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95.敵にまわる位なら‥って存在。‥つまり、殺害フラグ立ちまくってるってことですね。

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「ナナフル。ナナフルがひっかかっている‥刑法で裁けない魔術士による殺人‥については、確かに腹は立つ。なんとかしたいという気持ちも分る。
 だけど、‥今一番に考えなければいけない事ではない。
 それこそ、刑法が改正でもされなければどうにもならない話だからな‥」
 ザッカは、その話は、今最優先ですべき話でもない、と言う。
 それどころか、どちらかと言えば‥我々の様な一般庶民がしても仕方が無い話だとすら思っている。
「別に悪者が捕まってからの話をしているわけではないよ。「捕まっても裁かれないとか、嫌だ」とかは‥ない。
 ただ、コリンの教会長の話を今ふと思い出したんだけど‥もしかしたら、悪の組織は法の網をかいくぐるために、魔法省と密接なかかわり‥では無くても、魔法省となんらかの接触を取っているんじゃないだろうか? 悪の組織の尻尾を掴む手がかり‥みたいなものが魔法省を調べれば出てくるかもしれないって思ったんだ」
 そう反論したのは、ナナフルだ。
 この二人、意見が割れると、大概どちらかが折れるってことにはならない。で、結局それぞれがそれぞれの検証をしようって話になる。それこそ、睡眠時間を削って、だ。
 この二人には、労働時間は無限で無償だと思っている節がある。
 仕事は生活の一部だと信じて疑うことがない。
 ‥なんか、どっかの国の造語で「これナナフルたちにピッタリな言葉だな~」って思った言葉があった。
 アンバーはそんなことをふと思い出し遠い目をした。

 社畜。ブラック企業‥

 ‥この件が、総て終わったら、俺はあの村の仲間たちと普通の暮らしをしよう。
 誰かに、「いい様に使われる」のもこりごりだし、‥仕事に一生を捧げる気もない。
 日の出と共に起きて、日が暮れたら寝る生活。
 ‥なにも、悪党だけがお日様に背いて生きているわけではない。
 お日様を無視している点では、社畜もまた影に生きているっていえまいか?
 金はないだろうが、真っ当に、額に汗して働こう。
 仕事終わりに仲間と一杯飲んで帰って‥いや、可愛い嫁が待つ家にさっさと帰って家で一杯。それで、可愛い嫁さんとイチャイチャしたりなんかして‥。‥そんな平凡な暮らしがしたい。

 恋人が仕事人間で、更に一緒の仕事で、一緒にずっと仕事‥とか、絶対嫌だ。生活が仕事の延長‥とか、仕事と生活の境がない‥とか絶対嫌だ。
 日の出も日が暮れたのにも気付かず、集中力が切れてきたら仮眠して‥とか不健康な生活は嫌だ。

 いくらナナフルが綺麗で優しくっても、絶対嫌だ。
 それに寧ろ、俺は綺麗より可愛い派だ。
 顔‥とかじゃない。雰囲気の話だ。明るくって、笑顔が可愛い癒し系。責任感があって、しっかりしてるんだけど、どこかちょっと不器用で、でもいつも一生懸命‥。
 そういう子がしっかり守ってくれる家‥早く帰ろ~って思うじゃない?
 アンバーは、うっかり、ニヤニヤしてしまっていた自分にはっと気づいて、周りを見回したが、ナナフルとザッカはさっきの「議論の優先順位」の話してるし、コリンとシークは何やら真面目な話をしている。どうやら‥シークがコリンに質問している様だ。
 自分の名前が聞こえたので、耳を傾ける。

「闇魔法属性の魔術士は、みんな他者から魔素を調達するのか? それは、アンバーもってこと? 」
 ‥どうやら、俺の話をしているわけではなさそうだ。
 が、俺に関係あることは間違いない。寧ろ、聞いておいた方がいい話だろう。
 ‥俺は、闇属性の力は使うが、‥考えて‥分かって使っているわけではない。
 アンバーはコリンの話に耳を傾ける。
「‥それなんですよね~。闇の属性の研究者は本当に少なくって、本にもそう詳しく書かれているものが無かったから、僕もはっきりと言えないんですよ。僕について言えば、僕も闇の属性の魔術は使いますが、なにぶん魔力の保持量が多過ぎて、魔力が枯渇するような状況にそうならないんですよね。
 他から吸収しているって感覚はないから、‥していても無自覚でですね‥。
 自分自身で実感がないなら‥他人で実験するしかないな、ってね。
 ‥勿論、アンバーで、ですでけどね。
 それで、考えつくだけの疑問点を出して、何個かは実験してみたんですよ」
 実験?
 コリンの口から出て来た、不穏なwordにギクリとする。
 ギクリ? ‥ゾクリ、かな?
 兎に角、嫌な予感しかしない。
「実験? 」
 固まっていたら、シークがいいタイミングで聞いてくれた。

