は、有事‥犯罪等、法に反するまたは、個人の欲望によるもの以外‥の場合は、互いに協力し合わなければいけない」という魔術士協会の規則の話をした。

 難しい書き方がしてあるが、ようは、「公序良俗に反しないで、個人的な頼み以外は絶対協力の義務があるよ」って位の強制力、ならしい。

 その目的は「魔術の発展を促す」為と、一線で働く魔術士の生存率をあげる為であるという。
 逆に言えば、一線で働く魔術士っていうのは、それ程危険が多いって話だ。
 一人で戦うより二人、三人の方がいい‥のは当たり前だが、これが相性のいい運命共同体ってなったら、その力は三倍にも四倍にもなるらしい。
 だから、本当に大変で本当に必要な場合は、助け合いが必須。

「え、だけど、ペアを組んだりしてない人たちもいるんでしょ? 現に、コリンもそうだよね。今まで一緒にいたけど、そんな話聞いたことないよ? 
‥だのに、急に呼ばれて共同体だから‥ってお願いを聞いてくれるの? 」
 ナナフルが眉を微かに寄せる。
 怪訝そうな表情‥だ。
 確かに、一般の人には理解できないと思う。
 こういうのは、‥でも魔術士たちにとっては、別に疑問に思う様なことではない。
 魔術士なら当たり前っていう、所謂「御約束事」だ。
 コリンは、ふふと僅かに笑うと
「聞いてくれる‥とかじゃないんですって。それは規則で仕方が無いことなんです」

 魔術士にとっての「規則」
 それは、個人の意思や都合よりも優先される。

 魔術士は、普通の人とは違う。
 出来ることも違う。
 普通の人より出来ることも多いけど、‥逆に普通の人より敵も多い。
 命を狙われることも、増える。
 殺されないために、自分の弱点を隠し、相手の弱点を探す。
 相性がいい相手というのは、お互いに「自分の弱点を補ってくれる相手」であるという。
 ‥そして、その前提として、お互いに弱点を、ほんの小さなことまで‥分かっている相手と言える。それも、「観察の結果」とかではなく、本能的に、だ。

 最大の味方であり、最大の敵。

 だから、魔術士にとって、「決して裏切ることが出来ない」相性のいい相手‥運命の相手は特別なんだ。

 だけど、それを別としたら、単純に相性のいい相手同士のタッグは、大きな戦力となる。
 そんな理由で、相性がいい者同士のタッグというのは、重要視されている。

 効率以前に、安全性が重視されているんだ。拒否するってのは、‥人間的にどうだろう‥って感じなんだろうね。
効率云々ならまだしも‥人の倫理観に訴えかけて来る「規則」ってちょっとズルいよね‥。

「‥成程、‥ねえ? 」
 っていっても‥、それが悪用されるってこともあるんじゃ‥?
 力がある‥っていうのは、それだけ「使い様もある」ってことで‥。

 四人が複雑な顔で見て来たから‥じゃない。
 そんな顔されなくても、四人が言いたいこと‥疑問に‥不満に(不審にかな? )思っていること位コリンにだって、分かる。
「だから、有事の場合のみ、です。協会と共同体の相手も両方が納得した場合しか、この規則は適用されません。
 その納得というのは、「やりたいかやりたくないか」では勿論ありません。「有事と認められるか認められないか」の見極め‥です。
 ここで、私情でもって判断を下した場合は、後で罰則が下り、その魔術士の信頼が大暴落します」
 魔術士ってのは信頼あっての仕事だから、信頼を失った魔術士は仕事を失うことになる。
 それに、「素行不良」って協会に判断されたら協会、最悪「魔力没収」の罰を受ける。
 魔術士って、魔術しか出来ない‥ってタイプが多いから、これが一番困るんだ。

