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70.大目にみてよ。

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「ちょっと触れただけじゃん。
 それ位で怒らないでよ。心が狭すぎない? シーク」
 シークはアンバーの腕の中にいるコリンを奪い取る様に受け取る。
 ‥そういえば、シークずっとここに居たんだな。あんまり静かだから気付かなかったよ‥。
 アンバーは背中に嫌な汗をかいた。
 ‥にしても、怒るならもっとすぱっと怒ってくれよ‥、こういうとこも「むっつり」って感じするよね。こう、内に籠ってるっていうか~。
 声を荒げるでもない。‥それどころか、完全に無言なのがかえって怖い。


 苦笑いして、「ちょっと触れただけじゃないか」なんてふざけたことをいうアンバーをシークは無言で睨み付けた。
 抱き上げて、横抱きで運んでも、コリンは目を覚まさない。
 所謂魔力切れという奴なのだろう。
 コリンの膨大な魔力を魔力切れを起こさせるほど吸収できるアンバーって‥何者なんだろう? って思うが、‥ここの所コリンは魔力を使い過ぎていた。慢性的に魔力不足になっていたのかもしれない。
 もう幾ばくもない魔力を、徐々に回復させては生命活動に充てていたのだろう。

 ‥通常のコリンだったらそんなこと絶対なかった。
 コリンは‥時々悲しく‥寂しくなる位人に頼らない。
 体調管理も、悩みも、全部自分で何とかする。‥しようとする。
 コリンが体調管理に失敗する‥なんてことは今まで無かった。
 それっ位、「普通じゃなかった」ってことなんだろう。
 自分の体調不良にも気付かない位‥コリンは気を張っていた。
 コリンが今の状況に緊張しているのは気付いていたが、‥ここまでだとは正直思っていなかった。
 ただ、「何時かは頼ってくれたらいいのに‥」なんて悠長に‥思っていただけだった。

 そんな自分の不甲斐なさが憎らしい‥。


「眠りは魔力の回復に充てるから、睡眠時間を削るのはちょっと‥」
 森にいたとき、「寝ずの番」が出来ないことをコリンはシークに詫び、
「その代わり結界の自動攻撃を強化しておきますからシークさんも寝て下さい。‥僕だけ寝てたらちょっとわるいなあ‥って」
 って眉を寄せて困り顔をした。
 ‥魔力の回復の為に寝るのに、寝ている間も魔力をつかったら回復できないんじゃ‥
 ってその時シークが聞くと、、
「自動攻撃の強化くらいだったら、そう魔力を使うもんじゃないんです」
 ってコリンは笑った。
 うそだ‥絶対、普通の人の感覚じゃない。コリンだから「そう使わない」って言えるんだ‥。
 って、その時思ったのを覚えている。
 コリンは
「眠っている時は、色々考えないで済みますから。僕ね、結構「要らない事」色々考えちゃうタイプだから、‥起きてたら、それだけで疲れるんです。寝るときも、そりゃ危険なことはあるとは思うんですけど、この程度の魔獣だったらなんとか自動攻撃でしのげます」
 時々、「考え事」を放棄して、自動攻撃に丸投げして寝ちゃうことにしているんです。
 って、困ったように‥恥ずかしそうに‥笑った。

「魔力の回復」
 って言ってたのが、成程なって思う位コリンの眠りは深いんだ。
 ‥ちょうど今みたいな感じだ。寝がえりはおろか、表情一つ変えない。ただ規則正しい静かな寝息が聞こえることで、「生きてるんだな‥」って思える位‥それこそ死んだように眠るのだ。
 魔術士っていうのは、みんなそんなもんなのか? と思っていたが、アンバーは
「確かに寝てるときに魔力を回復させるな。だから、魔術士は寝ずの番をしないことを条件にパーティーを組むらしいな。寝てるときは、それこそ、ぜんまいが切れたみたいに動かないから、寝てるときには全幅の信頼を置いているものを傍に置くのが普通。だから、ペアの魔術士は睡眠時間をずらしてお互いにサポートし合うんだってさ。俺は、ペアを組むとかそういうの嫌だし、‥そもそもそう魔力が減らない方だから、寝てる間に回復しなくても大丈夫なんだ」
 そういえば、俺は魔力切れとか無いな。
 ってぼそりと呟いた。
 自慢か。
 ‥こいつも「特別」だなって思った。
 回復が特別速い、とか魔力を効率よく使うとかしてるんだろう。
 シークは単純にそう仮定しているが、実は、アンバーは、大きな魔力を使用する魔術を使う際、自分以外の‥周りの魔力を無意識に利用しているから、大幅な魔力の減少が無い。あの時コリンはこのアンバーの性質に「何となく」気付いたが、アンバー本人に伝えていないし、コリン自体も仮説どまりで、確信を持てていない。
 確信を持ったら、きっとまたジェラシーで激怒するんだろう。