 よし、シーク! いい質問だ。

 ヒトの話を盗み聞きしておいて、途中から話に入る‥とか、あんまりしたくないんだよね。
「あの時ですよ。つい最近、僕が倒れた前‥その前に、アンバーに攻撃したでしょ? 」
 あの時‥つまり、森から帰ってきたコリンが突然、何の前触れもなくアンバーを攻撃した時の事だ。
 実験だったのか‥
 頭が追い付いてなくて、??? になっているアンバーをほっぽって、コリンは、「考えつくだけの疑問点」とそれらを解明するため行った「実験」の話をし始めた。

 疑問点1: いつでも調達が可能で、それこそ大気中の魔素も吸収できるのか。(自分の意志で)
 疑問点2: そもそも、どのような状況で吸収するのだろうか? その為に、自分の意志ではなく無意識の状態を作り出す。魔力が減って自分の生命が脅かされる‥と感じた際であったら、(吸収する能力があるならば)無意識で周りの魔素を吸収するのではないか。
 考察3: 2の場合、大気中から吸収するのか、例えば攻撃された場合で会ったら、攻撃相手の魔素を吸収するのか?
 疑問点4: その際、相性は関係があるのか。
 
 疑問点1については、森で、無意識かもしれないが‥魔素を吸収していたことがわかっているから、あとは、自分の意志で常時魔素を吸収しているのか、ということを検証しようと思った。
 でも、いつでも‥ってのは実験しようがないので分からないから‥ぐっと保持している魔力量を減らすとどうなるか‥という実験をしてみることにした。
 魔力量を減らすために手っ取り早く、攻撃すればいい。
 これは、減らすだけが目的ってわけではなく、「危機的状況下に陥って更に、魔力量が減れば魔素を吸収するのか」という実験なんだ。
 その際、疑問点3と4についても同時に実験できる。(ちょうどいい! )
 まずは、闇の魔術と相性があまり良くない雷属性の魔術。
 かなりアンバーの魔力を減らしたが、アンバーは魔素を吸収しなかった。
 相性が悪い魔素だから吸わないのかな? 
 だから次は、相性がいい氷属性の魔術で攻撃した。
 やっぱり、かなりアンバーの魔力を減らしたけれど、アンバーは大気中の魔素も含め、魔素を吸収しなかった。
 吸収出来ることは分かっているんだけど、しない。どういうことだろう?
 ここで仮説が立てられる。闇属性持ちの魔術士だからといって、普段から魔素を吸収しているわけではなく、闇属性の魔術を使う時のみにしか吸収しないのではないか?
 だけど、‥検証しようにも、さっきアンバーが攻撃を返すのに使って来たのは火属性の魔術だった。
 がっかりでした。
 ‥にしても‥いつまでも、アンバーが魔力切れの状態ではマズイかな。何とかしないとね~
 で、実験を中断して、魔力譲渡でアンバーに魔素を譲渡した‥

