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28.そして、シークの幸せ

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 じゃあ帰るね。って言ったコリンに、両親はこれでもかって程の生活物資を持たせた。「力持ちだから持てるよ」っていうのに、荷物は今、全部シークの腕に抱えられている。シーク曰く「両手がふさがってたら、転んだ時に危ないだろ? コリンは割とよく転ぶんだから」らしい。‥確かによく転ぶけどそれは、考え事をしていて前を見てないからだ。コリンは苦笑いをした。
 ‥シークさんも両親や兄さん同様過保護だなあ。
 なんて。

 魔術士でもあるコリンは、魔術オタクみたいなところがある。なんか日常で不便なこととか、おもしろそうなこととかを発見すると「これ、魔術に使えないかな」って思ってしまう。
 森にいるときは特に思った。時間があったからね。
 結果、前を見ないから‥よく転んだ。見てれば絶対躓かない様な石に躓いて転んだり、枝にぶつかったりした。
 それもこれも見ていなかったから。
 見てれば、こけない。
 だから、「転びやすい」って言われたら、それは違う。別に‥普段気を付けてたら転ばないし、運動神経やその他の原因があって転びやすいってわけじゃない。
 そんなことを考えながら歩いていたら、やっぱり転んだ。
「ほら」
 後ろでシークさんが笑っている。
 ‥そうか、シークさんがいるから安心して考え事をしちゃうんだ。

 幸せだなあ。

 僕はシークさんを幸せにできるだろうか?
 違う。
 出来るだろうか、じゃなくて、「好きなら幸せにしなきゃ」だな!

 今日は、バタバタした一日だった。
 でも、色々と得られることもあった。
 シークさんが僕の事少しは好きだって思ってくれてることも分かった。‥それは凄く嬉しかった。少しは好きだからシークさんは、僕を‥明日の保証されない自分と居させるのはダメだって‥思ったって。そんなこと気にしないでいいのに。明日が保証されてる人間なんて、この世の中に誰もいないし、もしいたところで、僕が一緒にいたいのは「明日が保証された誰か」じゃなくって、シークさんだ。
 明日があるから‥って、今日何もしない人より、明日はないかもしれないって、今日頑張ってるシークさんが僕は好きだ。
 好きが一番‥で暮らせるだけのお金は、自分で稼ぐつもりだ。お金が無いと、やっぱり「好きが一番」とか言ってられないからね。そして、僕はそのお金をシークさん任せにする気なんか勿論ない。‥シークさんを支える妻‥には向いてないらしいことがこの前分かったことだしね。‥いや、支えたい気は満々なんだけど、‥技術がね。
 美味しいご飯作って、あったか寝床、清潔なシーツに服‥そして、可愛い嫁。
 夢だったんだけど、現状は、‥ご飯は、今のところ、「男飯」が精一杯。あったか寝床tね布団を干すこと位‥って思うけど、僕は案外布団を取り入れ忘れるんだ。洗濯は実のところ魔法でちゃちゃっとしちゃうから、したことない。石鹸の香りって‥幸せって感じするよね。‥いつかは挑戦しよう。
 今のところ、可愛い嫁しか、自分の理想をクリヤーしていない。
 シークさんは‥両親も冒険者で、自身も冒険者。もしかしたら、冒険者って選択肢しかシークさんには浮かばなかったのかもしれない。
 でも、‥子供一人他にどうすることが出来ただろう。その日暮らしで精一杯。きっとつらいことも多かっただろう。だけど、シークさんは負けずに頑張って‥Sランクにまでなったんだ。
 僕も頑張って来たって思う。だけど、僕には常に帰るところがあった。実家だってそうだし、教会だって第二の故郷みたいなもんだ。そして、今はナナフルさんたちの雑誌社‥。
 僕はずっと恵まれていた。
 帰る場所だとか、心のよりどころだとか。僕は、シークさんにとってのそういう場所になりたい。
 冒険者をやめたその後の事。可愛い犬かなんかを飼って、暖炉でぬくもりながらホットミルクを飲む‥そういうのんびりとした老後をシークさんに送ってもらいたい。‥勿論僕と一緒にね。
 シークさんとの今日、明日‥明後日そして未来。
 冒険者として、この先一緒に行動するっていうのは、‥僕だって仕事があるんだから、無理だろう。一緒にいられるってのが一番だけど、そういうわけにはいかないなら、せめて僕がシークさんの帰る家になりたい。僕がいるから「明日も生きていかなきゃ」「生きていきたい」って思ってもらえるようになったらいいのに‥って思う。
 
 あ~、シークさんと結婚したい。
 結婚って言葉、子供が生まれるわけでもないのに必要か? って思うかもしれないけど、‥僕には随分大事な言葉にも思える。
 言葉一つで、今まで他人だった二人が恋人になって、夫婦になる。それって、凄いことだ。
 義理の親子にはなれるかもしれないけど、‥血のつながった親子にはどう頑張ってもなれない。だけど、‥夫婦は家族だ。それって、‥凄いと思う。