 いろいろあるんだなあ。
 四人は「へ~」と感心した声を思わずもらた。

「今回の場合‥コリンが協会に連絡したら、その共同体のメンバーに知らせてくれる‥って感じ? 」
 アンバーが、多分皆が聞きたいであろうことを聞いた。
「そこまで大袈裟な感じじゃないよ。協会の許可‥っていっても、有事では、そんな‥まずは連絡してから‥とか悠長なことしてる時間なんてない場合の方が多いだろうし。普通に、事後報告だよ。
 メンバーから連絡を受けて、先に判断を下すのは、共同体のメンバーの中のリーダーなんだ。
 リーダーがメンバーの一人から「協力依頼」を受け取り、リーダーが「これは有事だ」と判断すれば、他のメンバーに協力要請を出す‥って流れが普通だね」
 コリンがアンバーに丁寧に説明し、四人が同時に頷く。
 リーダーの権力は絶大だな‥。
 って感想は、‥でも‥話の腰を折っちゃいけないから、今は口には出さないで置いた。

「‥ってか‥リーダーがとんでもない奴だったら、最悪だな。職権乱用で、メンバーを私情で働かせたり、事後報告を怠ったり‥結構不正とかし易そうだよな?
 そもそも
 その協会ってのは、ホントに大丈夫なんだろうな‥。
 今回の場合だったら‥協会のお偉いさんが悪の組織側に買収されてたら計画がバレるだけだぞ? 」
 ざっかがその疑問を口にすると、コリンが「大丈夫です」と笑った。
「協会の結束は強いんです。
 ‥全員が全員‥誰かの命を握ってるんですから、偉いさんも下っ端‥もないですしね。
 先輩か後輩か、魔力が強いか弱いか、魔術が上手いか下手か‥って違いがあるだけで、役職とかは無いんです。
 教会とちがって、指導者と生徒って関係もないですしね。
 因みに、リーダーの不正はすぐに‥ホントにささやかなことでもすぐにばれます。メンバーの中だけじゃなく‥協会全体に。
 正規の魔術士っていうのは、不正にはやたら厳しいんです。
 ‥正義感がある‥とかじゃないですよ。魔術士って、光属性の魔術士以外は大概みんな性格が悪いし、自己本位なんです。‥暇を持て余し‥否、刺激を求めてるんです。
 だから、何より面白いことが好き。そして、その何より‥他の魔術士を蹴散らして凶弾するのが好きなんです。
 何よりも面白いって思ってるって言っても過言じゃないです。
 不正をした‥何て言ったら、相手を凶弾できるまたとないチャンスです。
 誰もが納得し、多少過剰に攻撃しても誰も文句を言わない‥「恰好のネタ」って奴ですね。
 口が立つ奴なら、専門分野で相手を論破するのも楽しいし、それで乱闘になっても、‥相手も魔術士なんだから遠慮が要らない。魔術士同士の乱闘は、‥一般人を巻き込まない限り警察も関与できませんからね。最悪その結果、被害者が出ようと‥魔術士協会が「止む無し」と判断をくだせば、罪にも問われない。
 協会公認の「公開処刑」ですよ。
 悪い奴だから、何してもいいだろ‥的なね」

 うわ~。
 悪魔っぽい説明‥。
 魔術士の生態、普通の人間とは違うぜ感が凄い‥。
 生態すら違うっぽいよね。

「‥正規の魔術士になるメリットってなんだろ。足の引っ張りあい感が凄いけど‥」
 アンバーが青ざめて呟いた。コリンは、またふふ、って軽く笑う。
「協会で保険組合に入れたり、職業の斡旋、失業保険‥とか福利厚生が充実してます。
 それらは、組合員の納付金によって賄われています。
 そういう‥特典がメリットかなあ。
 あとは‥ネットワークだね。
 コネクションとか、
 横の繋がりって大切だよね。
 同級生だけじゃなくって、それどころか、同じ教会だけじゃなく、魔術士ならみんな入れるからね。
 でも、一番大きいのは‥やっぱり、身分証明になることですかね。
 ギルドみたいに、ランクがあって、協会に所属している魔術士同士なら、見ただけでランクが分かるんだ。
 腕に覚えのある魔術士的には、見せていきたいもんなんじゃないかな? 僕はそんなのどうでもいいけど‥まあ、見ただけで分かるから、無駄な喧嘩売られる回数も減ったのはよかったかなあ‥」