 ということらしい。

 ‥迷惑な。
 しかも、一歩間違ってたら死んでたぞ‥。
 アンバーは、怒り通り越して、驚きと‥恐怖で顔面蒼白だ。

 なのに‥!
「魔力譲渡には、不適合的なものはないの? 」
 意外にも特に気にしていない感じでシークは話を続けている。

 シーク!! 君、昔はもう少し「モラルが! 」とか「人権が」とか気にしてたよね?!
 ‥随分コリンの非常識に毒されてきたよね‥

「それが分からないから‥あの時は、何の魔力にも変換していない魔素を使用しました。
 成分輸血みたいなものを想像してもらったらいいかな?
 誰にでも出来るわけじゃないんですよ。
 魔素ってね。溜まっている過程ではなんの属性も無いんです。だけど、魔力として使う為に、それぞれの属性の魔力に変換される。それは、体内でかってにされるんです。そうなって、初めて魔素が「使用可能な魔力」になるんです。
 変換される量は、属性ごとのレベルなんかによって違う。‥レベルごとに変換される量が決まってるんです。
 逆に、決まった量しか変換されないんです。
 そして、魔力を使って減れば、魔素がまた変換される。
 普通は、魔素の総量が全部「使用可能な魔力」になって、体内にはまっさらな魔素が残ることは無い。だから、魔力を使いきったら、魔力切れを起こす。
 僕は保有できる魔素がはじめから多いから、何の魔力にも変換していない魔素が沢山あるんです。
 今回アンバーに譲渡してのは、その分です。
 ‥というか、
 僕自身、実のところ、あれをやったのは初めてなんですが、上手くいって良かったです」

 コリン、君、ちょこちょこ自慢入るよね‥。
 にしても、さらっと、にっこりと‥恐ろしいこと言ったよね!?

 まさかの行き当たりばったり‥っ!

 無事でよかった‥俺‥。
 ‥俺に対するコリンの扱い‥酷くない??
 ショックを受けているアンバーを気にせず、コリンは尚も話を続ける。
「あ、でも、やったことないだけで、普通にある方法なんです。魔力譲渡。「魔術士による闇属性の魔術士に対する応急処置」って医学書に書いてあったのを見たことがあって知ってたんです。
 普通は、何日もかかって貯めておいた余剰魔素を魔石に貯めておいたものを胸の所に置いて吸収させるらしいです」
 医学書‥。コリン、そんなものも読んでるんだ‥。
 コリンって、勉強熱心だし、努力家だし、魔術士としては尊敬できるんだよね。
 それは認める。
 ‥けどな~。
 人間としては‥。
「アンバーについては、‥正直実験が足りない。
 魔素を吸収することが出来ることは分かったが、吸収できる魔素の条件やら、吸収できる条件が分からない」

 実験実験って人をなんだと思ってるんだ~!!

「あの応急処置って、闇属性の魔術士限定なの? 」
「ええ。他の魔術士は、経口摂取以外で魔素を他から摂取することはできませんよ? 経口‥? つまり、魔獣を食べるってことですね」

 アンバーは吸収できる。
 それは、アンバーに闇属性の魔術士の特性が強いってこと。
 闇属性が使えても、その特性が強くなければ、もしかして使えないのかもしれない。

 あの森をアンバーは「再生」ではなく、「成長促進」(そう考えると、やや治療寄り)で元に戻した。これは、闇属性の魔術ではない。
 アンバーにとって、再生は、マスターしていないか、少なくとも無意識で使うほど身近な方法ではない。使えるのを隠して‥という程アンバーは魔術を意識して使っていない。‥使えるものを、身を守るために使っている‥に過ぎず、その重要性、難易度に拘りは無い様だ。
 闇魔法の再生は巻き戻しで、魔力源は、術者本人の魔力と、周りからの吸収。
 土魔法の成長促進は、光魔法の治療同様早送りで、魔力源は術者本人の魔力と、被術者本人が未来(経過する時間)に払っていく力なり魔力の先払い。
 だけど、アンバーはあの森で、「被術箇所」の成長促進に、周り‥つまり、被術個所以外の魔素を吸収して使用した。‥だから、あの場所‥被術箇所‥だけ魔素が特別濃かった。
 なぜそうしたか?
 魔術を習っているわけではないから、「こういう方法いい気がした」って考えたわけじゃないだろう。
 ‥ただ、そうしたらできたからしたんだろう。
 
 アンバーは、まるで魔術の常識なんか、ないかのように‥自由。
 自由に魔術が創生できる。

 ホントに、アンバーは特別なんだ。

 敵に回ったら、凄く怖い存在。
 そして、‥敵が、アンバーについてどこまで分かっているのか。
 分かっているならば、もっと真剣に取り戻しに来るはずだ。
 きっと、敵は「まだ」アンバーの事を、そこまで分かっていない。
 これから先も、‥分かられるわけにはいかない。

 ‥アンバーの事、今はもう仲間だと思っているから‥とか以上に
 奪われるわけにはいかない存在。
 敵に回る位なら‥
 って存在。
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