「コリン‥寝かせて来る」
 アンバーが、無言でこくこくと頷く。
 ちらっと心配そうにコリンの顔を覗き込んだアンバーに、シークは、「お前がしたんだろう」とため息をつきたくなる。

 ‥それにしても、軽い。
 細くって小さな‥華奢な身体。
 元々白い肌が、今は紙のように白い。
 血がかよっていないようにすら見える。
 唇も‥さっき、アンバーが奪った唇も真っ白で血の気が感じられない。
 美しい‥ビスクドールみたいだ。

 思えば、アンバーにコリンが昏倒させられたのは二度目だ。

 ‥一度ならずも二度までも‥って奴だ。
 その事実だけみたら、絶対味方じゃねえな。と思う。
 まあ、一度目は敵だったわけだが。

 コリンの身体を共同スペースのソファーに寝かせる。
 いつもコリンはコリン用に充てられた部屋(元々は資料室)で簡易のベットで眠っている様だが、コリンに無許可でコリンの部屋に入るのは憚られた。(というか、施錠されていて入れない)
 因みに、シークとアンバーは事務所前にそれぞれテントを張って寝ている。
 アンバーが自分のテントに超強力な結界をはっているのはいうまでもない。

「よく眠ってるね。しかし‥黙ってたらホントにコリンはただただ可愛いね~。
 手足が長い、ほそっちくて華奢な身体が庇護欲を掻き立てる‥。
 ‥なんかいい匂いするし、髪の毛サラサラで金色の糸みたいだし。顔ちっちゃいし。総てのパーツがこれ以上にない‥って位いい具合に配置されてるし。
 睫毛長いし。肌もしっとりすべすべつるつるだし。真っ白でシミ一つないし。それに、薄桃色の唇はプルプルで、‥すっごい柔らかかったし~。いや~、もう一回やりたいな~」
 シークによって、丁寧に寝かし付けられたコリンを改めて覗き込んで、つい呟いてしまったアンバーは次の瞬間、シークの無言の睨み(本日二回目)に震えあがることになるんだけど‥そんな(分り切った)ことが抜け落ちる位、眠るコリンはただただ愛らしかった。

「なんだよ~。ちょっとちゅってした位で‥。シークたちは恋人どうしなんだから、もっとスゴイこといくらでも出来るだろ?! 諦めきれない可哀そうなライバルがつい‥ちゅっとしちゃったくらい大目に見てくれてもいいじゃないか~」
 頭にこぶをつくったアンバーが不機嫌そうな顔でシークを見上げ、抗議する。
 眠っているコリンに遠慮して、小声だ。
 ちょっと逃げ腰になってるけど、正面からシークと向き合っているアンバーを褒めてやって欲しい。
「‥いや、恋人だから普通に、他の奴が恋人に触れたら怒るだろう。‥頭がおかしくなったのか? それとも、お前ほどのモテ男の貞操観念だと、そういうことは「まああること」なのか? 」
 声がいつもより、低い。
 (それよりなにより)顔が‥怖い。
 特にもう、目がさっきから、凍ってるの。
 いつもの「オカン~」なシークからは想像も出来ないの。
 雰囲気が、もう‥怖いの。
 寒い‥っていうか、もうここにいたくないって感じが‥凄いの。

 で、この後すぐ帰社した両親(ナナフル&ザッカ)にアンバーがめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない。


 因みに、

「ふたりは因みにどこまでいってるの? 」
 っていうアンバーの下世話な質問に、シークの本日二度目の鉄拳(グーでパンチだ)が落ちるんだけど、コリンの会社の父ザッカの耳がいつも以上にダンボだった。

 ‥シーク、返答次第では、貴様もただじゃおかねえ。

 って、目は殺し屋の目だったんだけどね。(怖いダンボもいたもんだ‥)
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