 見た目はこの通り弱そうなコリンだから、「勝てる」と思われて、以前はよくケンカを売られたのだが、それがなくなったのは良かったって話をしているのだ。(そのなかには、勿論ナンパや痴漢も混じっているのだが、コリン的には、それもひっくるめて襲撃と呼んでいる)
 雑魚からは喧嘩を売られなくなったが、腕に覚えのある相手から喧嘩を売られるようになったのは、‥ちょっとメンドクサイ。
 道場破りってか、武者修行って奴なんだろう。(迷惑な)
 
 ランクの協会メンバー内の自動呈示オートディスプレイ
 隠したい人もいるんじゃないかって? 
 魔術士はそんな控え目な性格したものはいないし、ランクを偽って‥とか卑怯だって思ってる。(結構、そういうところはしっかりしてるんだ)
 それに、敵になる確率が高い非正規な魔術士には(協会に所属してないから)勿論ランクは見えないわけだしね。
 協会に所属していなければ、友人だろうが先輩だろうが家族だろうが見えない。
 だから、コリンのランクをアンバーもシークも両親も知らない。

 魔術士特有の顕示欲を満たす。
 そして、
 協会に入れば、ランクも上がるし、福利厚生も保証するよ。
 だけど、
 ちゃんと協会の利益の為に働け、不正は働くな。金を納めろ。

「成程‥? (納得できるような納得できない様な‥)」
 でも、入りたくない‥かなあ‥。
 入りたい‥って思う程、魅力ない‥かも?

「後、結構これも重要なんですけど‥。
 犯罪を犯した時に正規の魔術士じゃなかったら、間違いなく罪が重くなりますしね。
 魔術の不正使用とか、間違いなく極刑ですよね」
 ‥あ~。アンバーヤバいじゃん。
 間違いなくヤバい感じじゃん‥。
 生温かい視線をアンバーに送るコリンを除いた事務所の仲間。

 またちょっと青くなったアンバーには構わず、コリンが話を続ける。
「警察は、魔術士が嫌いですからね。間違いなく厳しさ倍増ドン! で来ますよね。
 ただの傷害事件でも、野良の魔術士が起こしたとなったら、「危険人物」認定で、禁錮、罰金、最悪処刑ですよね。
 まあ、それくらい、魔術士は、魔力を持たない人からしたら‥脅威なんでしょうね。一般の人からしたら、魔術士なんか野良だろうが、正規だろうが‥まあ、危険人物の化け物ですよね」
 わかりますよ。
 って、コリンは、何でもないって顔で言ったが、その横顔は悲しそうだった。

 なにも、俺だけじゃなかった。
 コリンもまた、世間の目を恐れてたんだ。
 アンバーは、胸がぎゅっと苦しくなった。

「‥その話はもういいか。で、共同体のリーダーって? そいつにだけは、この件を話さなきゃならないんだろ? そいつは信用出来る奴なのか? 」
 ザッカが無理矢理話を変えて‥話を元に戻した。
「ああ‥。僕たちの共同体のリーダーですね?
共同体のリーダーっていうのは、その共同体の中で一番公平で、一番魔術のレベルが高い人がなります。つまり‥」
 そこで、にやりとコリンが微笑む。

 ‥ああそういうことか。

 コリンは学生時代、実技も筆記も学年どころか‥教会トップだった。それどころか、歴代ナンバーワンの成績だったって教会から紹介文が来てた‥(←これはコリンは知らない)
 ‥何なら「そんなわけだから、魔術の発達の為に、内定を取り消して」っていう要請も結構しつこく文章で着てた。(勿論ザッカが無視した)

「‥コリンたちの共同体のなかのリーダーって‥」
「勿論、僕です」

 デスヨネ。
 リーダーへの報告及び、審議の工程クリア。
 あとは、メンバーへの協力要請‥か。
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