上 下
65 / 310

65.ホントに強いっていうのは。 アンバーside

しおりを挟む
「じゃ、俺はシークとコリンに守ってもらうわ」
 今度も目に涙が溜まる程笑いながら言うと、コリンは
「調子に乗んないでよね! 」
 ってぷい、ってそっぽを向き、シークは真剣な顔で
「アンバーは俺に助けてもらわなくても、自分で何とか出来そうな気がするが‥」
 何て言うんだ。

 まあ、確かにガキどもに助けられるようなことは無いな。

 ‥コリンは、確かに魔術の腕は一流だけど、挑発に乗りやすいし、感情が表情に出やすい。シークは冷静だし剣の腕はいいけど、魔術士に苦手意識持ちすぎだし‥あと、人が良すぎる。それは、コリンも一緒だな。‥悪ぶってるけどコリンはそんなに悪い奴じゃない。芯の部分は「暑苦しい」いい奴だ。‥非情にはなりきれない。
 バランスなら、俺が一番いい。

 何より‥馴れ合いは良くない。
 自分以外の他の誰かが心配、とか集中力を欠いてる様じゃ、ダメだ。
 だから、ここに居るのは俺にとって良くない。
 ‥ぬるま湯につかって、‥張るべき緊張の糸までたるんでしまってきている。
 気合を入れるために、きゅっと眉間に力を入れた。
 ‥ここに‥これ以上いるのは、俺にとっても、皆にとっても良くない。

 俺が、そうやって気合を入れ直しているのに‥
 ‥奴らは何の緊張感も感じてないんだ。
 全く、危機感を感じない奴らだ。
 常に危機感を感じる‥とか、‥日々の生活に不安を感じる‥とか、きっと今までそんな目に遭ったこと無いんだろうな‥。
 甘い。そういえるかもしれない。‥だけど、「そう考える状況下にいたにもかかわらず、それに気付かなかった」わけではない。「今までそんなことを考える必要が無かった」のだ。
 ‥そんな平和な状況下に暮らして来た奴らなんだ。
 シークは冒険者で、魔獣や野生動物に襲われるって危険は常にあっただろう。コリンも‥危ない仕事だ。だけど、精神を冒され自分の意志に無いことをさせられるわけではない。
 自分は、‥そんな奴らと敵対してきたわけではない。気がつかないうちに「そんな奴ら」の仲間というポジションにいたんだ。
 ‥気付かなかったんだから仕方が無いってものでは無い。
 俺は皆と違ってちゃんと自我があった。あったのに、楽しくって楽な方に流されていたんだ。
 ‥悪い奴が、皆「悪いことしかしていない」わけじゃない。ただ、‥楽しくって、悪いことすることに対して、普通の‥悪くない奴らより我慢とか躊躇が無いだけなんだ。
 以前の俺には‥確かにそういうところがあった。
 そう気付いたら、ますます皆と自分の前にあった壁が高くなった気がした。

 住む世界が違うって奴なんだろう。

 綺麗。汚い。白い。黒い。
 俺はどちらかに分類するならば、汚く、黒い方だろう。
 ‥コリンは、顔はああだけど、黒に分類される。誓約士は表には出てこない影の仕事だからね。‥だけど、悪事には加担しないだろうから、綺麗‥。
 シークたちは間違いなく、白くて綺麗。
 そんな彼らと俺は同じ世界に住めるわけがない。
 住む世界が違う。
 ‥そんなことすら気にしない、根っからの平和主義者で‥頭の中花畑な‥強い人たち。

 俺は、‥そんなに強くない。


「ねえ、アンバー。‥アンバーってさ。考えてることが全部顔に出ちゃうのな。そんなので良く悪の組織とかにいれたよね」
 いつの間にそこにいたのか、コリンが俺を見上げて呆れた顔をしている。
「え? 」
 はっとして、俺はコリンを見る。
 コリンは呆れ顔のまま苦笑いする。
「妙に律義だし、人の事気に掛けるし。シークさんの次位にいい奴だよね」
「‥何言ってるんだよ。シークの次はザッカたちだろ? それにお前だって‥」
 ‥悪い奴じゃない。
 いい奴じゃないけど。
「‥ザッカさんは、ナナフルさん絡みじゃないとそう「いい人」じゃないよ? 」
 ザッカが頷く。
「アンバーに冷たくしてないのだって、冷たくしたらナナフルさんが悲しむから‥とかそういう理由だと思う」
 またザッカが頷く。
「ナナフルさんは、正義と公平の人だから、それから外れた‥外道には容赦ないし」
 それにもザッカが(さっきより力強く)頷く。ナナフルはきょとんとした顔をしてちょこっと首を傾げている。シークも首を傾げる。
 容赦ないナナフルなんて想像つかないけど。とか思ってるんだろう。‥俺も思うけど。(シークも随分言いたいであろうことが顔に出てると思う)
 コリンが「まあ、想像つかないよね」って頷く。
 ‥そんなに俺って考えてること顔に出る??
 ‥出るらしく、またコリンが頷いた。
 コリンは真剣な顔で一度息を多めに吸って深く吐くと、
「それも、‥ホント容赦ないの。この前たった一度だけ朝のソーセージを皿に盛る前につまみ食いしたら、それ以来ずっと‥僕の分のソーセージが一本少ないの」
 真剣な顔で言った。
「へ? ソーセージ? 」
 つい反芻すると、コリンが頷いた。
 横でシークが「ああそういえば」と小さく頷く。
「あ、確かに毎日少ないよね。コリンが少食なんだって思ってた」
「寧ろその場で怒って欲しい‥」
 コリンが眉を寄せて肩を落とす。
 ナナフルは小さくため息をつくと
「あれは、コリンの信頼度です。コリンは「これ位はいいだろう」と小さな誤魔化しをした。だけど、人はそうは思わ無い。「この人は見ていないところで小さな誤魔化しをするんだ。‥バレなければいいってタイプなんだ」って思う。人々のコリンに対する信頼度は著しく減少する。つまり、あのソーセージは「あなたの信頼度はまだ回復していませんよ」という表示なのです」
 コリンを見つめて、静かな口調で言った。
「‥なるほど‥」
 コリンが神妙な声を出す。
 ザッカは苦笑いすると
「ナナフルは万事がこうだぞ? 」
 明るい声で言った。完全に他人事だ。
 成程、確かにシークの次にいい奴は「ザッカじゃない」。俺かどうかはわからないが。


