上 下
44 / 310

44.コリンの情報源

しおりを挟む
 苦しそうなアンバーを見て胸が締め付けられた。
 だけど‥何て声をかけたらいいかは‥わからなかった。
 だって、何て声を掛けても、それは‥無責任で「所詮人事」な発言になってしまう‥って思うから。
 これからは、僕たちが一緒にいるから。正しいか正しくないか分からなかったら、僕たちも一緒に考えるから! とか‥無責任なことは言えるはずがない。そんなことできるはずがない。それこそ、上から発言だよ。何様って話だ。‥しかも、人一人の人生を背負えるような人間なんていやしない。
 人と人の関係に、‥おんぶにだっこな関係はない。そんな関係は‥無理なんだ。それじゃ、それこそ、‥洗脳のうえ監禁だよ。
 僕らが‥苦しんでいる友達‥って、アンバーは友達ってわけでもないけど‥、の為にできることは、傍にいること位だ。
 話を聞いて、一緒に悩んで‥、時には一緒に泣いたり、怒ったり‥。

 ‥っていうか、僕も「いつの間にか事実をあやふやにされて、自分で決めたって思ってた仲間」なんですけどね‥。(人の事は言えないのです。あえて言うなら、僕の方が長期戦じゃなかっただけで‥)
 ‥は、言わないけど。

「洗脳されてるの‥でも、俺だけじゃない‥よな? コリンだってそうだよな? 」
 ‥言わなかったけど‥やっぱり気付かれてたけど‥。
「‥僕? 」
 一応とぼけてみるけど。
「‥‥‥」
 ‥バレてるみたい。
「そもそも、表の人間が闇魔法のこと知るって方が、珍しいだろ? 」
「そう‥みたいだねえ。だけど、僕だってすんなり知ったわけじゃないよ? それこそ、悩んで‥探して‥そりゃあもう探した末に見つけたんだよ? 」
「だから、‥だからこそ不自然じゃなかったんだろ? そんなヤバい情報、すんなり手に入ったら罠だって思って、さすがのコリンだって近づかなかっただろ? ‥それに、あっさり手に入った情報はありがたみがない。景品をただで配るより、宝探しして見つけた方が価値がある‥って思うだろ? 」
 人間の心理って奴だ。
 でも、「犯人」はちょっと見込み違いをしていた。
 人間の心理で、「自分で得た得難い情報は、貴重でそして疑わない」は、‥そうだろう。それは間違いない。問題は、僕がそれを「貴重で得難い情報だ」ってわかってたか‥ってことなんだ。
 僕が「貴重な情報だ」って知ったのは、‥自覚したのは‥、つい最近だ。
 誓約士に必要不可欠な「威圧」が闇魔法だってこと、シークさんが知らなかったこと。
 あの時、「ああ。そうだった。シークさんは魔術士じゃないから知らないんだ」って思ったんだ。だけど‥その時ふと、‥でも、これって、教会の講義でも習わないな。‥何も、「魔術士じゃないから」知らないだけの情報じゃないかも。‥マイナーな情報かも‥。
 だけど、専門分野ってそういうもんだ。
 ‥とはいえ‥。
 一度気になったら、‥何もかもが引っかかり始めた。
 なぜ、教会長は誓約士を僕に勧めたの?
 ‥教会長は何故僕の相談にあんなに親身になって乗ってくれたのか。
 僕は、教会長と話した時感じた「正体の分からない違和感」のことをもう一度、順をおって思い出してみた。‥僕は、言われてすぐに「あれ? おかしいぞ? 」の原因がわかる程‥頭が切れるタイプではないんだ。だけど、気になる。だから、何となく違和感を感じたときは‥その一連の出来事がそのまま全部記憶されるんだね、そして、そのままずっと頭に常に蟠りみたいに残ってて‥常にもやもやしてて‥今回みたいに「そう言えば」って、かち、っと鍵が合うってことがよくある。

 牛の反芻みたいなもんだね。
 その場でかみ切らないで、胃に取り敢えず流しておいて、再び口に戻してきて再咀嚼する‥。

 「そう言えば」おかしかったんだ。

 何処が? じゃなくって、(今気付けば)そもそも「初めっから」おかしかったんだ。
 ある日、何時もの様に放課後訓練所で自主練をしていたら、教会長が見に来て
「君は、優秀だ。だからこそ、そんな優秀な君だからこそ‥他の人が悩まない様なことでも‥気になるんだろう。‥私はそんな君の助けになりたいんです」
 そう声を掛けて下さったんだ。
 僕は、悩んでいたことを教会長が知ってくれていたことに、何故か嬉しくなって(それ程切羽詰まっていたからね)、教会長に尋ねられるままに自分の悩みを打ち明けたんだ。
「君の悩みは、戦闘センスのなさですね? ‥だけど、それは訓練でどうこうなるわけではない‥それは君も感じていると思う。
 そればっかりは‥でも、仕方が無いと思う。
 出来ない事じゃなく、出来ることを‥君が得意で、出来ることから君の長所を探して行く方がいいと思う。
 まずは、君の出来ることから洗い直してみないか?
 君の属性は‥
 本当に、氷と雷だけだろうか?
 そこからまず考えてみたらどうだい? 」
 その言葉に、僕は雷に打たれたような衝撃を受けたんだ。
 その発想はなかった! って。さすが教会長だ! (これもポイントだったんだと思うんだ。同級生やなんかがアドバイスしてくれても、「何言ってんだ」って思っただろう)
 そして、その後一緒に考えてくださって‥、闇属性の適性がないか調べてみないか? ってなって‥調べに行ったら適性が僅かばかりあって(← 普通、多少なり‥なら、殆どの人間にある。あの後、闇属性について独学で調べた時に、気付いた)「じゃあ、それを伸ばしてみたらどうだろう。誓約士って仕事があるよ」ってなって‥。
 当時の僕は、それこそ「流石! 僕一人じゃ絶対思いつかなかったよ~」って長年抜けられなかった霧の道からようやく出られたような気になって‥夢中で適性を調べたり、誓約士について調べたりしたんだ。
 ‥でも、同時に「何か変だな‥」って冷静に感じている自分もいて‥(←この根っこの部分が冷静なのが、コリンが「氷属性」である所以。それ以外の、思い立ったらすぐに行動は、「雷属性」由来)