「結婚は考えてる? 」
 兄さんたちとシークさんがお酒飲んでる時、そんな話をしてるのを‥実は聞いてた。
 でも、僕ががっつり聞いてたらホントの気持ちシークさんが話してくれないかも、って聞いてないふりして、父さんの話を聞いてるふりしてた(←父さんの扱い‥)
 因みに、さっき「結婚は考えてる? 」って聞いたのは、リンク兄さんだ。
 シークさんは驚いて目を見開いて、‥一息ついて、きっぱりと否定した。
「俺には、まだそんな覚悟はありません」
 って。
 ‥そうだよね~。そもそも、僕が無理矢理「押しかけ女房」したわけだから、シークさんが僕の事好きかっていうのはまだ微妙だもんね~。
 ‥ちょっと、凹んだ。
「でも、可愛いとは思ったんでしょ? 」
 リンクが悪戯っぽいような‥悪い笑顔でシークを見た。
 ‥もう、やめてやって‥。
 コリンが心の中でそっと、リンクにツッコミをいれていると
「それは‥はい。でも、可愛いから付き合おうって思ったわけでもないです」
 シークが、苦笑いして、でも、きっぱりとした口調で言った。
 ‥嬉しい‥。
 可愛いとは思ってくれてたんだ‥。
 家族がいなかったら絶対抱き着いてる‥。
 後で抱き着こう。いや、‥この言葉は、自分一人で心の中に留めて喜びに浸ろう‥。
 シークの顔が赤いのは、酒のせいだけじゃないだろう。
「寧ろ、可愛いって思ったから、‥揶揄われてるって思いました」
「そんな‥」
 うわ、なんか声に出しちゃった。
「どうした、コリン? 」
「そんな、‥ああ、ソーセージ、父さんが食べちゃってる‥って」
「ああ、‥そんなことか。父さんが焼いてくる。それでいいかい? 」
 父さんがのっそりと立ち上がる。
「うん‥」
 ってか、ソーセージなんてどうでもいい。僕の前に座って、僕に話しかけといてよ。(←コリンは聞いていないけど)(←父さんの扱い‥)
 ってか、シークさん‥。
 ‥なんと! 揶揄うとな‥。
 無いわ~。そんな余裕なかったな~。兎に角、(僕に)巻き込まれろ巻き込まれろ‥って必死だった。
 ‥錯覚でも、流されてでもいいから、一緒にいて欲しいって‥。そんな気持ちだった。
 恋するプロセスなんて吹っ飛ばして、僕はシークさんと一緒にいたかった。
 ‥まさに押しかけ女房。
 ‥でも、そうだ。僕はシークさんの気持ちを考えてなかった。
 揶揄われたって思われてるとは‥思わなかった。迷惑がられてる、とは思ったけど。‥思ったけど、これは、初対面だから仕方が無い。今から挽回しようって思っただけだ。(←自己中心的にスーパーポジティブ)
「それは何故? 」
 リンクが首を傾げる。静かに、‥相手が話をしやすいように誘導している。鳴かないホトトギスの対処法、3タイプそのAの、「鳴かぬなら鳴かせてみよう‥」。
 ‥リンク兄さんは、怖いなあ。ほら、シークさん困ってるじゃない。シークさんを困らせないで? ‥でも、ちょっと僕も聞きたい。
「今までそんなこと、俺の周りには無かったことですからね」
 ふふ、っとシークさんが苦笑いした。
「俺から誰かにアプローチすることはまず無かったですね。こんな地味な顔だから、誰からもアプローチされることも無かったですしね。だから、自然と今までだれとも付き合ったことは無かったです」
 ‥皆、遠慮してたんだろう。
 だって、こんな何でもできるパーフェクトなイケメンに自分なんか釣り合わない‥って思うよね。
 よっぽど図々しく無かったら、イケイケゴーゴーでいけないよ。
 ‥僕は、‥頑張ったんです!
 可愛らしさは、多分‥今までの経験上そこそこあるようだし、職業的スペックもある。魔術ではそう負ける者はいない。
 なによりも、‥恋って遠慮してるばっかじゃ、掴めるものも掴めないで、横から誰か知らない者が来てかっさらっていっちゃうじゃない?
「ふうん‥」
 納得って顔‥した? 
 け、ハイスペックモテ男な兄さんは!
 そこは、「え~気付いてないだけじゃないの~」でしょう!? 兄さんってば、「まあ‥僕なら女の子がほっとかないけど、‥君ならほっとかれるのかもねえ」とか思ってんじゃないでしょうねぇ!? やだやだ、自意識過剰。(←リンクは何も言っていない。ただの、コリンの被害妄想)
「そうなんだねぇ‥」
 アデル兄さんまで、なんだ。
 ‥自意識過剰とか、あんまり褒められたものじゃないと思うよ!! いくら、二人そろってモテモテだっていっても、‥謙虚な心を忘れない方がいいと思うぞ!!
 兄さんたちと、シークさんは種類が違うイケメンなんであって、兄さんたちだけがイケメンなわけじゃないんだからね!!
 っていうか、兄さんたち、‥恋愛に興味とかなさそうだよね。モテてるけど、無関心ですよねとか、‥スカしてるの? って感じですけど?!
 この機会に洗いざらい話してもらいたいですけど?!

「‥兄さんたちはアプローチしたりするの? 」
 僕は、たまらず話に入って行ってしまった。シークさんが「いつから聞いてたの? 」って顔してる。‥可愛い。最初からとか‥言わないからね。
 兄さんたちは気付いていたんだろう。驚く様子もない。
「自分からは、無いな」
 は、アデル兄さん。
 ‥うん、無さそう。
「俺は自分から。待ってたら、ろくなのこないから」
 は、リンク兄さん。
 ‥因みに、自分から言ったこと、過去にあるんですか?! なさそうな気がしますよ?! なんだかんだ「あの子はここが‥」とか「あの子はココはいいんだけど‥でもね‥」とか言ってて結局は‥って感じじゃないの!?
 二人とも、さては恋愛音痴だな!? もしくは、消極的だろう!? なのに、人の恋路にだけどうこういうって、どいうこと?!

「だから、ま。人それぞれ‥でいいんじゃない? 」
 ‥そう言われちゃうと、なんか興味ないって感じで、寂しいですけど‥。
 ってか、‥ぶっちゃけ、兄さんの話よりシークさんの話が聞きたかった‥。
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