 ‥万事きっちりと制裁を下す正義と公平の人‥。
 成程‥ナナフルはいい人には違いないけど、怖い人。
「全部精神攻撃なんだ。昔ナナフルに横恋慕してきた奴に俺が喧嘩を売ったら、怒ったナナフルに、結構長い間指一本触れさせてもらえなかったことがあった」
ザッカは若干困った様な‥ちょっと笑った様な「他人事の表情」で言葉を続けた。
「‥あ、うん‥」
 コリンが苦笑いする。‥その手の話、ナナフルって人前ですると‥凄く恥ずかしがる‥んだよなあ‥なんで、この人それを学ばないんだろ。
 ‥怒る顔も可愛い~! とか思ってるのか? だとしたら、頭湧いてるとしか思えないぞ。
「‥‥‥」
 ‥ああ、またナナフルさんが怒ってる。いわんこっちゃない。ザッカさん、きっと、その時の恐怖再びですよ‥!
 ザッカはナナフルから「その時の恐怖再び」攻撃を密かにうけた。
 コリンはナナフルにより「ソーセージ一本減らす」期間が延長された。
 それも、「一言もなしに」だ。
「「‥‥‥」」


「力がある人が生き残る‥弱肉強食を防ぐのは法による公平しかない。弱い者‥後ろ盾の無い者は生き残れない。‥そんな世界考えただけで怖いよ。
 力が無かろうと、お金が無かろうと、人々は生きる権利がある」
 静かな口調でナナフルが言う。
 凛とした‥強い姿勢だ、
「オッシャルトオリデス‥」
「その通りです‥」
 若干顔色が悪いのはコリンとザッカ。
 こくこくと頷く。
 そんな二人をゆったりと眺めてナナフルは
「私はね。皆にそのことをもっと知ってもらいたい。‥法も役所も金持ちの味方‥みたいな考えは捨てて欲しいし、実際にそんな役人たちは消し去っていかなければならない。だから、そんな役人の収入源になり得る魔薬を許すわけにはいかない」
 さっきより強い口調で言った。
 そして、皆が大きく頷く。

「そうだな」


 怖いって思ってる場合じゃない。
 ホントに怖いのは、この「不公平な時代」が続くことだ。
 貧乏人の‥冒険者の子供ならいなくなっても誰も気に掛けないってこと‥今まで気にもかけなかったけど、考えてみるとそれも「不公平」だ。金持ちの子供だったら出掛ける時も護衛をつけるし、いなくなりでもしたらおおさわぎだ。
 薬で人の人格を奪う‥そんなことも許されていいはずがない。
 あの村の「家族」たちをこれ以上不公平で横暴な環境に置いておいてはいけないし、‥これ以上俺たちと同じ様な子供たちを増やしてはいけない。

 本当の強さは「力の強さ」でも「ずるがしこさ」でも「魔力の強さ」でもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢
BL
【2020年12月20日完結、全69話、小話9話】 アデルは王国を裏で牛耳るヴィクランド侯爵家の跡取り息子。次世代の人脈作りを目標に掲げて貴族学院に入学するが、どうもおかしい。 寄ってくるのは男だけ! 女の子は何故か近付いてこない!! それでも将来のためと信じて地道に周囲との親交を深めて籠絡していく。 憧れの騎士団長との閨のレッスン。 女性が苦手な気弱同級生からの依存。 家族愛を欲する同級生からの偏愛。 承認欲求に飢えた同級生からの執着。 謎多き同級生との秘密の逢瀬。 これは、侯爵家令息アデルの成長と苦難の物語。 あやしい話にはタイトルの横に*を付けてます

処理中です...