 やっと、今になって分かった。
 あの違和感の正体。
 生徒の悩みに気付いた時、教会長が直々生徒の相談に乗るってことは‥ない。 
 そこだ。
 しかも、あんな、タイムリーってのが、おかしい。
 
 教会長はあの時
「教会長としてではなく、一人の人間として君の悩みに寄り添いたくなったんだ」
 って言ったんだ。
「私は、元教師だったし、‥それ以前に元生徒として、君のもどかしい気持ちが良く分かるんだ」
 とも。‥そういえば、僕が「そうか、教会長は元教師だったのか」って思ったのは、その時の教会長の言葉だった。「教師のベテランだから、僕の様な生徒をたくさん見て来たんだろう」って納得したのを覚えている。
 でも、確かに、考えてみたら変だよな。元教師が、現役の教師を押しのけて言うことじゃあないよね‥。
だって「今、生徒の教育の全権を任されている」のは、現役の教師なのだから、現役の教師からしても「感じが悪い」んじゃないだろうか? 現役を退いた元教師が、話を聞いたり、アドバイスをしたり‥ってことはあるかもしれないけど、属性のことにまで口を挟むのは‥どうだろうか?
 現役の教師にしたら、私たちの事、信用してないんですか? ってならない? せめて、一言相談位ない? ってならないだろうか?
 それに、‥教会長って立場も悪いよね。
 明らかに、特別扱い‥依怙贔屓だって言われかねない行為だ。 

 特別扱い‥。
 普通なら、気付いただろう。
 自分が、「自分だけが」教会長に「特別に」目をかけられている。‥有頂天になるかもしれない。
 だけど、僕は「鈍くて」そのことに気付かなかった。
 だから、そのことに特別気を良くすることもなかったし、教会長に対して、通り一遍の尊敬の念しか持ち合わせていなかった。
 『普通なら』特別視されているってことに、気を良くして、また特別に親切にされたことによって教会長を神‥とまではいかないけれど、特別な尊敬の念をもって見るようになるもの‥なのかもしれない。そして、まんまと(言い方悪いけど)闇属性を習うことになり‥なかなかままならない結果に、更に努力を重ね‥努力を重ねれば重ねる程闇属性について考える時間が長くなり‥闇に染まっていく‥。
 だけど、僕は、彼の思惑通りにはいかず、あっさりと(そりゃあ、もうあっさりと! )威圧をマスターして、さっさと誓約士の資格を手に入れてしまった。
 それは、彼にとって大誤算だったはずだ。

 成程ねえ。

 僕が、「特別」「目をかけられたのは」彼が言うように「優秀」だったからじゃない。僕が負けず嫌いで、周囲の人間と孤立していて、‥冷静な判断力をなくす位悩んでいたからだったんだ。
 魔術の才能っていうのも、そりゃあったとは思うよ。洗脳して駒にするんだったら、優秀な人材の方がいいものね。
 だけど、それ以上に彼にとって必要だったのは、単純で、メンタルが弱くて、精神的に弱っていて、つけ入れる隙があって、人を容易に信じやすい直情タイプの「お馬鹿さん」。
 ‥確かに僕は、メンタルは弱い、直情タイプのお馬鹿さんだけど‥、彼が思う以上に、僕には魔術の才能と‥何より、魔力量があったんだ。
 そして、‥もっとも誤算だったのが、僕は人を信じやすくなんかない。
 僕は、闇魔法の講義中も、ずっと常時発動型結界はってたしね。‥あの時は、良く知らない先生だってことで、何時もの物理的攻撃に加えて、精神的攻撃にも対応する様な結界張ってたからね~。きっと、精神攻撃(洗脳)魔法かけても効かなかったと思うよ。いくら相手が自分より弱い魔術士だっていっても、新しい魔術を習っている時は、やっぱりいつもより周囲に対して注意力が散漫になるからね。いつもなら気付く精神攻撃(洗脳)に気付かないかもしれないからね。
 だから、常時発動型結界を張ったんだ。

 それ程、僕はあの頃「誰も」信用してなかったってこと。
 一緒に悩んでくれてありがとう~! って感謝しながらも‥ね。(感謝はしてたんだよ)いまでも、感謝はしてるしね。

 誓約士になるきっかけをくれたこと。
 それは確かに感謝している。
 おかげで、シークさんに会えたし‥。


 ‥だけど、それとこれとは話は別だ。僕を嵌めようとしたお礼は‥ちゃんと倍返しで返させてもらうよ‥。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢
BL
【2020年12月20日完結、全69話、小話9話】 アデルは王国を裏で牛耳るヴィクランド侯爵家の跡取り息子。次世代の人脈作りを目標に掲げて貴族学院に入学するが、どうもおかしい。 寄ってくるのは男だけ! 女の子は何故か近付いてこない!! それでも将来のためと信じて地道に周囲との親交を深めて籠絡していく。 憧れの騎士団長との閨のレッスン。 女性が苦手な気弱同級生からの依存。 家族愛を欲する同級生からの偏愛。 承認欲求に飢えた同級生からの執着。 謎多き同級生との秘密の逢瀬。 これは、侯爵家令息アデルの成長と苦難の物語。 あやしい話にはタイトルの横に*を付けてます

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...